菜々子さんのことをおもうと、

毎日幸せにもなるし、せつなくなる。

朝、顔を合わせるか合わせないか、

しかも、せいぜい25分。

よほど電車が遅延しない限り、

1時間も顔を合わせることはない。

そんな菜々子さんのことが、いま一番

好きなのはなぜか。

自分でもわからない。

見た目ならもっと魅力的なひとは、

他の乗降口、後の駅から乗ってくる人の

中にいる気がするし、菜々子さんが自分に

決して優しくしてくれているわけではない。

ごく一般的な「乗車駅と乗車口が同じ」

ただそれだけな関係なのだから。

それでも、菜々子さんのことが何かときめく。

菜々子さんが何か不幸にまきこまれていないか

常に心配になるし、

病にならないか、不慮の事故に遭わないか、

常に菜々子さんのことを案ずる。

自分のような凋落したのよりも、

菜々子さんのような、先がある女性の方を

守ってあげたいという考え。

自分がどうなっても、菜々子さんには

万が一のことがないようにありたい。

自分の生涯で3番目に強く惹かれた菜々子さん、

ずっと傍に居てほしい、それが夢だけど、

せめて、自分が生きているうちは、

自分以外の男と結ばれないで。