私は運動が嫌いで、特に歩く・走るというストイックな行為が大っ嫌いです。

自衛隊には「3歩以上は駆け足」という基本動作があるそうですが、私は「3歩以上はタクシー」を旨としています。

 

ですので、必然的にタクシーのお世話になることが多く、数乗っているとタクシーというのはなかなか味のある乗り物だということ気づき、思い出すままに書き散らしてみたいと思います。

 

タクシーというのは良くも悪くもその土地柄が出るようです。

 

外国に行くと、空港に着くなり荷物を運ぶという人が満面の笑みで現れ、空港所属のポーターかな?と思って荷物を渡すと頼んでもいないのにタクシーに積まれ、勢いでそのままタクシーに乗ってしまうことがあります。

 

その場合、ボラれるんじゃないかと思っているとボラれなかったり、かと思うとボラれたり。

そもそもメーターを倒さないことも多く、到着するなりスリリングな経験ができますので、それが面白くて若いころはよくそういうタクシーに乗っていました。

 

日本ではさすがにメーターを倒さずにボラれることはありませんが、大阪と北海道では何度か遠回りされたことがあり、それを問い詰めるとなぜか全員が押し黙ってしまいます。

こういう場合は料金を勝手に差し引いて払うことにしていますが、それでもこういう運転手さんはなぜか最後の最後まで一言も口をききません。

 

今はどうか分かりませんが、15年ほど前までの大阪のタクシーは遠回り以外にも驚かされることが多かったです。

 

領収証をお願いすると何度も何度も書き損じて挙句の果てには私が書いたり、クレジットカード決済の方法が分からずに転写装置にカードを何度もガシャガシャと通してカードの凸凹がつぶれたり、カーナビの操作法を知らないらしく、住所を言ってもカーナビに入れずに案の定道に迷い、結局タクシーを降りてその場で違うタクシーを拾い直すということもありました。

 

それでも大阪ならではの良さもあり、話好きの運転手さんが多い上にその話が面白く、退屈することがありません。私は土地土地の景気や人々の生活ぶりを聞くのが好きですので、大阪の運転手さんにはいつも楽しませていただきました。


そういえば、大阪で不思議な体験をしたことがあります。


取引先に向かおうとかなり大きな交差点でタクシーを拾おうとしたのですがなかなか来ず、取引先に電話をかけると歩いて2、3分の所にタクシー乗り場があると。

行ってみると、普通の道路の何の目印もない地点に空車が並んでいましたが、こんなタクシー乗り場は地元の方しか知りようがありません。


何でここがタクシー乗り場なんだろうと運転手さんに尋ねると、「何となく」とのこと。


何となくって・・・


邪推ですが、おそらくこの付近はタクシー会社の縄張りの境界であり、過去に会社同士でトラブルかなんかがあって、紳士協定でタクシー乗り場を設けたのではないかと思われます。


正規のタクシー乗り場を守らないのも違反だと思いますが、勝手にタクシー乗り場を設けるのもヤバいのでは?


大阪は今日もディープです。

 

一方で、東京のタクシーは退屈なくらいキッチリしていますが、これには理由があります。

 

外国人が日本に来た時に、タクシーでその国の文明度が分かるという側面がありますので、「タクシー業務適正化特別措置法」という法律に則り、タクシーセンター(旧タクシー近代化センター)という公益法人が1970年から厳しーく厳しーく運転手さんを指導してきました。

 

銀座などではタクシー乗り場以外ではタクシーを拾えず、こっちからすると逆に不便ですので、運転手さんに「どこでも乗せちゃえばいいじゃないですか」と言うと、「センターの人が見張ってて、バレると大変なことになるんですよ」とのこと。

 

その他にも乗車拒否とか無謀運転とか客とのいさかいなどがタクシーセンターに持ち込まれると、呼び出されて講習などを受けさせられたり営業停止などを食らったりと、運転手さんにとってはまさに泣く子も黙る存在なのです。

 

そのかいあって現在の東京の運転手さんはホテル勤めができるようなコミュニケーションレベルの人も多く、以前は結構いたフテ腐れたような態度の人にはこの10年くらいは巡り合っていません。

 

また東京でタクシー運転手になるには道路の試験のハードルが高いらしく、タクシーはかなり道を知っています。

 

東京は関東大震災の時に道割りをし直すチャンスを逃しましたので、都心を少し離れれば元は畑のあぜ道だったクネクネした道が広がっています。特に世田谷区なんかは昔から「タクシー泣かせ」と言われ、道を走っていると突然階段になったりします。

 

まあ現在はカーナビがありますのでそれほど不便はありませんが、渋滞の勘所をもつタクシー運転手さんが道を知っているというのは何とも心強いものです。

 

そしてタクシーと言えば、やっぱり頭に浮かぶのはバブル期のことです。

 

私はバブル世代より少し下ですが、バブル紳士に可愛がられ、銀座のクラブを毎日のように飲み歩いていた時期がありました。

 

当時は夜10時を過ぎると繁華街でタクシーを拾うことは絶望的で、そうなったら2時頃まで時間をつぶさないとタクシーには乗れません。たまに空車に遭遇しても、長距離と見なされなければ十中八九は乗車拒否されます。

 

ですので、クラブが閉まる12時以降は深夜営業のカフェで時間をつぶす羽目になります。

 

しかし、浮世には必ず抜け道があるものです。

 

クラブのボーイさんにチップを渡して「白タク捕まえてきて」と頼むと白タク、つまり違法営業のタクシーを拾ってきてくれます。もちろん姿かたちは普通の乗用車でメーターもありませんから、例えば「赤坂まで5千円」とかで交渉します。

 

そういえば当時は成田空港にも白タクがたくさんいて、成田から都内まで白タクで帰ったこともあります。

 

あれだけ大っぴらにやっていれば当局も把握していたと思いますが、何しろ当時はタクシーが足りず、帰宅難民が出ないように見て見ぬふりをしていたのだと思います。

 

それで思い出しましたが、バブル当時は白タクのことを「クモスケ」と呼んでいた年配者がいました。

私の世代にはまったくなじみがない言葉ですが、どうやら雲助というのは江戸時代の無許可の駕籠かきのことらしく、確かに白タクは正確に雲助なんでしょう。

江戸時代に雲助が増えたのも正規の駕籠かきが人手不足になったからで、背景までバブル期と似ています。

 

ただし雲助を正規のタクシー運転手に対して使うのは蔑称らしく、過去には横山やすしが慰謝料を命じられています。

それは白タクと違って合法だから蔑称なのか、それとも語感が差別的だから蔑称なのかは分かりませんが、すでに雲助という言葉は死語になっていますので何かピンとこず、むしろ雲に目と口がついたゆるキャラみたいなものを想像してしまいます。

 

最近は本当に便利になりました。

一部の地域ではGoやSrideというアプリが使え、現在地と行き先を入れてタップするとあっという間にタクシーが来て、あとは乗って降りるだけで料金の支払いまで終わってしまいます。

 

以前はタクシーを呼ぶと来るまでに15分くらいかかりましたので、呼んでから身支度をするという段取りでしたが、アプリから呼ぶと早ければ2分で来てしまいますので身支度が終わっていないと大慌てになります。

 

その一方で少し不満もあります。

 

タクシー業界は長年需給調整などに関して規制下にありましたが、最近はずいぶん規制緩和が進んできました。さらにはこれらアプリの導入で全体の効率化や最適化が一気に進んだようです。


高齢化や働き手不足も手伝って、というかこっちが発端なのかもしれませんが、とにかくタクシー会社には稼働していない休車があふれています。

 

稼働台数が減った結果、ちょっと天候が悪かったり、たまたま人手が多い日があったりすると、途端にタクシーが拾えなくなります。

 

以前はちょっと交通量の多い道なら5分も待てば流しのタクシーを拾えましたが、一昨年のうだるような真夏日に大通りでタクシーを拾おうとしたところ30分待っても一台も来ません。

熱射病になりそうでしたので駅まで歩いて電車に乗りましたが、余力がないというのも不便です。

 

日本ではタクシー業界とのゴニョゴニョで認可されていませんが、本当はウーバーが使えればもっと便利で安く、かつ突然の需要増にも柔軟に対応できるでしょう。

ウーバーが使える日を心待ちにしていますが、もうそのタイミングは逸したような気もします。

 

最後に、以前から気になっていることですが・・・

 

学生時代に友人二人とグアム島に遊びに行き、何度かタクシーに乗ったのですが、日本人の若い男の集団と見ると運転手さんが必ず「ハッパー? or ダウンタウンデオンナー?」と変な日本語で尋ねてきます。

 

ハワイでもタクシーの運転手さんを通してエロい体験をしたことがあり、今は分かりませんが外国では観光客に密室で接することのできるタクシーが裏の案内人も兼ねたりしていたようです。

 

日本のタクシーはまったくそんな気配がありませんが、外国人観光客の立場になってみると我々の知らないダークな側面があるのでしょうか?

 

あったらあったで、何かステキです。