同フィルムを見て、フォレスト・ウィテカーが大好きになったんです。この『クライング・ゲーム』、話がうまいんですねえ。しかも、ファーストシーンがまたいいんです。思わずのめり込むように作ってあるんですね。どんな映画か……。ある遊園地で一人の女が黒人の男を誘惑する。女は黒人の前で、にっこり笑いながら着ている服の前を開いた。胸がみえる。男は、笑いながらその女の胸に手をやる。その瞬間、男はグッと後ろから締め付けられ、頭から黒い頭巾を被せられた。「俺、何もしてねえよ」と言いながらズッズッと引きずられ、引っ張って行かれるところから、同フィルムは始まります。このように始めから、何だろうと思わすようなファーストシーンっていいですね。見てて、ええっ?と思います。


クライング・ゲーム DTSスペシャル・エディション [DVD]/スティーヴン・レイ,ミランダ・リチャードソン,フォレスト・ウィテカー

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黒人の男がどこかの部屋へ連れ込まれました。その部屋には5~6人いるけど、黒人に聞かれたらイヤだから、みんな物を言わない。このあたりの駆け引きが面白いですね。それでヒソヒソとやっている。黒人のほうは何だろうと思って、ただじっとしています。実は、この連中はアイルランドの革命一派で、自分の仲間の一人が捕らえられているため、交換用の人質として、この軍人である黒人を捕まえた。ゆくゆくはこの男を身代わりにしようとしていることが、私たちには分かります。けれど、この黒人には分かりません。「なんで、俺は捕まえられているのか?」 そうこうするうち、夜が明けます。いきなり、表へ突き出されます。表には見張り役の若い白人の男がついてます。その男に黒人が言います。「俺のこの頭巾とれよ」と言います。若い男は黒人に顔を見られたくないから、半分だけ、鼻から下だけ開いた。すると、その黒人、フォレスト・ウィテカーが、ハアーッと空気を吸う。舌なめずりしながら、朝の空気を思い切り深呼吸します。「朝の空気はうめーやあ」と言う。この演技、唸ってしまいました。いい役者です。これがファーストシーンです。

そして、「俺、小便したいんだよ。昨日から我慢してたんだ」と言います。相手は、庭の隅に行って勝手にしろ、と、彼を突き出しながら手で合図します。すると、黒人が怒ります。「何を言ってやがる、俺、両手をくくられてるんだよ。どうやってするんだよ!」そうすると、黒人と一緒に庭へ。隅で立ち止まっ黒人が彼を見て、「おい!前ボタンを取れ」キャメラは二人の背後にあるため細部は分からないが、どうやら男がボタンを取っているらしい。「おい!つまみ出せ」やはり後ろからですが、黒人の先っぽをつまみ出してる感じが、その姿から予想できます。すると、ズーッと水の音がします。「これでいい。おい!元に戻せ」白人が黒人のアレをつまんで直し、またボタンをしめている。「良かった。おい、おまえ、俺の懐へ手を入れてくれ」意味が分からないから、ちょっと怖い。「そこに帳面があるだろう。手帳だよ。それを出せ」白人の男は何も言わずにそれを出す。「その中に俺の彼女の写真があるだろう。女の。ベッピンだろう」と言います。「下に、所番地と名前が書いてあるだろう。俺、今晩あいつのところへ行きてぇんだよ。昨日、あれから行くつもりが、行けなかったから電話でもかけて謝りたいんだよ。それで、今日、行くつもりだよ。だから早く出せ。早く縄を取ってくれ」と言うんです。白人はその帳面をじーっと見ています。この女が、この男の彼女かって見ています。すると、この隙を待っていましたとばかりに、黒人が逃げた。白人の男が、しまった、逃げられた。と、思っていると、見えないところで「ドーン」と音がして、次のシーンでトラックにはねられて死んでいる黒人が映ります。これがファーストシーンなんです。

このファーストシーンのつかみ方はうまいです! そうして、この白人は仏心をおこします。写真の女に黒人が死んだことくらい言ってやろうと思うんです。そして、女のことを捜して、捜しまくった。捜し訪ねた先は、ロンドンの下町の汚いバー。その店で歌っていました。そこの楽屋を訪ね、「おまえ、この男を知ってるか?死んだよ」と写真を見せる。「そう」と、表情も変えず、平気な顔で応える。もちろん泣いたりはしない。なぜなんだ、悲しくないのか? どうなってるんだ、と思った彼は、翌日、翌々日、そしてまた明くる日と、3日続けてその女の所へ通う。この白人の男、これだけ通うと女に情がわきます。当然、仲良くなりたい。それで、とうとうある晩、女の部屋に泊まります。女と抱き合う。そしたら、その女が、「ちょっと、待って」と言う。「なんだい」「私を見て」「えっ、……!」下半身を見ると、そこにはなんとペニスが……。「おまえ、男だったのか」というシーン。やっぱり、うまい。続きが、次から次へと見たくなる。(2010/05/25)

同フィルムを見る人は、そのタイトルから何の予備知識がなくても、これは流行の服の話だろうぐらいは予想できる。事実そういう背景のストーリーなんです。流行を扱う雑誌社が、新しいデザインを探し求めていろいろと競争するという内容で、そんな映画だから、どんな綺麗な、華麗な場面からスタートするだろうとワクワクします。ところが、同フィルムのファーストシーン、違うんです。ネクタイが出てきます。男のネクタイです。ある男がネクタイ屋さんに買いにきます。「ネクタイください。同じ柄のを2つください」これはいけない。同じ柄を2つ注文するようなバカな客はいません。ところが、「はい、かしこまりました」なんてお店の店員も言うんです。そして、同じ柄のネクタイを渡した。


プレタポルテ/ジュリア・ロバーツ,ティム・ロビンス,キム・ベイシンガー
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へんなファーストシーンです。男が入った店は、綺麗な、いかにもロンドンのネクタイ屋さんといった雰囲気です。その男は買った2つのネクタイをもって表に出ました。ところが、外はてっきりロンドンかパリかと思ったら、なんとそこはロシアでした! 私たちを始めからバカにしてるというか、意表をつかれました。でも、このフィルム、シャレていました。 (2010/05/24)

WHATEVER HAPPENED TO BABY JANE 米*1962 ロバート・アルドリッチ監督作品

何がジェーンに起こったか? [DVD]/ジョーン・クロフォード,ベティ・デイビス,アンナ・リー
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〈綺麗だった人〉……これほど悲しく、残酷な言葉があるだろうか。若い頃美貌でならした人が加齢により衰えていく。自然の摂理とはいえ、出来ることなら目を背けたい現実だ。しかし何故か人は、かつての美人女優や往年の人気アイドルを「見たい!」という欲求に駆られるもの。「わちゃー」「見なきゃよかった」という結果にしかならないのに、この手の特集は常に雑誌の人気企画の一つだ。〈あのいい女どこいった〉などという見だしは長らくの定番フレーズ。それも、かつての容色が美しければ美しいほどこの手の欲望はアップするようだ。それが〈ハリウッド美人女優〉クラスならいかほどだろう。

同フィルムこそは、その昔ハリウッドで〈絶世の美人女優〉だった二人がシワもたるみも隠すことなく出演し暴れまくったという怪品なのだ。その暴れ具合たるやハリウッド映画史上でもまれに見るレベル。日本で対抗しようと思ったら『ゴジラ』ぐらいじゃないと無理だ。断言するが、同フィルムの主人公ジェーンは間違いなく世界最強のバーさまだ。同フィルムを知らずしてホラー、サスペンス映画を語るなかれ! 主役はベティ・デイヴィス、演技力と気の強さではハリウッドのトップ・クラスと謳われた伝説の女優だ。この人が〈かつての人気子役で今は落ち目、気位だけは昔のままの手に負えない女〉を演じます。書いてるだけで痛々しい……。そしてその姉を演じるのはジョーン・クロフォード。この方もハリウッド・レジェンドの大女優で、1930年代を代表する美女です。鼻っぱしの強さも伝説級で、そのワガママぶりには多くの映画人が手を焼いたと言われるほど。日本で例えるならそう、〈小川真由美〉クラスといえば想像がつくでしょうか。

簡単に設定を説明します。子役時代にちょっと売れちまったもんで〈生意気の権化〉みたいな性格のジェーン。大人になったら「ドヘタクソ」と罵られホサれます。代わりに姉ちゃんが人気女優になっちまいました。悔しい! 当然ブチ切れるジェーン。人気絶頂のお姉ちゃんがいきなり車に轢かれて下半身不随になるというアクシデントが! 人々は「妹がやったに違いない」と噂しますが、結局真相は闇の中に。完全に女優生命を絶たれた二人はひっそり隠遁生活を送ります。妹は「アタシじゃねえよ……なんでこんなスキャンダルにアタシがよぉ……」と恨み骨髄、酒浸りになって忿懣やるかたない思いのまま何十年も月日が経ちました。

そんなこんなですっかりババアになった二人、心優しいお姉ちゃんは妹にほとほと手を焼いています。「しょうがない、精神病院に入ってもらいましょう」唐突な決断のようですが見ればわかります。姉に対する嫌がらせは想像を絶するレベルに。「ねえジェーンおなか空いたわ」「ほらよ」と言って出したのは姉のペットの小鳥。ぎゃあ! 懲りずにお姉ちゃん「ねえジェーン、夕食はまだ?」「ほらよ」といって出したのは天井裏のネズミ。うぎゃあ!! それを見て高笑いするジェーン。もう人間じゃありません。〈不細工〉〈老醜〉〈醜悪〉〈奇怪〉……どの言葉も、同フィルムのベティを十分に表現することはできない。〈悪〉という、これ人間の複雑怪奇な心理を全身でベティは演じきってます。まさに入魂、ここがその辺のサスペンスやホラー・ムービーと一線を画すところ、同フィルムを永遠のマスター・ピースにしてるポイントなのだ。とかく〈グロテスク〉〈怪奇もの〉ということばかりがクローズアップされやすいフィルムだが、〈スタア〉とは〈女優〉とは何かということを真摯に見つめた大傑作だ。同フィルムのなかに〈鬼〉はいる。(2010/05/23)