『短時間で相手からこれだけのメールを送らせるテクニックはいくらかあるんだけど』


そういいながら西田さんはパソコンの画面を切り替える。

西郷寺とさっちゃんのメールの履歴画面だ。

それをざっと眺めて


『この場合はわりとオーソドックスなやり方かな』


そう言って画面の角度をずらし僕に見えやすいようにしてくれた。


『見て、先ずは西郷寺からね。』


西田さんが示すメールに目をやる。


西郷寺
『おはよう。寂しくて寂しくてたまらなくてメールしてしまった。なんか無性に寂しくて。自分一人では耐えれなくて。』


『このメールに何か変な所があるかな?』


そう西田さんに言われ改めて僕が作り出した西郷寺というキャラの人物像を思い浮かべる。

僕が演じていた西郷寺はこんな内容を送る事は無かったが、それでもこのメールにそれほどの違和感は感じ無い。

さっちゃんが日々に孤独を感じているように西郷寺も同じように孤独を感じている(という設定なのだ)

二人はそこに共感を覚え短い時間で急速に距離を縮めていった。

そう考えるとこのメールには特に問題が無い、そう言おうとしたが一ついつもと決定的に違う部分がある事に気がつく。

時間だ。

西郷寺からこのメールが送られた時間を見ると6時2分となっている。

僕は毎日8時出勤だったのでこんな時間にメールを送る事は無かった。

8時に出勤してみると大体先にさっちゃんからメールが届いていてそれに西郷寺が返信するというのがこの5日間で出来上がった西郷寺とさっちゃんの日常。

その違和感を西田さんに伝える。


『内容は気にならないけど時間が早い、いつもこんな時間にメールなんてしないから、、この後どうなるのか、、それを早く教えてくださいよ。タラタラしてる場合じゃないんだ、今だって』


『待って』


再び声が大きくなりだした僕を、今までに無い厳しい表情で西田さんが制す。


『落ち着く約束でしょ?全部分かるように説明するから落ち着いてって言ったよね?私の話が全部終わるまでとにかくしっかりと話を聞いて。それが出来ないのなら今すぐ帰ってもらって構わない。今この時点でこのバイト続けれないと判断するのなら、それはそれで構わないから全てを放棄して今すぐここから出て行って。』


出て行けと言われて出て行けるはずは無い。

僕はさっちゃんを人質に取られているようなものなのだ。

大袈裟に聞こえるかもしれないが本当にそういう感覚だった。

相手の言う事に納得が出来なくとも今は従うしかない。

その上でさっちゃんを助けるチャンスを伺うしかないと

冷静な第三者からお前馬鹿じゃないか?と思われそうな事を

僕は真剣に考えていた。


『すいません。もう声は荒げません。でも本当にさっちゃんが心配なんです。ですからあなたの言う【全部】を早く僕に教えて下さい。』


僕は西田さんに頭を下げ、その上でお願いだから少しだけ急いで下さいと付け加えた。


『わかってくれたらいいの。私も厳しい言い方してごめんなさい。お互い落ち着こうね。』


西田さんは既にいつもの西田さんに戻っていて『それじゃあ先に進もう』と再びパソコンをいじりだす。


『ハセガワ君が言ったようにいつもより西郷寺のメールの時間が早い。そこはかなり重要なの。さっきのメールがあってどんなやり取りになると思う?』


『わかりません。この後のさっちゃんの返信を見せてもらえますか?』


僕の考え、答えなどどうでもいいからとにかく僕は先に進みたい。

急いで核心に迫りその上でさっちゃんを助ける策を講じなければいけないのだ。

しかし思ったように話は先に進まない。


『残念だけど、、』


西田さんは僕の顔を見ながらそう言って一息ついた後

再びパソコンに視線を移しながら僕にこう告げる。


『さっちゃんからの返信メールは見せれないわ。』


この期に及んで更に僕をからかうのか?

お互い落ち着こうと約束したばかりなのに

舌の根も乾かぬうちに僕にその約束を破らせたいのだろうか?

苛立ちで真っ赤になった僕の顔を見て西田さんは『あのね』と口を開く。