ロシアのウクライナ侵攻で、中国が同じように台湾を武力統一するんじゃないかという懸念が突然リアリティを帯び、その際には必然的に日本も巻き込まれるだろうという論調が説得力を得ています。

 

戦争は単に腕っぷしの強さだけでなく、国際政治や各国の国内世論などに時間とともに影響を受けますので、侵攻したらどうなるのかということを予想するのは3年後の有馬記念の三連単を当てるよりも難しいわけですが、精一杯妄想を働かせてみたいと思います。

 

まず、侵攻時には台湾と同時に在日米軍基地や尖閣諸島も攻撃を受け、「いやがおうにも日本は参戦せざるを得ない」という識者がいるようですが、私は疑問です。

 

ウクライナ戦争から学べば、台湾を攻略するだけでも簡単ではないのに、同時に日米二か国も参戦せざるを得なくするようなアホなことをするでしょうか?

中国共産党は態度は悪いですが、決してアホではありません。

それどころか超優秀な人々が日々切磋琢磨している団体です。

 

特に日本は憲法の制約からアメリカのように無邪気に参戦するのは難しく、グレーな情勢においては国内世論が割れやすいということを中国も十分に知っています。

直接攻撃さえしなければ簡単には参戦してこないわけで、中国が自ら敵を増やすという愚を犯すことはまずないでしょう。

 

ましてや、ロシア、北朝鮮とともに台湾、日米に全面戦争を仕掛けてくるというような不良高校生の勢力争いのようなことが起こるとは思えません。

 

まず中国は、任期が2024年5月までの反中的な蔡英文政権の後に、親中の国民党政権を誕生させることに全力を挙げるでしょう。香港ですっかり信頼を失った一国二制度に代わる制度保証や台湾海峡横断鉄道などの甘言をまき散らすとともに、露骨な買収工作やサイバー攻撃による世論操作を行い、何が何でも統一を歓迎する政治的な足がかりを作ろうとするに違いありません。

 

無事に国民党政権が誕生したら、後は詰将棋をさすだけです。

 

まず漁民同士のトラブルみたいな簡単な小競り合いを起こし、それを口実に制裁と称して台湾の国境警備艇やその基地に攻撃を加え、あるいは港を封鎖し、「これは侵攻ではなくあくまでも限定的な中国国内の『事件』に過ぎないから、日米は手を出すな」というヌルっとした感じで侵攻は始まると思います。

 

日本の海上保安庁にあたる中国の海警局は、元は軍隊ではなく海の警察という位置づけでしたが、2018年からは軍の指揮下に置かれるとともに重武装化しています。これは明らかに台湾や日本をけん制し、有事の際には軍事行動か単なる法執行かをあいまいにするためのトリック的な再編成でしょう。

 

この時点で一応アメリカは戦力を台湾付近に派遣すると思いますが、上陸が始まるまでは目立つことはできないと思いますし、ましてや日本は何をするでもなく煮え切らない態度で時間を浪費するのではないでしょうか?

 

ここから先は、本当に分かりません。

国民党か民進党のどっちが政権を握っているかでも詰将棋のやり方は大きく変わって行くでしょう。

 

いずれにしても台湾の対応を再び口実にして、大げさなプロパガンダとともに侵攻のスパイラルを作り、徐々にその度合いをエスカレートさせていくはずで、これに対してアメリカは「これ以上は侵攻と見なし、武力支援または直接参戦をする」というレッドラインを引いて通告するはずです。

 

そのレッドラインを越えたか越えないかにかかわらず、アメリカはある時点から武器供与やサイバー攻撃、電子戦を始めると思いますし、さらにレッドラインを越えればホントに参戦をするかもしれません。現在のアメリカ世論は、与野党ともに反中国で凝り固まっており、軽率な行動は避けるにしても「やる時はやる」という意思は強固なようです。

 

アメリカは米中対立をもはや二国間の覇権争いでなく、自由主義陣営と権威主義陣営の世界を二分する戦いに昇華させ、アメリカのリーダーシップや存在意義にもかかわる問題としているようです。

 

当然にアメリカは日本にも何らかの貢献を強く要求してくるはずです。

その日本も親日国である台湾への友情やアメリカに強く言われたからというのではなく、台湾情勢は国益にダイレクトにつながります。

 

与那国島や尖閣諸島を取られるということだけではなく、バシー海峡を中国に支配されれば、日本の通商、特にエネルギーの輸入は中国の思いのままになり、10年後には韓国のように右の頬をアメリカに、左の頬を中国に引っ叩かれながら生活することになりますし、ヘタすればレッドチーム入りになってしまいます。

 

まあ、遣隋使・遣唐使時代のように中国を太陽と崇めてやっていくのも選択肢の一つかもしれませんが、私は中国のヤボったさが嫌いですし、朝から炒め物を食うのも胃にもたれそうなので遠慮したいところです。

 

さて、それでは日本はどうするかです。

 

いまだに「戦争反対!」と叫ぶだけで戦争が防げると思っている人たちがいますが、戦争に賛成なのは兵器産業関係者か狂人くらいのもので、そう言われなくても99%の人は戦争反対でしょう。思想信条の問題ではなく、「どうやったら戦争を防げるか」という技術の問題なのです。

 

戦争を防ぐ方法の一つは、国際社会で声を上げ続けることと軍備を怠らないことです。この二つはセットであり、冷徹な国際関係においては力のない国がいくら声を上げても誰も意に介しません。外交による話し合いとは一事が万事駆け引きであり、その背景には何らかの影響力、特に安全保障分野においては「話し合わないなら痛い目にあうぞ」という武力が不可欠なのです。

 

日本の戦力は国内外の世論に遠慮してか、特に兵器の性能があまり公にされていませんが、潜水艦戦と掃海(機雷などを取り除く活動)は世界最高水準だと言われています。ドサクサに紛れて、いつの間にか軽空母も作っていますが、空母の運用や作戦は複雑ですので、実力は未知数です。サイバー戦はやっと小規模な部隊を組みましたが、中国はもとより北朝鮮よりもずっと劣っているだろうとのことです。また、戦闘は経験がものを言いますが、第二次世界大戦以降は戦闘経験がありません。

 

それでも実戦での大きな変数となる練度は伝統的に高く、日清戦争も練度の圧倒的な差で勝ったようなもので、中国も日本の強さを忘れていないでしょう。

 

話はそれますが、数年前に中国の潜水艦が日本領海内で浮上し、中国国旗を掲げた事件があり、日本政府は示威行動だとして抗議しましたが、実はこれは逆です。潜水艦というのは存在を見せることが重要な空母と違って、その海域にいるかいないか分からない、ということが脅威の根拠であり、浮上してしまったらただの晒し者です。

無害通航権と言って、他国の領海内であっても、軍艦は国旗を掲げて静かに通行することができます。その際、潜水艦の場合は浮上しなければなりませんが、潜水艦の存在意義から考えて律義に浮上して自ら姿をさらす潜水艦などいないのです。

 

この潜水艦は日本の潜水艦にずっと追尾されていたことに気づかず、日本の領海に侵入した後でおそらく航空機からソノブイ(音響センサー)を投下されて初めて追尾に気づき、撃沈されるのではないかと慌てて浮上して無害通航のテイを取ったのです。

潜水艦の場合、潜水時は簡単に本国と連絡が取れませんので、もし撃沈されたとしても撃沈した日本以外は真相を知りようがなく、日本はとぼけ続けることが可能であり、万一日本に撃沈されたことが分かったとしてもメンツを重んじる中国も事故で済ますでしょうから、闇から闇に葬られそうになった艦長はホントにチビりそうになったに違いありません。

 

今や軍艦や戦闘機の数においては日本は中国に大きく水をあけられていますし、アメリカも即時投入できる兵力は限られています。

それでも潜水艦戦については、潜水艦や対潜哨戒機そのものの性能もさることながら、冷戦時代に対ソ連で日々訓練を積んできた日米が圧倒的に強く、中国にしてみれば日米の潜水艦が無事である限り、中国艦艇がすべて沈められることは時間の問題だと考えているのではないでしょうか。

 

情報戦においても、偵察衛星や偵察機、電子戦、サイバー戦、海中聴音網、国際世論戦など中国はアメリカには遠く及ばず、それも中国は十分わかっていると思います。

 

そう言えば先日ペロシ米下院議長が台湾を訪問した際に、中国が搭乗機を追尾しようとしましたが、アメリカの電波妨害によって追尾できなかったとのことです。

 

それに対して何と言っても中国の切り札は核ミサイルであり、最近では日米のミサイル防衛網を突破できる極超音速ミサイルを持っていますが、核ミサイルはおいそれと使えるものではなく、ましてや台湾侵攻は船で陸上部隊を輸送しなければなりませんので、どっちにしろ日米をうまく遠ざけながら絶妙かつ綱渡り的な作戦を組まなければ武力統一はかないません。

 

ちなみに中国は空母も2隻就役させていますが、空母を有効な戦力とするためには随伴艦や艦載機の編成、運用システムの確立、人員の訓練などに15年くらいはかかりますし、メンツを重んじる中国は、虎の子の空母を撃沈されたら政治的に耐えられないと思いますので、現時点では戦力外と言っていいのではないでしょうか。

 

そのようなミリタリーバランスを背景に、日ごろ優柔不断な日本が「台湾有事は日本の有事」と一線を越えた声を上げたことはとても有効だと感じます。「台湾を侵攻すれば日本も参戦する」との疑念を中国に抱かせて、武力統一のハードルを一段階引き上げたわけです。

 

以前にも書きましたが、中国は一人っ子政策の影響ですでに高齢化に向かっており、あと30年もすれば台湾侵攻なんて余裕はとてもなくなると思います。よって少なくともこの10年をだましだまし侵攻させなければ、戦争が勃発する確率はずいぶん下がりますので、ハードルを上げ続けることが大切なのです。

 

もちろん中国もそれを分かっており、上がったハードルをさらに超える体制づくりを急ぐでしょう。

 

それでは事前の駆け引きも通じず、いよいよ中国が台湾に攻め込んだ時に、日本はどうするのか。

 

これはとても難しい問題ですし、いろいろな考え方があるでしょう。

 

私は尖閣やシーレーン以外の理由においても、本土間戦争にエスカレートしない範囲で台湾防衛に出来る限り力を貸した方がいいと思っています。

 

その理由とはアイデンティティーです。

 

日本は世界でも稀にみるアイデンティティーが強固に確立された国です。

日本という地にある日本という国に日本語を話す日本人が1000年以上続く日本文化の中で生きている国など滅多にありません。日本人として生まれれば自動的に同質的な人に囲まれ、英雄が群がり出た長い歴史の一部になり、一定の誇りを持って自分が何者であるかということに疑念を抱くことなく人生を送れるのです。

 

そう言われても初めからその中にいるとピンときませんが、お隣の韓国を見ると国のアイデンティティーがこれほどまでに個人の心に影響を与えるのかということを痛感せざるを得ません。

 

韓国が日本に悪態をつき続けるのは、小中華思想や日韓併合に原因がありますが、もう一つの原因は建国のアイデンティティーだと私は思っています。

大韓帝国は1910年に日本に併合され、終戦とともに解放、1948年に南半分の韓国が建国されました。それは誰が見ても客観的な史実だと言えます。

 

しかしこの建国は韓国が自ら勝ちとったものではなく、アメリカが日本に勝って得た、言わば棚ぼた式の建国であり、「ラッキーでよかったじゃん!」とも思うのですが、人間とは不思議なもので、他人の手による建国自体に根深いコンプレックスを抱き、未だに自国の正統性を巡って論争をしているのです。

 

なお、以下に「朝鮮」や「朝鮮人」という言葉を使いますが、差別的な意味ではなく、現在の北朝鮮も含めた地域範囲による呼称です。

 

日本統治時代に一部の朝鮮人が上海で韓国臨時政府なる抗日組織を結成しましたが、内紛に内紛を重ねたり、強盗で資金調達をするなど、名称ほど立派な組織とは言えなかったようです。人数も200~300人ほどしかいなかったようで、大戦末期に日本軍に志願した朝鮮人は30万人(倍率50倍)ですので、実質的には誤差程度のサークルだったと言っていいでしょう。

 

ところが国際的な認識とは異なり、なんと韓国憲法ではこの韓国臨時政府の結成日である1919年を建国日としているのです。

 

「そもそも日韓併合は違法であり、一時的に上海に政府は移ったものの、連綿と韓国は続いている」という理屈であり、「終戦間際に独立作戦を立ててアメリカとともに進軍したが、一足早く日本が降伏してしまった。降伏しなければ自分たちの手で独立を勝ち取ったはず」と新人社員の言い訳のような話もくっついています。

 

しかし、戦後に韓国臨時政府は連合国に承認をアッサリ拒否されていますので、そう思っているのは韓国人だけなのです。韓国人自身も「ほんまかいな?」と思っているのかもしれませんが、棚ぼたで自国ができたとも思いたくないらしく、「抗日の志士の遺志を引き継ぐ国」という幻想の中にいます。

 

結果として、反日は韓国人の自己の正統性を確認するための鏡となり、回遊魚が止まると死んでしまうように、反日を止めれば自分や自国のアイデンティティーがガラガラと崩壊してしまうのです。極論すれば、もはや現実の日本は関係なく、反日は彼らの心に巣作ろう思想信条や宗教の類と言ってもいいでしょう。

 

実は抗日の志士と言われている人たちは、日本の身分解放政策によって特権を失った両班(貴族)であり、統治初期に一度だけ大きな独立運動はあったものの、その他のほとんどの人は多少の差別を受けながらも身分解放や日本が整備した教育や医療、インフラの利益を享受していました。

なので当時を直接知る人たちはむしろ日本への悪感情が少なく、その後のエスカレートした反日教育を受けた世代の方が反日感情が強いという矛盾が生まれています。

韓国人がよく問題にする「旭日旗=戦犯旗」もつい10年くらい前に突然言い出したことで、それまでは誰も気にも留めていませんでした。


以前は「韓国は豊かになれば反日を止めるはずだ」と言っていた人が多かったのですが、すでに一人当たりのGDPが日本に近づき、一部の産業では追い越した今でも、むしろ反日がエスカレートしているのはそのためです。

 

日韓関係だけでなく、昔から朝鮮は地政学的に常に大国に振り回されながら生きていく運命にあり、自分で自分のことを決める権利を踏みにじられ、常にアイデンティティーは不安定でした。

 

特に中国は1000年以上も朝鮮の宗主国でしたので、韓国人のアイデンティティーの弱さをよく理解しており、時におだて、時に横っ面を張って日米韓の離間工作にいそしんだあげく、数年前には中韓政府間協議の場で「朝貢外交に戻ったらどうか」、つまり「属国に戻れ」という現代国際関係としては耳を疑うことまで言っています。

 

韓国人共通の気質の一つとして有名なのが「恨(ハン)」です。

これは「うらむ」とは少しニュアンスが違って、どうすることもできない無念さや優越者に対する妬みからくる鬱屈(うっくつ)感情であり、このような感情をもって生き続けなければならないことは気の毒としか言いようがありません。

 

前置きが長くなりましたが、人間が精神の平衡を保つ上で安定したアイデンティティーは不可欠であり、強固なアイデンティティーをもつ日本人には分かりづらいのですが、一度それが壊れると100年単位で苦悩を抱えることになるということです。

 

戦争絶対反対論者は「とりあえずウクライナ人は戦わずに逃げるべきだ。その方が人命損失は少ない。」と言いますが、戦わずして国を失い、その後国際社会つまり他者の努力によって国を回復したとしても、それはこれまでに自分たちが築き上げてきたアイデンティティーのリセットであり、何代にも渡ってウクライナ人の癒えがたい心の傷として残るに違いありません。

 

だからこそ開戦当初は勝ち目がないと思われていたにもかかわらず、ウクライナは初めから徹底抗戦の構えを崩さないのです。ヨーロッパでは長年流浪の民となって苦しんだユダヤ人が身近にいますので、アイデンティティーを失うことへの切迫感は我々が想像もできないくらい大きいのではないでしょうか。

 

翻って、直接の存亡の危機ではないにしろ、力を貸さなかったがために親日国の台湾が中国に蹂躙され、シーレーンを抑えられて中国に日本の手綱を握られることになれば、日本人はアイデンティティーの面で今までとは違う自己認識を持たざるを得なくなると感じます。

 

そのことが日本の未来にいい影響を与えるとは思えないのです。