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ラナ・クラークソン少女の頃のポートレート



2007年4月
陪審員の決定と公判を前にしての検察側と弁護団の応酬

ラナ・クラークソンの死は女優としての将来性を悲観しての自殺だ。フィル・スペクターの弁護団はそう主張する。

近づく公判を前に、こうした弁護団の主張を制限するように検察側は判事に要求した。

ラナ・クラークソンの医療記録を見ても、彼女が鬱状態に陥って自殺まで考えていた兆候はなにもない。検察側は弁護団を批判した。

ラナ・クラークソンは麻薬の使用歴があり、またB級アクション映画の女優だった彼女は銃の扱いも手慣れたものだった。彼女が自殺する理由として弁護団が提示する証拠を、検察側は不適切で偏見に満ちたものだと一蹴する。

検察側はさらに、ラナ・クラークソンのパソコンから見つかった未完の回想録と彼女が出演したテレビ番組のDVDクリップも公判から外すように求めた。

彼女の回想録には若い頃にコカインを使用した経験があることが綴られており、DVDクリップには彼女が銃を持って登場し、性的内容をほのめかすシーンも少なくないという。


しかし、ラナ・クラークソンが映画やテレビの中で銃を振り回していたとしても、それを現実と混同してはならない。検察側は主張する。

「その種のシーンはあくまで演技だ。被害者は他人が創作したシーンを演じ、他人が創った台詞をしゃべり、他人の指示で動いていたにすぎない。映画やテレビ の中のキャラクターがラナ・クラークソン自身と異なるのはアンソニー・ホプキ ンス氏がハンニバル・レクターでないのと同じだ」と。





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検察側にとって厄介な弁護側証人は『ブレントウッドのブロンド美人たち』を書いた劇作家、ジョン・バロンズだ。この劇を自ら演出したバロンズ は、キャストのひとりとして出演したラナ・クラークソンをマリリン・モンロー に譬えていた。

「ラナはあのくらいの年頃の女優の典型だった。“40才になるまでに有名になら なければ橋から飛び下りるまでよ”とよく口にするようなね」

彼はさらにラナを“不器用であぶなっかしい女優”と評し、「間違って自分を撃 ってしまうことだってありうる」と言っているという。

もちろんスペクターの弁護団は彼らを証言台に立たせて思う存分にしゃべらせる つもりだ。「検察側はラナ・クラークソンの全体像を陪審員に知られたくないの さ」とローセン弁護士は言う。

「彼らの証言は検察側とは異なるクラークソン像を浮かび上がらせるものだ。彼 らが公判で証言すれば、ラナ・クラークソンは誤って自分を撃って死んだのだと 陪審員たちは結論づけるはずだ」






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2007年4月


陪審員のメンバーが正式決定に

今週、ラナ・クラークソン殺害の容疑で起訴されたスペクターの公判で陪審員を務める12人の男女が決まった。審理は早ければ来週にも始まる予定だ。



陪審員の男女別の構成をめぐって検察側と弁護側が最後の攻防をくりひろげた。

弁護側は被告に不利と思われる女性を陪審員から除こうと画策している、という検察側の主張にフィドラー判事は同意せず、未決で残っていた6人の陪審員には男性4人、女性2人が最終的に任命された。これで陪審員団の構成は男性9人、女性3人となった。

1995年のO.J シンプソン事件以来のセレブの殺人事件として話題を集めた裁判の審理がようやく始まる。



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法廷に現われたフィル・スペクター被告



2007年4月25日

冒頭陳述が始まる


事件から4年以上を経た今週の水曜日、やっと公判が開始。検察側は陪審員を前に冒頭陳述を行なった。

伝説のプロデューサー、フィル・スペクターは『ある条件、ある状況のもとでは冷酷で邪悪な人間に変貌する』。アラン・ジャクソン副地方検事が陳述のハイライトとも言うべき部分を読み上げたとき、テレビ中継のライトに照らされたスペクター被告は緊張しているようにみえた。

『2003年2月3日。被告は弾をこめた銃をラナ・クラークソンの口に入れ、引き金を引いて彼女を死に至らしめたことを証拠は指し示している』

スペクター被告はこれに対して無実を主張。このあと弁護団の冒頭陳述が始まった。