VOL・086

ほん運び大人だからこそ読んでほしい、今、とっておきの「ミステリー」3冊


 杉下右京の密室/碇 卯人 (著)

杉下右京の密室/碇 卯人

¥1,728
Amazon.co.jp

第1話『大富豪の挑戦状』
・右京の元に届いた大学時代の知人からの一通の手紙。それは、推理ゲームの招待状であったが、ゲームがいつしか一変して殺人事件となった――。

第2話『壁』
・ビルの屋上のジムで発見された腐乱死体。密室であったことから事故死と目されていたが事態は意外な変貌に…。

Arika報告書v1アイコン本格ミステリの定番である密室事件に挑む
杉下右京の活躍を描いた単独事件簿シリーズ第三弾!

『相棒』の主人公・杉下右京による事件簿の第三弾。今回も主役である杉下右京が単独で事件に挑む二部構成によるオリジナル小説。共通項として、両挿話とも密室殺人を描いており、それぞれ違った観点から事件を描いていて(両作とも特殊な建造物による密室殺人を舞台にしている点も含めて)面白い。人気テレビドラマ『相棒』のキャラクターを借りたファンサービス色の強い内容だろう、などと誤解するなかれ。定評がある本格ミステリー作家が別名義で贈るオリジナル中編集は、逆に『相棒』に馴染みのない読者に「ドラマのほうも見てみるか」と思わせる力ががある。もちろん『相棒』ファンも自認する向きは読み逃しませんよ。



 七色の毒/中山 七里(著)

七色の毒 (単行本)/角川書店

¥1,512
Amazon.co.jp

Arika報告書v1アイコンどんでん返しの波状攻撃!
『切り裂きジャックの告白』の犬養隼人が「色」にまつわる難事件に挑む!

どんでん返しはミステリーの華。もちろん結末の意外性にこだわるのはミステリー作家の習いだけれど、中山七里のそれは尋常ではない。本書『七色の毒』は、気鋭の著者の話題作『切り裂きジャックの告白』の犬養隼人が「色」にまつわる難事件に挑む、どんでん返し満載の全7編からなる連作短編集。現代日本の”時代の歪み”を象徴する社会問題をテーマに織り込みつつ、結末で読者をアッと驚かす職人的技芸が鋭さを増して畳み込まれている。





 死神の浮力/伊坂 幸太郎(著)

死神の浮力/文藝春秋

¥1,782
Amazon.co.jp

Arika報告書v1アイコンエンターテイメントのサスペンスでありながら気楽に読めるファンタジー!
前作『死神の精度』から8年ぶりの主人公・千葉の長編作。前作が6つの短編からできていたのに対して、本作は死神の調査のルールである7日間の毎日を綴るカタチに仕上げている。復讐譚だと言っていい。小さな娘を殺された両親は、罪を逃れた犯人の男に報復の死を与えようとする。と、骨子だけ書けばただひたすら暗鬱な話のようですが、そうは決してならないところが伊坂幸太郎です。死神って、浮力より重力のほうが似合っていますよね。でもこの作品を読むと、それとは正反対の印象。まるで死神の恩寵です。そして相変わらず千葉はミュージックを必要としていて、会話はより一層ズレまくっている。読んでいて笑ってしまうのは死神のセリフばかりなのも面白い。善と悪を相対化して第三者を気取るのは「現実的」でも、しかし虚しい。私らには伊坂の小説が持つ”浮力”が必要だと思う。冷たいけれども温かい、そんな不思議な「救い」が伊坂ワールドにはある。そして、今の日本の文壇で、伊坂がいなかったらホントにつまらないだろうな、と思う。