6.悪友Oとの歴史的会話


翌朝登校した私はさっそく級友のOをつかまえ、かまやつアニキがしでかした事件の話で大いに盛りあがった。


さて。問題の事件の翌朝。教室でのワタシたちの押し殺した会話:

O「見たかよ? 昨日のスパイダースってバンド。首の後ろにエレキギターを回したシーン。ビックリしたぜ」

私「見たよぉ。かまやつひろしだろ。どっこい生きていた、だなぁ」
O「4人目のひろしに成り損ねてだよ、クスブッテタかまやつがドラキュラのごとく復活だ。世の中ワカランな」
私「ホント、ワカランことだらけだな。生きにくい世の中になったもんだ」

O「ワカランのは物理だけでタクサンだぜ。なぁ」


3人ひろしというのは、水原ひろし、守屋浩、井上ひろし。1959年から60年頃にかけて相次いでロカビリーから歌謡曲に転進し、大ヒットを飛ばして一世を風靡した。


守屋浩は浜口庫之助の『僕は泣いちっち」。水原弘は永六輔作詩、中村八大作曲の『黒い花びら』で鮮烈なデビューを飾り、井上ひろしはリバイバル曲の『雨に咲く花』をヒットさせた。


ひとりだけヒット曲がなかったのがムッシュだ。「みんな華々しくデビューしたのに、俺ひとり蚊帳の外でした。ひろしです」と言ってたかどうか、今となっては確認のしようがありません。