日本の殺人 | 雑読日記

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読んだ本の感想など

「本の雑誌」で紹介されていて興味を持ちました。
河合幹雄「日本の殺人」です。

読み始めた当初、私は「本の雑誌」で絶賛されていたほど
本書に価値があるとは感じませんでした。

だいたい20ページから30ページぐらいにかけてでしょうか。
日本の殺人を分類した場合に、ほとんどのケースが下げ止まり
つまり減少傾向が鈍化している中で、「嬰児殺」、すなわち乳児を
被害者とする殺人だけが減少し続けていることを説明しています。

その理由について著者はいくつかの推論を述べていますが、
私にはそれらがあまり説得力のある説とは感じられず、
むしろ本文で

 このような考察をすすめれば、(中略)
 少子化は、嬰児殺の減少の説明にはならない。
 (本書26ページより引用)

とばっさり切り捨てられている、「出生率の減少」のほうに
「母集団が縮小すれば子集団は縮小する」という単純な原理に基づいて
大いに説得力があるように感じました。
(ついでに言うと、「人工妊娠中絶に対するハードルの低下」もあるかも)

これ以外の話でも、どうにも著者の推論に推論を重ねるような
論調が多く、どうやら「ハズレ」だなと感じていたのですが、
それは大きな間違いで、最終的には現代日本人の必読書かも
とまで思うようになってしまいました。(笑)

皮肉なことに、「日本人の殺人」と題していながら
もっともページを割いている「第一章・殺人事件の諸相」は
前述の通り、椅子の上に椅子を置くような推論の積み重ねであり、
著者個人にとっては根拠のあるものなのかもしれませんが、
本書を読む限りではあまり充分な内容とは思えません。

しかし、第二章以降の警察・検察や司法、刑務所等の組織やその役割、
あるいは被害者・加害者・社会それぞれの立場における考え方、
法律、マスコミの果たす役割や位置付けなどに対する
著者の「意見」は非常に合理的でレベルの高いものであると感じました。

裁判員制度が始まり、「刑事事件」という存在は、
たとえ巻き込まれなくとも他人事ではなくなりましたので、
現代日本人の責務として意識を改める意味で、
本書を読まれることを強く強くお勧め申し上げます。

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