本作の著者・荻原浩氏も
「四度目の氷河期」で第136回直木賞の候補になっています。
荻原浩氏といえば、昨年に渡辺謙主演で映画化された「明日の記憶」を
思い出される方も多いのではないかと思います。
「メリーゴーランド」は、刊行順としては
その「明日の記憶」の一つ前の作品ということになります。
主人公は東京の民間企業を辞めて、故郷の地方公務員となった2児の父。
その主人公が、事なかれ主義、お役人根性丸出しの周囲に
負けそうになりながらも、斜陽のテーマパークを盛り上げる、
というストーリーの骨子は「よくある」といった類のものですが、
そこは手練の作家、しっかり読ませてくれます。
目を引くのは、手がけたイベントが成功しても物語が終わらず、
後日譚がある程度の分量を割いて描かれているところでしょうか。
これは、上手いな、と思いました。
主人公がクセのある仲間たちと、工夫を凝らしてピンチを切り抜け、
赤字テーマパークにお客さんを呼び込む。
結果は大成功、あぁよかったね、カタルシス万歳!
クライマックス大盛り上がりの中、大団円。
最後に数行おまけで、その後も順調であることを示して終了。
普通はこんな感じで小説が閉じてしまいますが、
それってなんか作り物っぽい終わり方だなぁ、
と思う人も多いかもしれません。
本作は、そんな安易な終わり方を否定します。
現実はもうちょっと大変なんじゃないの。
ひとつ坂を越えても、大抵の場合は次の坂があるもんだ。
そういった、どこまでもどこまでも次のある、
続いてゆく現実の生活と出来事。
それをしっかり描いてくれる作品というのは
あまりお目にかかりませんが、本作はそんな珍しい小説です。

荻原浩 「メリーゴーランド」 新潮文庫 620円
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