■大人だから楽しんで読める、大人だから読んでほしい様々なジャンルの『大人本セレクト』をレビュー!

VOL・085

ほん運び大人だからこそ読んでほしい、濃密な文体力で驚かされた「国内文庫」3冊


 光る牙/吉村 龍一 (著)

光る牙 (講談社文庫)/講談社

¥637
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Arika報告書v1アイコン元自衛隊の、期待の大型新人による傑作山岳小説!
『焔火』(第6回小説現代長編新人賞受賞)でデビューした作家の第2作。昭和初期の東北の寒村から現代の北海道へと舞台を移して森林保護管と羆の対決を描く。新人作家でダントツの喚起力あふれる濃密な文体が圧倒的。精神と肉体が軋みをあげていく試練の物語という、これは冒険小説の王道を歩む堂々たる小説。




 桶狭間 天空の砦/阿郷舜(著)

桶狭間 天空の砦/新潮社

¥価格不明
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Arika報告書v1アイコン戦国の覇者を産んだ電撃戦を、通説を覆しつつ描く波乱万丈の時代小説!
織田信長が今川義元に勝利した桶狭間の戦いは軍勢からみて信長は圧倒的な不利だった。何故勝利したのか…。著者はサバイバルの知識(これが凄い)を総動員して仮説をたてる。奇想だが、独創的で真実味がある。格調高い文体もいいが、天候と地形の細部を物語に生かす才能は何とも鮮やか。ミステリー/冒険小説の傑出した新人。




 去年の冬、きみと別れ/中村 文則(著)

去年の冬、きみと別れ/中村 文則

¥1,404
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Arika報告書v1アイコン世界がその動向に注目する中村文則、2013年唯一の書き下ろし小説!
ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は、二人の女性を殺した容疑で逮捕され、死刑判決を受けていた。調べを進めるほど、事件の異様さにのみ込まれていく「僕」。何かを隠し続ける被告、男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉、大切な誰かを失くした人たちが群がる人形師。それぞれの狂気が暴走し、事件は混迷の度合いを深めていく。事件の真相に分け入った時に見えてきたもの、それは――? 佐伯一麦『光の闇』(扶桑社)や辻原登『冬の旅』(集英社)など純文学のほうがノワールに接近する場合が多いが(2冊とも傑作)、著者・中村もその一人。『掏模〈スリ〉』のような純文学的ノワールではなくミステリーで、どんでん返しも決まっている。決まりすぎて小説のコクが薄まったけど、純文学&ミステリーファンは夢中になるだろう濃さがある。日本のみならず世界がその動向に注目する中村文則、2013年唯一の書き下ろし小説。