2022年12月3日(土)・4日(日)ポートメッセなごや開催のクリエーターズマーケットvol.47(クリマvol.47)にて配布したフライヤー収録のミニ物語です。
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白水屋推参!
作:雑居工房こびん屋シロ
「来ちゃった……てへ(はぁと)」
「お前かよ……」
「おや?どうされました?シロ・ノワール。まるで『ものすごく忌々しいものと出逢った』とでも言いたげな表情ですが」
サン・ジェルマン伯爵はいつもどおりの笑みを浮かべている。
「伯爵~。こんにちわっ」こんにちわっっ」隣のその人だれ?」
「猫妖精のみなさん、ごきげんよう。
この方は『森のいつもの場所で迷子になっていた』人間界の白水屋(しろうずや)さんとい「元の場所に戻してこい」
「ひど~い!せめて台詞にかぶらせな「避難訓練。念のため簀巻きにして転がしてこい」
「避難訓練!かしこまりっっっ!」かしこまりっっっ!」
てきぱきと猿ぐつわをかまされた簀巻きが出来上がった。
「『いつもの場所』において来い」
「いってきまぁ~っすっっ!!」わっしょいわっしょいっ!!」
御神輿のように簀巻きを担いだ猫妖精たちが工房から勢いよく走り出て行った。
「あの……?先ほどの方はお客様ではなかったのでは?」
フォークを捻りながら先客が首をかしげている。
「あぁ。気にせずで良い。クリマでもう何年も知っている」
なにごともなかったかのように、少しの間、ハートのフォーク曲げ加工を指南しつつ「そろそろか……」とこびん屋がつぶやいた直後。
「どういうこっちゃあっっ?!」
猿ぐつわと簀巻きから抜け出した人物が扉を勢いよく開けて工房に入ってきた。
「な?」
「あぁなるほど。脱出マジックの生徒さんだったのですね」
「誰が脱出マジックの生徒じゃっっ!」
「で?白水屋。なんでお前がアヨガンに来れてる?」
「ん~?愛の力(はぁと)?」
「避難訓れ「まてまてまてぇ~ぃ!」
腰を落ち着け話を聞いてみると。
どうやら次のクリマに合同で出展してほしいとの話らしい。
「その勢いだけでアヨガンに『やって来れる』というのはよっぽどだぞ……」
まぁ、アヨガンの森に来れるだけの、想いが強い願いを全く聞かないわけにもいくまいて。
「だったらなぜいきなり簀巻きにしたのさ?!」
「いや。何用かわからなかったからな」
「こっちじゃ客の用事を聞く前にとりあえず簀巻きにするんかいっっ?!」
「仲良しさんなんですね」先客がコロコロと笑いながら言う。
「何年かはこんな感じのやり取りの仲だ。実際に簀巻きにして放り出したのは初めてだったが」
それにしても。
いつものミニブースから一般ブースへ。しかも土曜日だけの出展ではなく2日連続ともなると、疲労も段違いだろうに?
「だから安心できる助っ人を隣接申し込みで隣に置くのだよ」
「?今回から隣接は廃止になったぞ?」
「はいぃ?!」
「複数ブースを合同名義で申し込んで、とりあえずお前の出展料を建て替える形でなら可能なようだが」
「しゃあない。それでいいっす」
「よくわかりませんが応援してますね」
「さて。今回は良い場所が当選するかどうか。
忙しくなるのか、はたまた閑古鳥が鳴くのかはふたを開けてみないとわからないけれどな」
「なんとかなるっしょ。てへ(はぁと)」
「……避難訓練」
「かしこまりっっっ!」かしこまりっっっ!」
― 了 ―