毎年の事だが8月を越えるとガックリと疲れる。

連日35度を超える猛暑を乗り越えた安堵からか

九月は燃え尽きたようにぐったりとしている時間が多い。

 

雨が降り秋の訪れを肌で感じると体力も気力も

徐々に回復し収穫の時季を迎えるのが

農家になった自分のルーティンだった。

だが今年は違った。

いつまでもだるい。

初めてのことだった。

 

六月の終りに異例とも言える梅雨明けとなり

その後、雨も降ったが暑く長い夏だった。

おまけに今まで侵入されたことのない

園地で猪が連日、柵を壊して園内を荒らされた。

食われる果実はなかったが園地は無残に掘り起こされた。

根をぶち切られたレモンは酷暑も相成って

枯死寸前にまで陥りかん水を施しついた実を落とし応急処置を施す。

最初は小さかった柵の侵入口も猪の成長に伴ってか

徐々に破壊される痕跡が巨大に変化する。

同じ猪なのだろう、破壊された痕跡で成長を知るのが

腹が立ってたまらない。

 

柵の補修やかん水に追われる毎日。

朝の六時過ぎだがすでに蚊や蜂、アブは活動しており

柵の補修中にアブに尻を刺された。

小学生が戯れにする

「指カンチョー」のように

局所に鈍痛が走る。

痛みの種類で蜂ではないと分かっていたが

のけぞる痛さ。

数日の間、局所にキンカンを塗る二重の傷みを味わった。

 

生まれついてのブルーカラーなのだろう

体力仕事はどうにかスタッフの力を借りて

片付けることができた。

 

だが書類仕事になかなか手をつけることができない。

「今日の仕事を明日に残すな」

を胸に刻んでいた自分だが、酒でも飲んで

明日にでもなればやる気になるだろう、と仕事を先延ばしにして

翌日を迎えるが、だるさは抜けない。

とにかく疲れて、横になりたい。

だが横になると起き上がることが困難であることが

経験上分かると、今度は横になれない。

だるいのは体力が落ちたせいだと

発憤し、走りサンドバッグを叩くが

トドメを刺されたように

いよいよ身体がしんどくなった。

 

十月になっても一向に改善されない。

これはおかしい。

タレントのヒロミさんの「更年期」の記事を読むと

得心する箇所があった。

今治の病院に行き血液県検査をして

一週間後、結果が出た。

 

男性ホルモンの数値で言うと五十代平均値が

「6,9~18」だそうだが私は約11。

 

17あったのが11だと下がったことになるし

元々11程度だったのかもしれない。

そもそも自分のテストステロン値など測ったことがないから

高いのか低いのか見当がつかない。

「まぁ皆さんそうなんですよね」

そう笑う医者の勧めでテストステロンの注射を打った。

 

その日の夜から効果はあった。

先延ばしにしていた書類作業に手をつけることができた。

思い込みかもしれないし

涼しくなり体力が回復したのかもしれない。

ここ数日で、丸々と大きくなったレモンやライムを見て酷暑の中

かん水を続けた労苦が報われた気持ちも作用していると思う。

 

 

注射の効果なのか、精神的にも上向きになったようだ。

他の市のよりリモーネの視察研修会があったが

どうにも気が乗らなかった。

ほとんどは善意の方だが

ごく一部に相手を強い言葉で刺激して本音を

聞き出そうとするジャーナリスト精神を

標榜される方もいて、そんな方とのやり取りは

疲れる。

面倒くさい。

それが理由で気が重かった。

だが今ではそんな輩にどんな毒をはいてやろうか? と

沸々、手ぐすねを引く自分に気付いて回復したことを自覚する。

おらおら、

「池袋のベビーフェイスアサシン」

と呼ばれた俺が相手になってやるぜ!

気勢を上げ始めた頃に先方から都合が悪くなった、と

断りの連絡があった。

 

憤りの矛先を仕事に転化させる術はすでに身につけている。

明日も頑張ろう、と。