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記憶の欠片(ピース)

病気がちで、甲斐性のないおっさんのブログ。
小説・ショートショートを書いていましたが、気力が失せたため、思い付きでいろんなことを書いています。


S商事の社屋は30階建てで建築後30年。中で働く人々の数は2千とも3千ともいわれ、関係者も合わせればざっとその倍近くが毎日出入りする盛況な街といえるような場所だった。創立100周年を迎えて、全社を挙げて威勢よく振舞う習わしがさらに際立っていた。こんな時はそのエネルギーに気おされて、あるいは恩恵にあずかろうと出入りする他社の人間も例年に増して多くなっていた。

 

ある春の日、S商事では創立記念のノベルティグッズを作ることが決まった。当然、あちこちの営業会社から売り込みが殺到した。

そんなとき── 第二総務の佐々木のもとに、ひとりの女性事務員が訪ねてくる。

「佐々木係長……、お時間、少しいただけますか?」

名は坂下綾。企画課の若手事務員。

「……うちの父が、ある事務機メーカーの営業をしておりまして……  会社は小さくて、S商事とはこれまで取引がありません……。  だから、正直に言いますと……その……、今回の記念品のお話……  なんとか、少しでも関わらせていただけないかと思って……」

一気に話すその口調に、必死さがにじむ。

「営業課にも相談しましたが……営業課長からは『今夜、夕食でも取りながらゆっくり話そうか』と……」

佐々木は机の上の書類から引き締まった顔立ちの無表情な視線を外さず、しばし沈黙の後に口を開いた。

「私は、上の人間が契約して納められたものを受け取って、必要な部署へ配分するだけ…煩わしいことはしたくないんで」

坂下はそれ以上何も言えず、立ち上がりかけてまた座り直した。

「……自分勝手なお願いだとは、重々承知しています。  でも、私……このままだと、営業課長と今夜出かけることになりそうなんです。  一度話を持ちかけてしまった以上、断ることもできず……  どうしたらいいのかわからなくて……」

涙ぐむようにして伏せた目を見た佐々木は、立ち上がって一言だけ残した。

「……私には興味のない話なので」

そう言って、彼は坂下をその場に残したまま背を向けて部屋を出て行った。

数日後、第二総務課の室内。 佐々木が一枚の発注書を上司の加藤総務課長に見せ、何かを耳打ちする。

加藤はちらりと佐々木を見て、口元にうっすらと笑みを浮かべ、うんうんとうなずいた。

それが“良い返事”だということは、外から見てもはっきりと分かるものだった。

その後、S商事の記念品の発注は営業部の動きとは無関係なルートで進んでいった。 加藤課長から広報部へ話が通り、手配は静かに、しかし確実に整えられていった。

そして一ヶ月後。 あるニュース番組の中で、大雨被害を受けた地方の町工場が紹介された。

『……こちらの工場は今回、ある会社からの発注でボールペン2万本を製作。被災後の再起をかけるきっかけとなっています』

出演者は誰も「創立記念品」とは言わなかった。 だが、画面にはしっかりと映っていた。 『S商事 創立記念』の文字が、光沢あるボールペンに刻まれて。

坂下綾が再び佐々木のもとを訪れたのは、そのニュースを見た翌日だった。

「佐々木係長、本当に……ありがとうございました」

深々と頭を下げる彼女に、佐々木は「泣かれるのは嫌いなんで。」

坂下は少し複雑な表情をわずかな笑顔に変えて

「2万本もなんて、思ってもみませんでした……」

「……ああいうものは、いつもなら2千というのが相場です。ですが、『これは宣伝効果が期待できますよ。並みの数じゃあインパクトが薄いですね』と加藤課長に言ったら、  課長、ニヤリとして、発注にゼロを一個足しましたよ」

「……お礼がしたいです、何か……せめて何か」

「たまたまうまく話が転がっただけで、礼には及びません」

そういう佐々木に坂下が食い下がったので佐々木が折れた。

佐々木は、静かに自動販売機を指さした。

「だったら──このコーヒーでお願いしましょう」

戸惑いながらも彼女が販売機に事務服のポケットから取り出したカードをかざすと、カップが落ちてコーヒーが注がれる。そのはずだったが、紙コップは下まで落ちる前に取り出し口の上のあたりで斜めに引っかかって止まってしまった。それを見た佐々木が自動販売機の左わき腹辺りを拳でハンマーのようにパンと一撃を加えると、カランと軽快な音がして紙コップが所定の位置へ降りて止まりコーヒーを淹れ始めた。

その動作を見ながら佐々木はニコリともせず「いつものことで」

佐々木はコーヒーが注がれたそのカップを取り出すと、一瞬だけ香りを嗅いで──

ズッ、ズッ、ズッ~……

と音を立てながら、先を急ぐようにあっという間に飲み干した。

「……ごちそうになりました。仕事に戻ります」

そう言ってすたすたと廊下を進み、角を曲がった佐々木の姿は見えなくなった。

あとに残された坂下綾は、カップの底に残った湯気を透かして、見えなくなった佐々木の後ろ姿をずっと目で追っていた。

総務・佐々木音次郎係長。故郷に誰一人血縁もなく、独身、一人住まい。

S商事、第二総務に唯一の課員として勤める。

10年前に第三営業から総務へ異動し、その後第三営業は解散したという。

佐々木音次郎がなぜ総務へ異動になったのかは、誰も知らない

 

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コンセプトアイディア:わたし

執筆:ChatGPT(plus)

大筋で某有名時代劇のパロディです。ご了承ください。