朝鮮特需に国内が沸く日々、坂井左織は矢島風美子に出会った。陰湿ないじめに苦しむ自分を、疎開先で守ってくれたと話す彼女を、しかし左織はまるで思い出せない。その後、左織は大学教師の春日温彦に嫁ぐが、あとを追うように、風美子は温彦の弟潤司と結婚し、人気料理研究家として、一躍高度成長期の寵児となっていく…。平凡を望んだある主婦の半生に、壮大な戦後日本を映す感動の長篇。「本の雑誌」2014年第1位。


戦前と戦後、その光と影。
戦争によって人の生き方はどう変わってきたのか丹念に追う。

Arika報告書v1アイコン同じ疎開先にいたことが縁で、義姉妹となった坂井左織は矢島風美子。左織は二人の子どもを育て上げる専業主婦の道を選び、風美子は子どもも持たず、料理研究家としてのキャリアを花咲かせていく。そこに見え隠れする、家庭や家族、老後に対する考え方の違い。戦争によって大きく変わった日本社会の50年間を、典型的な二つの昭和家族をモデルに見ていく長編小説。太平洋戦争があり、高度成長があり、バブル経済があった昭和。自分は平成生まれだとしても、昭和を生きてきた親や祖父母があるはず。つまり多くの日本人の心にはいまだに昭和の刻印が残っているように思う。不思議な再会をした昔の疎開仲間は、義妹となり時代の寵児となった。その眩さに平凡な主婦の心は揺れる。戦後日本を捉えた感動作。
 



角田光代
1967(昭和42)年神奈川県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。’90(平成2)年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、’05年『対岸の彼女』で直木賞、’06年「ロック母」で川端康成文学賞、’07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、’11年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞、’12年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、’14年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。