先日、「マンホール」という映画をテレビで観た。

結婚式を翌日に控えたイケメン会社員が、仲間が催した前夜祭の

帰りにマンホールに落下した。

足は怪我をしていて身動きできない。

110番に電話してものらりくらりの対応で

友人達も電話が繋がらない。

さてどうする!? という内容。

(その後の展開はネタバレになるので自粛)

 

ほぼその俳優(中島裕翔さん)の独壇場とも言えるシーンが長く

特にファンではない私は、作業をしながら流し観ていた。

スマホを駆使して脱出を試みるのは今時の若者なんだなぁと納得しつつも

勉強させてもらった。

 

そんな私も落ちた。

正確にはマンホールではなく涸れ井戸に落ちた。

土管を埋め込み、かつてはポンプも設置していただろう

野菜用の浅井戸だと思われる。

普通はヘリがあり落下しないよう配慮されているのだが

数十年も昔の井戸なのだろう、草で覆われて何も見えなかった。

 

ある日。

我が家の裏のハウスに住む保護犬「シロ」のために

妻が寒かろう、と雨風を防ぐ意味でビーチパラソルをシロのスペースに設置した。

設置したというか置いただけ。

埋めもせず紐で縛りもしない。

風に飛ばされると警告したが、妻は

「そうなったらその時に考えれば良い」

と横を向く。

案の定、数日で風に飛ばされたパラソルは他人が管理する隣の畑に飛んでいった。

イノシシ避けに堅牢に設置されたワイヤーメッシュを超えるのは難儀に思えた。

妻は園主さんは知り合いだから、今までも他の資材が風に飛ばされた時には、園主さんに

拾ってもらったと開き直る。

 

私の感覚で言わせてもらえば、園主さんには申し訳なく思い、

妻には、もっとしっかりとしたカバーを付けるなど、なぜしないのか?

理解に苦しむ。

あなたが自分の敷地やベランダにしょっちゅう、隣人の洗濯物が舞い込み

その都度、取りに行ったり届けたりしても内心笑顔でいられるだろうか。

独身の男性一人暮らしで飛んでくるのが

若奥様のセクシーショーツだったりしたら

どぶろっくの歌のように

誘ってるんじゃないの♪

と妄想を楽しめるが普通は迷惑だろう。

 

私は寒気が強い日や豪雨に備えてガレージの中で一時避難させることを覚えさせることを

妻に助言したが、シロが土を掘れなくてストレスが溜まるからという理由で却下された。

いや、あくまで一時的なんだけどね。

 

朝、車で出かけかけたが、隣の園地に転がるパラソルをぼう、と見つめる妻に気づき不憫に思った私は

柵を乗り越えてパラソルを取りに行った。

腰まで生えたドロボー草に気を奪われて、気が付いたら一瞬で脇の下まで落下していた。

深さ130センチほど直径60センチほどの涸れ井戸だった。

一部始終を見ていた妻が声を挙げる。

一瞬で私の姿が視界から消えたのだ。

どうにか脱出し、手にしたパラソルを妻に渡した。

涸れ井戸から這い出る私はまるで

「貞子」のようだったと妻は興奮して讃えるが

他にたとえがないものだろうか?

 不屈の闘志でダウンから立ち上がるロッキーのようだった、とかさ。

まぁ状況から見れば妻の貞子が正しい。

見たら呪われてしまうホラー映画以外で、人間が井戸から這い出る姿を

目撃した人がどれだけ世間にいるだろう?

稀少なものを拝見させて頂いた。 

これぞ眼福の極みなり。ありがたやという感謝の気持ちでも

妻から感じられれば怪我のしようがあるのだが。

 

憮然とした気持ちで足元を見ると左足首のズボンの裾から

血が流れクロックスを赤く汚していた。

右の脇腹も痛い。

まだアドレナリンが出ているが、落ち着いたらきっと痛みが増すだろう。

その日はレモン収穫の予定だったので収穫作業を始めるが、どんどん深く突き刺さるような痛みが染みてきた。

作業をスタッフの方に引き継いで私は病院に向かった。

 

レントゲンには映らないが

走れない、咳をすると痛い、腕を伸ばせないなど

医者いわく

「ヒビが入ってる症状」

確かに時間が経つにつれ、痛みが顕著になり一ヶ月以上の患部の固定を勧められた。

肋骨の痛みを我慢したあげく、肺に肋骨が刺さっていた友人も知っていたので

所見で折れていないことが確認できたのでひとまず安心する。

 

だが、子供と通うジムでミットを持ち他の子供さんのパンチを受けたり

寝技の受け身の実践相手もおそらく年内は無理だろう。

数日前にもバイクで転倒して肘を擦りむいた。

 

妻の「その時に考えれば良い!」 は大抵自身で解決できずに

周りを巻き込む。特に私を。

肋骨にヒビが入っても井戸に落ちたのが妻や子供ではなく

良かった、と本気で安堵する。

そんな私だから厄が際限なく回ってくるのだろう。

 

落ちた時に頭などを打っていれば大事だった。

ヒビで済んで良かった。

傍らに妻がいて幸いだった。

そう考えるプラス思考もある意味、病気だな。

もしかして妻が仕込んだ完全犯罪が未遂に終っただけかもしれないが。