なくし物はなんですか?

それより僕と踊りませんか♪

 

なぁに呑気な事言ってるんだ!

財布だよ! 俺は財布を探してるんだ!!

 

十年ほど前に財布をスーパーで無くした。

チェーンソーを使う作業でその日は油よけでツナギを着ていた。

作業が終りスーパーで買い物を終えて、袋に品を詰めているとき、

普段は尻ポケットに入れる財布をポケットが尻無いツナギだったため

物置台に置いたまま店を出てしまった。

二十分ほどして車中で気付き、慌てて店に戻りレジの女性に顛末を伝えると

「見つかったら連絡しますから」

とチラシの裏紙を雑に切ったような紙キレに電話番号を書くように言われた。

はなから見つけることを放棄したような態度だった。

置き引きじゃないか? 私は防犯カメラの映像が観たいと言ったが

「ダミーなんです」

突き放された。

店を出て警察署へ電話もしたが

「しばらく様子を見てください。来署したらいちおう書類は作ります」

署に足を運び書類は作ったが、当然のように進展はなかった。

財布に入れていた三万程の現金は諦めたが、免許証の再交付やらカードの再発行が面倒極まりない。

コツコツを溜めたカードのポイントが無効となったのが、悔やみきれない私はつくづく小物だなと悟る。

 

以来、危機一髪、あわやの事態は度々あった。

昨年。

極寒の一月。

夜半に島を出て車を走らせること数時間。

冷たい雨の降る早朝ロードサイドのコンビニのトイレを利用した。

防寒ズボン(このズボンも尻ポケットがない)を降ろして便座に座ったが前任者が煙草を吸っていたせいで

煙草臭がこもり、私は用を足さずそそくさと買い物もせず店を後にした。

その一時間後。

財布がないことに気づき、コンビニに戻り初老の男性店員に財布の届け物がないか、

尋ねるが、首を振る。

コンビニのカメラがダミーの筈がないと考えた私は

警察立ち会いの元、映像を見せて欲しいと懇願すると

店員は困った顔をして

「お店の外を一周探してみましょう」

と提案する。

雨の中、私は店の回りを丹念に探し店員は

反対側から探し出した。

周の途中で鉢合わせした店員が

「これですか」

差し出したのは私の財布だった。

早朝に私が車を停めた場所に落ちていたようだ。

恐縮する店員に一万円札を渡し

店を後にしながら感謝の言葉を連ねる。

その言葉の途中で雨の中、拾った筈の財布が濡れていない事に

気付き「不信」が心に灯るが、財布が出てきたことで

すべてを不問にすることにした。

 

数日前。

あるスーパーで現金チャージできるカードを作った。

妻と子供と買い物をして清算は無人レジを利用する。

子供が商品バーコードの読み取りに最近、はまっているからだ。

途中で残金が足りなくなり、専用機で現金チャージをして戻ると

子供はおらず、妻を追いかけどこかに消えていた。

初めて使うスーパーで使い勝手が分からず右往左往しながら

大量の品を袋に詰め込む作業を一人で済ませ、妻と子供を探し見つけて

車に乗り込み帰宅した。

翌日がゴミ収集なので

ゴミ捨てに向かおうと家でバタバタしている時に

「財布が無い」

ことに気がついた。

結局は集めたゴミ袋の下に財布はあり、見つかったのだが

妻と子供は大騒ぎした私を責めに責める。

私は非を認めつつ反論する。

「労ってほしい、と懇願するつもりはないが、俺も五十五歳。

うっかりや忘れ物も増えてくる。

買い物や出かけた時に、気ままに行動するも良いが

少しは気をとめてほしい」

と注意喚起を妻に促した。

笑い話が増えるだけならそれで良いが

何かがあってからじゃシャレにならない。

 

ある昼下がり。

リモーネの駐車場で轢死した彷徨い猫「アメチョット」(柄がアメリカンショートヘアーにちょっと似ている)にそっくりな

猫が自宅側に現れた。

驚くべきことに新アメチョット君は伴侶を伴っていた。

野良猫が夫婦で行動を共にするのは私もあまり記憶がない。

志半ば(アメチョット君にどんな崇高な志があったのか今は知る由もないが)で

亡くなったアメチョットを思い私は夫婦猫に

「自由に生きろよ」

無言のエールを送った。

数日後。

新規参入の家猫のBONが窓の網戸の張り付いて

「ンニャ? ンニャニャニャ~!」

咆哮をあげている。

BONの釘付けとなった視線の先を追いかけ

外を見るとあのアメチョット夫婦が我が家の真ん前で

「KOBEE」

をしているではないか!

自由に生きろよ、と見送ったのは私だが

自宅の前で○×なんて自由にも程がある。

「おうおう。一歳にも満たない仔猫の前でいきなり性教育の

実戦授業とはやってくれるじゃないか!」

呆れた私の視線に気づいたのか、アメチョット夫妻は

気まずそうに中断して退場した。

最近、雌猫を見かけない。

近く、一家で挨拶にくるかもしれない。