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ブルース・カトラー弁護士
マフィアのゴッドファーザー ジョン・ゴッチの弁護人だった。



2004年8月25日(事件から約1年半)

60~70年代にはビートルズやストーンズなど、ロック界のスーパースターと仕事をしていたフィル・スペクター。21世紀の今も彼の名前には相変わらず綺羅星のようなスーパースターの名前がまとわりつく。

だが、その名前はロック界ではなく法曹界の大立者の名前だ。それも今回はブルース・カトラー弁護士だ。

最初の弁護人だったロバート・シャピロを今年2月に解任。女性弁護士のレスリー・アブラムソンに乗り換えたと思ったら、今度はスペクターは彼女の首を切ってブルース・カトラー弁護士を雇った。レスリー弁護士が国外にいる時を狙ったような電撃的な解任劇。彼女とはわずか半年の蜜月だった。事の詳細の説明を彼女は拒否した。

ニューヨークから電話取材に応じたカトラー弁護士は、フィル・スペクターとは古くからの友人で、レスリー弁護士が事件を引き継ぐ前からスペクターの個人弁護士として契約していたと語った。

「私が依頼人と契約したのは今年の1月。レスリー弁護士が事件の弁護人になったのは2月だ。彼女たちは船を下りた。船を操縦して無事に港につけるのが私の役目だ」




ブルース・カトラー弁護士はマフィアのガンビーノ・ファミリーのお抱え弁護士として連邦検察官にマークされてきた曰く付きの弁護士だ。




彼は組織犯罪のボスとして起訴されたマフィアのゴッドファーザー、ジョン・ゴッチを弁護。3回の公判を勝利に導いた。

だが、ほかの被告たちについてジョン・ゴッチと電話で話しているのを捜査当局に盗聴されたブルース・カトラーは、審理に不適格として弁護団から外され、ジョン・ゴッチもついに有罪となる。ゴッチは2002年に獄中で死んだ。

凄腕のブルース・カトラーが引き継いだラナ・クラークソン殺人事件。予備審問の期日は10月20日に決まったが、カトラー弁護士は延期を要求している。公判のスピードアップに協力するにはまず膨大な資料に目をとおす時間がほしいとのことだが。いったい公判はいつ始まるのだろうか。


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法廷のフィル・スペクター



2004年9月15日(事件から1年7カ月後)

スペクター事件の公判、延期される

ブルース・カトラー率いる新しい弁護団に準備の時間を与えるため、司法当局は スペクターに公判の延期を許可した。ロサンゼルス最高裁のカルロス判事は予備 審問の新しい期日を12月16日と決定した。

世間の注目を集めている事件であるため、審理の延期は予想の範囲内と検察側の スポークスマンは語った。「我々が亀のような事件を扱うのは珍しいことではな い」と。

一方、スペクターに新しく弁護人に任命されたブルース・カトラー弁護士は、依頼人の汚名を晴らす自信はあると語った。「この事件はもともと起訴に値するものですらなかった」とカトラーは言う。「我々の目的は無罪を勝ち取ることだけでなく、世論の法廷でも無実を勝ち取ることだ」

「犯罪などなかった。ラナ・クラークソンは自分で自分を撃った。我々は地方検事が隠してきた証拠を明るみに出してみせる」と語るカトラー弁護士。彼が率いる弁護団には強力な助っ人がまたひとり加わった。マフィアの大ボス、ジョン・ ゴッチの弁護で名を馳せたロジャー・ローセンだ。


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ラナ・クラークソン



大陪審でのスペクターの証言が公開に

フィル・スペクター殺人事件の大陪審でスペクター自身が語った証言が公開されることになった。

この文書は“嘘八百”で公開に値しないという弁護団側の激しい抗議を斥け、こ の水曜日、判事は問題の文書の公開を命じた。

フィル・スペクターの弁護団は、問題の文書が公平で偏見のない陪審員を選ぶのを阻害すると主張するが、その主張の正当性を証明できなかった。フィドラー判 事は決定の理由をそう語った。

新たに公開された大陪審での証言によれば、フィル・スペクターは事件現場に駆 けつけた警察官に対し、自分は誤ってラナ・クラークソンを撃った 、と最初は 証言したが、後になってこれを翻し、彼女は自殺したと語ったという。



現場に急行したロドリゲス警官は次のように証言している:

「最初の言葉を聞いてスペクターに手錠をかけると、彼は今度はこう言い出しま した。“どうしたってんだ。お前はいったい何をやってるんだ? 俺は彼女を撃っ たなんて言ってないぞ。これは事故だったんだ”」

スペクターのお抱え運転手、アドリアーノ・デ・ソーサの証言:

「2人をスペクターの屋敷の前で下ろしたあと、私は屋敷の外に車を付けて中で 待ってました。午前5時頃にバンという銃声が聞こえて、それから数分後にスペ クターが銃を持って出てきました」

このときスペクターは彼に、『俺は誰か殺したようだ』と言ったという。

大陪審の記録によれば、スペクターはあとになってから警官に、「クラークソンは自殺した」と言ったという。