ミステリー小説の90%は恋愛小説。
登場人物はあこがれの街に住み、料理の達人だったり愛犬家だったり。
そんなディテールの面白さと魅力的な登場人物、ときにおかしくて、ときにスリリングな謎解きが一体となったミステリー小説の楽しさを体験してみて!?
さて今回は、妻殺しの3冊。
将来の結婚願望がガラガラと崩れ去る。
そんなに妻が憎いのかッ!?、そんなおすすめ本なのが・・・
殺人事件で妻を亡くした書店員と妻殺しを計画中の主人公。
下心は自然と行動へと向かう。
そんな心理状態を描かせたらNO1の作者の妻殺し。
『妻を殺したかった男 』/パトリシア ハイスミス。
妻を殺したかった男 (河出文庫) (1991/06) パトリシア ハイスミス 商品詳細を見る |
妻を殺していない主人公が警察に疑われることで、その前に起こった妻殺しの犯罪が暴かれていく話なんだろうと思って読んでいたが、「謎解き」なんぞでなく「不条理」な物語で、ザ・バッドエンディングという感じ。
こんなに救いのない本は久しぶりに読みました。
コービーにさえ目をつけられなければ、ウォルターは平和に暮らせたはずなのに…。
些細な見栄から嘘を重ね、自分の抱いていた殺意を無視できずに転落していくウォルターの姿が読んでいて辛かったです。
警察が現代感覚では理解不能すぎて、主人公を追い詰めるあの展開に今ひとつついていけなかったが、でも好きな小説ではあった。
てっきり死んだ妻が夫を冤罪に陥れる画策でもしたのかと思ったんだけど…。
悪質でもない人間がまともに営んでいた日常の中で培う「人と人の信頼」の絆の儚さについて、絶望を覚えるようなストーリーだった。
やっかいな妻はなかなか死んでくれない!
「頼むから死んでくれ!」と冴えない中年男は叫ぶのだが・・・・。
『ウィンブルドンの毒殺魔 』/ナイジェル ウィリアムズ。
ウィンブルドンの毒殺魔 (ハヤカワ ポケット ミステリ) (1993/04) ナイジェル ウィリアムズ 商品詳細を見る |
主人公は毒殺魔なんかでは全くないし、そもそもミステリですらありません。
冴えない四十男がもはや苛立ちと恐怖しか感じなくなった妻を毒殺しようと目論むのだけど失敗を繰り返して無関係な人が次々と死んでいくというブラックなコミック・ノベル。
サプライズ的な意味でのミステリ性は薄いけど、“中年の危機”を描いたお話としてふつうに楽しめるし、ベタな筋に薬味として乗せられたオフビートさの配分は悪くない。
個人的には台詞の“!”をもういくらか少なくしてくれた方が夫婦の会話に微妙なニュアンスが出てよりよい案配になったような気もした。
倦怠期のあげく妻を憎むに至ってしまった中年男性が、若いころの恋愛感情の再燃にはほど遠いものの、妻への愛と心の穏やかさを取り戻す、という、いわば「よくある話」です。
それが大まじめな主人公の語り口で味わい深く感じられ、思い込みだけ大冒険の平穏な日常がいきいきと趣のあるものに見えてくるのです。
日本人なら妻を殺そうとしてドタバタする滑稽さを強調するだろうけど、英国はドタバタしてやたら暗めに展開されるのは国民性ってやつでしょうか?
妻が夫が必ず殺されるといっても過言ではない、スレッサーの短編小説世界。
試しにこの中の短編「女の力」をお試しあれ!
『ママに捧げる犯罪』/ヘンリイ・スレッサー。
ママに捧げる犯罪 (ハヤカワ・ミステリ 846) (1980/01) ヘンリイ・スレッサー 商品詳細を見る |
短編の名手、ヘンリイ・スレッサーの短編16本。
『たとえあなたがドロボーでも、この本はお金を出して買って下さい。ゆめゆめクスネたりしてはいけません。そういう種類の犯罪を描いた本ではないのですよ、これは。さて、ここにある犯罪の物語ですが、どれ一つとっても心温まる傑作で、ドロボーの計画を考える暇もあらばこそ、すっかり夢中になってしまうこと請け合いです』・・・アルフレッド・ヒッチコック
ヒッチコックによる前書きが、いきなり皮肉でウケる。
ヒッチコック劇場というTVドラマに使われたもの(小説が先かドラマが先かはよくわからない)を纏めた短編集。
「犯罪」と付いてるくらいなので、犯罪者視点のクライム・ミステリーが多いけれど、全部が全部そうという訳でもなく、基本古いし、ヒッチコック劇場は見た覚えがなくても見てる可能性もあるので、オチはかなり読める。
その中でも短編『女の力』は、病身の妻はヤキモチ焼き。それでもアーノルドは職業安定所から来た若いグレコとできてしまう。そして薬を少しずつ多めに料理に添加して殺そうとする。しかし浮気がばれてグレコは追い出されてしまう。新しいデブのおばさんにアーノルドは再び殺人を勧めて・・・は必見!
また『母なればこそ』は、落ちぶれた母親が、富豪の元に昔の子を引き取りに行き、断られる。何とかならぬかと思案するうち、弁護士に勧められてその子を誘拐することにする。ところが誘拐した子は別人。弁護士は富豪の手先でうまく載せられてしまった、血のつながりを信じたがゆえに悲劇。
ママをはじめ、家族の方々に捧げる美しく、悲しく、そして皮肉な犯罪の物語!
■ ■ 読 書 後 記 ■ ■
さまざまな殺人事件があるけれど、妻殺しほどはっきりした殺人ジャンルが成立しているものはほかにない。
そこに書かれている妻=傲慢オバサンの醜いこと。
女性の私が読んでいても、思わず「夫よ、がんばれ!」と応援してしまいたくなるほど。
これを反面教師として将来の結婚にのぞめば殺されることもない?
いつまでも「しあわせになろうね❤」と誓い合ったままの二人でいたいものです。