一年ほど前に泊まった宿泊施設のロビーに経営者であるご主人の趣味であろう本が並んでいた。

 その一冊にビートルズの

「ホワイトアルバム」を解説した本があった。

 朝食時に読んでみると面白い。

 赤ペン入りで読み込んだ後が窺える。

 同年代と見受けられるご主人と少し話しをした。

 レコードで聞き込んでいた私は収録曲で

「ハッピネス・イズ・ウォーム・ガン」

が一番好きだ、と嘘偽り無く言った。

 ご主人は同意するかのよう薄く笑った。

 

 先日、移動の時間の合間に映画を観た。

「ヴァチカンのエクソシスト」

 

 1973年の「エクソシスト」は確か

劇場に観に行った記憶がある。

(メリン神父役の俳優が当時40代前半だったとは驚愕)

 観に行ったのは父親と一緒だったかもしれないし、小学校四年生あたりの私は錦糸町の

映画館に一人で親から金を貰い観に行ったのでそのどちらかだろう。

 当時の売り文句で「○歳未満は入場禁止」だったのなら受付だけ済ませた父は

 映画が終るまで「錦糸町の楽天地」でパチンコしていたのだと思う。

 

元祖エクソシストは映画開始から四十分ほどまで派手な展開はなかったが

「ヴァチカンのエクソシスト」

は冒頭からフルスロットルだ。

 

 少し前に、以前編集の仕事をやっていたという方とお話したが

 今の時代、小説、漫画、映像はどれも

最初の数行、数ページ、数分で読み手なり観客を引き込み

読み進め、観続ける程にあらゆる謎がちりばめられ、次々に伏線が回収されて

ラストまで飽きさせないまま予想外の結末でショックを与えないといけない、という。

 エクソシストの原作小説は確か最初の三分の一位まで「何も」アクションが

なかったと記憶するが現代なら大作家でも補正を提案されたかもしれない。

 ちなみに「レット・イット・ビー」を聴いた若者が

「イントロ長過ぎ!」とスキップすることも珍しくないという。

 

「ヴァチカンのエクソシスト」

は主演ラッセル・クロウの絶対死なない感もあり、安心して観られた。

 だが仏教の国で育った私にはどうも

聖書を唱えると悪魔が苦しむという図柄に入り込めない。

 

 宿泊先のホテルには必ず聖書が置いてあり、めくってみるが

 頭に中々入らない。知っている節はある。

 映画を観ながらふと思った。

 

 例えば悪魔払いで

神父「暗いと不平を言うよりも、進んで灯りをつけましょう!」

悪魔「ギャー!」

神父「つけましょう!」

悪魔「やめろ! 苦しい!」

神父「つけましょう!」

これで祓えるのか? 悪魔が。

 

 悪魔払いに相応しい一節がきっとあるのだろう。

 

 1年前の宿泊先の件で

ビートルズの「ホワイトアルバム」をネットで買い車で聴いている。

 息子も気にいっている。

 特に気にいっているのが「ハッピネス・イズ・ウォーム・ガン」

と言いたいところだが、息子が大好きなのは

「オブラディ・オブラダ」

 

サビの一節

「Lala how the life goes on♪」

を「ララララ、ライス餃子♪」

と歌い替え、はしゃぐ姿を見て私は思う。

 そうだよな。

 俺が好きなのは「ハッピネス・イズ・ウォーム・ガン」ではなく

「オブラディ・オブラダ」

 なんじゃないのか。

 下手なベースで弾いてみるのも「オブラディ・オブラダ」だし

聴いて心が弾むのもオブラディ・オブラダだ。

 今まで何を気取っていたのだろう。

 

 誰かとホワイトアルバムについて話す機会があれば、次は言えるかもしれない。

 私は「オブラディ・オブラダ」が一番好きです!

 言い切れた時、肩の力の抜けた横顔で私はいるだろう。

 時間はかかったが、人生の一節が見つかったようだ。