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検察側が示した有罪の証拠と、それに対する弁護側の反証。これらの要点にいく前に、ちょっと思い出したことをひとつ。


スペクター被告の最初の弁護団にいたサラ・キャプラン弁護士。彼女は大陪審で、同じ弁護チームにいた法医学の権威リー博士が事件現場から何か白い物を採取したのを見たと証言します。

ところが公判では一転。依頼人の特権を理由に涙ながらに証言を拒否。フィドラー判事から法廷侮辱罪を宣告され、結局は公判で証言することを承知する。

ここまでは書いたんですが、肝心のその後を書いておりません。実はグーグルで検索しても関連の記事が見つかりませんでした。

この間、リー博士は中国に出張しており、アメリカに戻って証人として公判に出ることは拒否。以前の証言を文書にしたものを掲出することで出廷に代えていた。

おそらくキャプラン弁護士は証人として出廷し、大陪審と同じ証言をしたものと思われます。しかしリー博士は事件現場からキャプラン弁護士が言うような物は採取していないと証言しており、法廷に提出した文書にもそう書かれているはずです。

この問題は結局はウヤムヤで終わったんでしょうね。双方の証言の食い違いは埋めようがない。どちらかが不正直なのか、それとも勘違いなのか。

いずれにしろ陪審員の目から見れば、弁護側の証人の信頼性に小さな疑問符がついたのは間違いないでしょうね。

では次回は間違いなく、検察側と弁護側、双方の主張の要点を。長かったこのシリーズもあと数回で終了です。あくまで一旦のの終了ですけどね。




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スペクター被告がラナ・クラークソンを殺害したとする検察側の主張

弁護側の反論:

検察側の主張:

1.スペクターには自分の思い通りに動かない女性を銃で脅す性癖がある。椅子に仰向けにもたれて死んでいたラナ・クラークソンはハンドバッグを右肩に下げていた。これはラナがスペクターの屋敷から立ち去ろうとしていたことを物語っている。スペクター被告は彼女を止めようとして銃を抜いた。これは彼の性癖なのだ。

この主張を補強するために検察側はスペクターの恋人だった4人の女性を証言台に立たせた。

弁護側の反論:
弁護側に有効な反論はなかった。ブルース・カトラー弁護士も打つ手がなくて苛立っていたようだ。スペクター被告がメディアに、あの女たちは金目当てさ、テレビに出たいんだろ、と毒づくのが精一杯のところだった。

ただ、これは状況証拠にすぎず、ラナ殺害の直接の証拠にはならない。弁護側は証人たちの言葉ではなく、科学がスペクター被告の無罪を立証すると反論する。

検察側の主張:

2.銃声を聞いて事件現場に駆けつけたお抱え運転手のソーサにスペクターは被告は、『俺は誰か殺したようだ』と話した。事件直後の被告の言葉だけにソーサの証言には重みがある。

弁護側の反論:

ソーサはブラジルからの不法移民で母国語はスペイン語であり、英語の能力には疑問がある。スペクター被告の言葉を勘違いしたか、または不法移民の罪を軽くしてもらうために警察におもねった証言をしているのではないか。

注:スペクター被告は『I think I killed someone』と言ったとソーサは証言しています。直訳すれば『俺は誰かを殺したと思う』です。事件直後にこれを聞いた警察は、決定的な証拠だ、犯人はスペクター、事件は解決、と思ったでしょうね。無理もない。ただ、そのために初動捜査がおろそかになった。リー博士に事件現場から何か採取されたらしいのも、これが原因です。シンプソン事件の教訓は生かされなかった。



検察側の主張:
3.スペクター被告が事件当日に着ていた白いジャケットにはかなりの量の返り血が付いていた。これは被告が3フィート以内の至近距離から銃を発射したことを物語る。被告は銃をラナ・クラークソンの口に入れて発射した。

弁護側の反論:
返り血は6フィート以上も飛ぶことがあるという法医学の研究論文がある。[弁護側はこの法医学者を証人台に立たせた]

依頼人のスペクターはラナより背が低い。6フィートを超える長身の上にヒールを履いていたラナの口に銃を入れることなどできるはずがない。ラナは自殺か、あるいは事故で自分自身を撃った。銃が発射されたとき依頼人のスペクターはラナ・クラークソンから離れた位置に立っていた。

検察側の主張:
4.犯行に使用されたリボルバーはスペクターの屋敷の箪笥のなかにあったものだ。残されたホルスターにぴったりと合い、発射された銃弾も箪笥の中に残されたものと同じ種類だった。

弁護側の反論:
被告が発射したのなら指紋が付いているはずだ。リボルバーのどこからも被告の指紋はもちろん、DNAも発見されなかった。科学はスペクター被告が銃に触っておらず、発射してもいないことを証明している。中立で厳正な科学は被告はラナの死に無関係だと語っている。