9時前、祖父が亡くなった。




座敷に運び込まれた身体はまだ
暖かかった。




祖父危篤の報せから少しして
私と子供たちは実家へ帰り、
この日に向けて準備をしていた。




今まで介護その他で実質的な世話をしてきた
実家族は淡々としたものであるが、
かつての祖父のパワハラぶりを知る私も
移動用の布に包まれた祖父の遺体を見ると
予想外に涙腺が緩んだ。




たまにしか会ってこなかったせいもあろうが、
祖父の横暴かつ傍若無人な
振る舞いの数々の記憶も
遺体というものの持つ圧倒的な質量の前には
無敵ではいられなかったようだ。




私はそこに来たるべき自分の未来を見た。
少し恐ろしい気もした。
なぜかシワがすっかりなくなり
平べったく薄黄色く緩んだ顎のその顔には
永遠の平穏しかない。





家族は実務で忙しくし、
私はお客様気分で目頭を熱くし、
葬式は祖母、大叔母と同じ日になりそうだ。





この祖父の件で私は実家へ帰り
コロナを押して
母と様々な時間を過ごすことができた。
また母は、祖父よりは長く生き延びた。





母も、祖父も、コロナ課長も、
死とはどんなものかを
実地で私に教えてくれている。




私はそれをきちんと活かして
生きていけるだろうか。