■大人だから楽しんで読める、大人だから読んでほしい様々なジャンルの『大人本セレクト』をレビュー!

$*音 楽 画 廊 2*
VOL・062


ほん運び大人だからこそ読んでほしい、注目すべきミステリー新潮流5冊



 HHhH (プラハ、1942年) /ローラン・ビネ(著)、高橋啓(訳)

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)/東京創元社

¥2,808
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Arika報告書v1アイコン2014年本屋大賞翻訳小説部門第1位!?
2013年に衝撃を受けた本!?ナチの高官の暗殺をもくろむ2人の青年を描いた「ノンフィクション」ノベルです。ハイドリヒの物語とそれを著す著者の物語の二重構造になっているが、感情的な著者の物語の層が邪魔になることはなく、むしろハイドリヒの物語のリアリティをより強める結果になっている。こういう歴史の描き方があったんだ!という意味で衝撃を受けました。「事実を記述することを徹底した小説」という新ジャンルの到来を予感させます。





 ムーンズエンド荘の殺人/エリック・キース(著)、森沢くみ子(訳)

ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)/東京創元社

¥972
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Arika報告書v1アイコン探偵学校の卒業生のもとに、校長の別荘での同窓会の案内状が届いた!
雪の山荘版『そして誰もいなくなった』、という帯の紹介がすべて。外界との隔離、通信手段の無効化と、まさに王道のクローズド・サークル。本格ミステリー好きにはお馴染みの舞台設定と「いかにも」な登場人物。間取りの不自然さ。密室トリックがしょぼ過ぎ。それでも登場人物を探偵学校の卒業生としたので、この状況下でも論理的に推理を進めていくところは好感が持てました。犯人がすぐ分かってしまうのが残念ですが、現代の海外作品でクリスティのオマージュが読めたのは収穫だし愛すべき一冊です。




 バッドタイム・ブルース/オリヴァー・ハリス(著)、府川由美恵(訳)

バッドタイム・ブルース 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕/早川書房

¥1,123
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Arika報告書v1アイコン良く練られた痛快ハードボイルド、正義と悪、両面を持つアンチヒーロー刑事登場!?
刑事としては腕利きだがギャンブルに取り憑かれて借金を重ねたニック。とうとう住む場所も失い、所持金も底をついた。管内で発生した富豪の行方不明事件に乗じ、今までの生活を打開しようと、この富豪の横領をたくらみます。刑事としての役得を悪用し、悪知恵を働かせ、このたくらみはうまくいきそうになるのですが、思いもよらない事態が次々と起こり、自身の策略に翻弄され、そして思いもよらない危機に襲われます。裏面の帯書(訳者あとがき)にもありますが、この主人公ニックの振る舞いには、「妙に肩入れ」してしまいます。目の前の事態に機敏かつ頑強に立ち回る姿は非常にカッコ良く、この作品にハードボイルドな味わいを加えています。スピーディーな展開に意表をつかれつつ、状況の展開、そしてラストで明らかにされる事実はなかなかよく練られていると思いました。ドタバタしていますが、楽しくあっという間に読めます。




 もっとも暗い場所へ/エリザベス・へインズ(著)、小田川圭子(訳)

もっとも暗い場所へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)/早川書房

¥1,123
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Arika報告書v1アイコン29カ国で翻訳、イギリスの女性作家さんのベストセラー処女作!
ミステリーというより、これはサスペンス、かなりホラー寄りのサスペンス好きにはおすすめの本作。4年前の出来事が原因で強迫神経症になってしまった女性が主人公。異常者に見染められたら逃れようがないということがありありと伝わる。主人公が恐怖で精神的にもすくんでしまうあたりの描写は説得力があるし、強迫的な行為をやめられないということも理解できるように思った。一気読み間違いなしです!!……というか、ラストが気になって途中ではとても眠れません‼‼ 現在と過去が交互に語られ、非常にスリリングな展開。4年前、幸せに満ちていた生活が少しづつ、少しづつ、狂気によって崩れ始め、追い詰められて行く様子はかなりキツい。原因が明らかになるにつれ彼女の病気の症状も更に痛々しく感じ息苦しささえ覚える。そしてどん底に叩き落とされた時の「恐怖」「屈辱感」「諦め」といった気持ちがリアルに描かれ、怖さよりも虚無感を感じるほどで、後半のスピード感は尋常ではありません。読み手が女性なら、まるで自分の鼻がめり込み骨が折られ、唇が腫れ上がる気がしてくるほど誰もが無力感に泣き出したくなるはずの強烈な暴力シーン。女性作家さんだからこそ描ける、女性がはまり込む(恋愛の)恐怖を緊張感たっぷりに手を抜かず表現したリアル作品。




 バイリンガル/高林 さわ(著)

バイリンガル/高林 さわ

¥1,836
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Arika報告書v1アイコン日本と米国、現在と過去が、 巧みに絡みあう新たなミステリー作品の誕生!!
大学部長選挙がらみに乗じて実子ではない娘を捨てようとした人種差別教授。誘拐された女の子は犯人を伝えていたのに通じなかった。幼児の構音障害がミステリの胆となるため、そこを面白いと感じられるかどうか。 これまで目にしたことの無い初めて体験したトリックで、興味を持って読み進められました。こんな暗号があるなんてビックリしたけど面白かったです。「発音」が謎解きの鍵になっているところが秀逸。ストーリーとしては、人種差別や国際結婚の大変さなど、一家族譚として受け取れる内容でした。広島出身のミステリー作家・島田荘司さんが関わる「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作。何よりシニア世代の新人の登場を応援したい気持ちでおすすめ。