はじめに「植毛の失敗はこう直す」では、植毛の技術的な内容に焦点をあてざるをえなかったのですが、植毛の結果には技術だけではなく、施術を受けた方の体質や術後のヘアケアなどいろいろな要因が絡んできます。手術を受けた方からすれば満足な結果が得られないイコール失敗かもしれませんが、植毛医サイドも当然言い分があると思いますし、私自身も植毛にたずさわる身として“失敗”というタイトルでは本音をもらしにくい不都合さもありました。そのためこのコラムでは最近よく使われる“残念”という言葉を使わせていただきますが、不本意という意味に解釈してください。また植毛に限らず、ヘア治療全般の問題点や展望も紹介したいと思います。

 

 

第1回 こんな時植毛はちょっと待って

 

1)生え際 

毎日のように20歳代はじめの男性が、AGAのためにそりが深くなったので何とかしてほしいという訴えで相談に見えます。20歳代前半でのAGAはあり得ますが、実際にはそれほど多い頻度ではありません。男女とも思春期前は同じように丸いダウンスロープの生え際ですが、思春期以降多くの男性の生え際は前頭部と側頭部の交叉する角度が90度よりも小さいそりの入ったアップスロープになりますが、小児から成人への生え際への移行をAGAと錯覚するわけです。


 

 

この点についてFUEを最初に報告したロサンゼルスのラスマン医師が、アメリカのクリントン元大統領をモデルに使って説明した写真を引用します。

 

 

この写真はFacial Plastic Surgery Clinics of North America

Phenotype of normal hairline maturationに掲載されているものです。

これが誰にでも起こり得る心配ない経過と納得なさればそれでよいのですが、やっかいなのはカウンセリングに来院された多くの方が既にAGAクリニックで不必要と思われるフィナステリドやミノキシジル内服薬を処方されている場合です。特にミノキシジル内服薬では全身の産毛が濃くなり(ただそれ以上になることはほとんどありませんが。)、AGAが改善したかもしれないと淡い期待を抱くので、服用をやめるようにアドバイスしてもそれを実行するのはなかなか難しくなります。薬もそれほどではないとなると植毛ということになりますが、そんな場合でも植毛を躊躇なくすすめるクリニックの門をたたくと大変です。植毛はAGA のためだけではなく、広すぎる額を狭くとか深すぎるそりを改善するなど気に入らない生え際を改善するためにも行われますが、AGAのためだと勘違いして少しパニック気味になっている方の場合には話が別です。実際植毛を受けて極端に低い生え際や不自然な生え際を作くられてしまい、一生後悔する事例を多く見てきました。

 

ポイント
クリニックや医師以外のスタッフが対応する植毛クリニックではなく、ヘア治療に精通した皮膚科を受診することです。