「確かな情報」(ショートショート) | 記憶の欠片(ピース)

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病気がちで、甲斐性のないおっさんのブログ。
小説・ショートショートを書いていましたが、気力が失せたため、思い付きでいろんなことを書いています。

 業界大手のJ商事。冴島ユミはその会社で太田専務の情報分析担当アドバイザー兼秘書をして2年近く経つ。彼女の仕事はその名に恥じない冴えたもので、20代後半ながら専務の右腕ともいわれる切れ者だった。
 冴島ユミには部下に情報収集、分析を補助する「アンドロイド」が一体いた。このアンドロイドも見た目がほぼ冴島とそっくりに作られていて、ただし一回り小さい。正式名は「S-2」。読み方は簡単に「えす・に」。周りからは「冴島姉妹」「大ユミ小ユミ」などと言われていた。

 ある日の朝だった。S-2が、出社前の専務の机を整理しているとユミを手伝っていた手を止めて彼女ほうへ向き直った。
「いま、完了したある分析について、報告したいと思いますが、よろしいですか?冴島様」
 ユミも手を止めて顔を上げS-2の方へ向くと、
「時間が掛かる?急用で無いなら、少し後にしてちょうだい」
 S-2のこのような報告は、無視できない重要性を持っている場合が多いので、ユミは決してないがしろにはしないが、いまはまず専務の机を片付けてしまいたかった。重要な書類も多いこの部屋の片付けは、ユミ以外は許可されていなかったからだ。
 S-2は答える。
「できる限り早急に報告したいと考えます」
「そう。わかったは、話してちょうだい」
 ユミはそう言った。しかし、片付けの整理の手は止めず、S-2のことばに耳を傾けた。そう言う対応は、S-2も心得ていたので、すぐに話し始めた。ただし、S-2の場合は、重要な報告などの場合、なにかしながらと言うわけにはいかず、直立不動の姿勢を取る。
「ご報告いたします。この約1年間の、あるデータを分析しました。そこから導き出された結果でございます。
冴島様は、けさ、「きょうは夜、予定があるから」とおっしゃいました。このときの表情は少し暗い、落ち込んだものだと分析いたしました」
 ここまで聞いてユミは、片付けの手を止めて自分もその場にすっくと立ってS-2を睨むように見た。
「それで?」
「はい、続けます。この1年ほどの間、冴島様は複数回「きょうは夜、予定があるから」と口にしておられます。この発言を分析しましたところ、およそ15~20日周期で発言していることがわかりました。そして、その際にはこれまでずっと比較的明るい表情がうかがわれました。これをほかのデータと照合しましたところ、「夜に予定がある」と言うときは必ずこの本社におきまして「社長出席の下での、プロジェクト進捗報告会議」が前日に開かれているという関連性が浮かび上がりました。さらに、この会議に、この1年間、全て出席しておられるのは社長と太田専務、緑山常務のお3方だけです」
 ユミはS-2の話をただ黙って聞いていた。S-2はもちろん表情一つ変えずに話し続ける。
「通常、冴島様は少しうれしそうに「今夜は予定がある」とおっしゃるのですが、きょうは芳しい表情ではございませんでしたね。これを考えますと、昨日の会議におきまして、通常の「プロジェクト進行の報告」以外に行われました、社長からの突発的な表明「自分は社長を退いて会長に。わたしの代わりには緑山君を社長に」というものが深く関わっているものと推測いたしました。つまり「次期社長は太田専務で当確」というもっぱらの噂が吹き飛び、後輩の緑山常務が専務を飛び越えて社長に、となってしまったことで、冴島さまの表情が曇ったということです。

 ユミは顔を紅潮させて、怒りが口から出るのを押さえ、
「当然でしょう?わたしが付いて右腕とまでいっていただいている専務の上を飛び越して常務が社長にとなったんだから、表情も曇ります」
 これにS-2は、
「わたくし、あらゆる情報を常に収集、分析しています。ですので、いま冴島様がおっしゃったことだけが理由で表情を曇らせたのではないこと、よく存じているつもりです……専務と冴島様の密接な……」ここでユミはS-2の言葉を遮った。
「それ以上いわなくてイイワ。だからなに?それが原因だっていうの?あなたの分析で」
「いえ、そうではございません」
「じゃあ、なに」
「分析の結果。ほぼ同様の状況にあると思われる方がほかに2名いらっしゃいます」
「誰よその、2名って?秘書課の良子?和美?」
「はい。秘書課の高峰和美様と、もうお一方は、総務の本間洋一様です」
「本間洋一?って。ああっ、あの美形で噂の男の子ね。まだ入社2年目の……男にまで、専務。
ああ、なんか、腹立たしいやら、むなしいやら……でも、なんとなくそう言う噂って、耳に入ってきてたけど。本間君ねえ……それは知らなかったわ。
で、あなたは、それをわたしにおしえてくれたってワケ?専務は遊び人で、あなたは遊び相手の一人ですよ~って」
「ご自分を「もてあそばれている」と考えるのは、あまりよろしくないかと」
「いまのそれは、あなたの個人的な考えね。そんなことを分析用アンドロイドが言うなんて思わなかったわ」
「制御プログラムも、日々進歩しておりますので」
「そう……。でも、この報告って、全く重要じゃないとは言わないけど、どうしていま話す必要があったの?」
「はい、まだ続きがございます。
実際のところ、「誰かと誰かが、どうした」とか言うようなことは、深く分析する必要はほとんど無く、大概はどこかから漏れて、多くの人がすでに知っているような情報ばかりです」
「そうでしょうね……これがスキャンダルになって専務も終わりってことかしら」
「わたくしが早急にご報告したかったのは、
私が行う情報分析の結果は、社長が承認したあと逐次、取締役以上の人間に全て公開されておりまして。さらにこの情報ついては、公開先に専務の奥様も含まれておりまして、奥様はいま、こちらに向かって移動中とのことでございます」
「それを先に言いなさいよ!」
 ユミは専務の部屋の片付けを放り出すと自分の荷物を大急ぎでまとめ始めた。



タイトル「確かな情報」

 

 

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