命のバトン ― 文鳥バイちゃんの死と、受け継がれていく命
その夜も、いつもと同じように、17羽の文鳥たちを寝かせるためにケージを見て回っていた。最後に、バイちゃんとももちゃんのケージを覗き込んだ。ツボ巣の中には、白文鳥のももちゃんが一羽だけいる。いつもなら、そこには必ず2羽並んでいるはずなのに。「あれ?」胸がざわっとした。バイちゃんの姿が見えない。嫌な予感がして、ふとケージの底を覗き込んだ。そこに、バイちゃんがうつ伏せで倒れていた。頭が真っ白になった。慌てて手に取ると、体はもう、冷たくなりかけていた。「バイちゃん、死んじゃだめだ。お願いだから、目を覚まして!」そう声をかけながら、何もできない自分がそこにいた。なぜ、もっと早く気づいてあげられなかったのだろう。ほんの少しでも異変に気づいていれば、もしかしたら、助けられたのではないか。後悔が、次から次へと押し寄せてきたノーマル文鳥のバイちゃんは、うちに迎え入れた最初の文鳥たちの一羽だった。2020年生まれ、5歳。決して短くはない時間を一緒に過ごしたはずなのに、それでも、「まだ早い」と思ってしまう。何度、命との別れを経験しても、この瞬間には慣れない。ケージの中にぽっかり空いた場所が、現実を突きつけてくる。その一方で、すぐ隣のケージでは、雛たちが生きている。巣の中で、ぎゅうぎゅう詰めになって、口を開けて、必死に生きようとしている。今朝は、その雛の一羽が巣から下に落ちていて、思わず息をのんだ。幸い、落ちてから時間は経っておらず、大事には至らなかった。でも、巣から落ちて命を落とすこともある。何度経験しても、「責任重大だ」と背筋が伸びる。悲しんでいる暇は、雛たちは待ってくれない。ふと、思った。バイちゃんの死と、雛たちの誕生。この二つは、決して切り離された出来事ではないのかもしれない。一つの命が役目を終え、そのすぐそばで、新しい命が走り出す。まるで、リレーでバトンが手渡されるように。誰かが走り終え、誰かが受け取る。バトンは、止まらない。命は、いつか終わる。それは生き物である以上、避けられない。でも同時に、命は確かに受け継がれていく。悲しみの中で、それでも世話を続け、餌を用意し、巣を見守り、放鳥の時間をつくる。そうやって今日も、生きている命と向き合っている自分がいる。バイちゃん、ありがとう。君がいた時間は、確かにここに残っている。そして今日も、巣の中では、新しい命が息をしている。