ある日。 

大三島はリキュールにワインや地ビールなど小さな島ながら

三件の酒造業が起業する特異な島だ。その特性を活かして

愛媛県が三分の二、最大一千万まで助成するので「何か」やりませんか?

 

そのような通達が妻のLINEに島の支所に勤める方よりあった。

この時点でおっさんの私は

「なぜLINE?」

と首を捻る。

まずは各業者を集めて県の人間が説明の場を設けるとか、順番があるだろうに。

すでにその時点で主催者は旅館業を営む方や支所の方、その他の酒造業の方が

主導権を握っている空気と助成金の腐臭がしたので

「リモーネは会社として関係しない」

と私は妻に言い切った。

三件の酒造業が協力する事が最低条件だったので

妻が「店舗責任者」としてイベントに名を連ねることになったが

会の実行委員にはならなかった。

 

その後、県の職員と実行委員会の面々で「親睦会」という名の

ミーティングを兼ねた飲み会が何度かあり妻が参加した。

妻はワインやリキュールや柑橘を誰でも利用できる

ジェラード機の購入とその後の運用を提案したというが

後日決まったのが

「フェス」

だった。

三千万の収支が見込めるなら一千万の上限が助成される「フェス」開催なら

納得だが、コロナ禍のまっただ中、とても正気の判断とは私には思えなかった。

それもたった一日のフェスでだ。

 

要はフェスなら、その後の運用など面倒くさいことはなく、一発の打ち上げ花火で後腐れがないと言うわけだ。

 

案の定。「酒フェス」はオミクロン株蔓延のため中止となった。

 

中止となったが、収支報告書など数ヶ月経ってもないことが実行委員会に向けて

地域の方々より批難と不信の声が挙がった。

県へのアピールのためにイベントに際し名前を使われただけで、

要は貴方たちの助成金ほしさの出汁に使われただけじゃないか、と。

 

遅ればせながら実行委員会より

謝罪の言葉と共に収支報告書が各自にLINEで送られてきた。

私は部外者なので、妻よりLINEを見せてもらった。

 

中止になったといえ、酒フェスというイベントに乗じて、欲しい備品などを購入していたのは

予想できたが、やはりそうだった。

実行委員会の一人が、自店舗開業のクラウドファンディングも合わせて資金を

集めた事実も追加で知り、今時の資金集めに私は怒りよりも感嘆の声が漏れた。

クラウドファンディングのお礼の品として

「リモーネ」の商品を使ってくれたのだから

悪くは言わないで、と妻には釘を刺されているからこれ以上何も言わない。

 

額は数百万だがその書類は県の公印が押された書式ではなく

真贋の見分けがつかない。

 

 

私は複雑な意味で嫌な気分になる。

「けっ。俺ならもっとうまくやれたのに」

という悔恨まじりの腹ただしさ。

妻が私を実行委員会に接触させなかったのは英断だった。

 

だが、やはり助成金に目が霞み地域をないがしろにした軽率さは

気分が悪い。

ごく一部の旨味で終らせず、参加した業者すべてに還元するような

仕組みで旨味を行き渡らせれば良かった。

それが地域の特性により取得した助成金の使い方ってものだろう。

 

ダメ出しばかりしやがって。

お前なら何がしたかった?

と言われれば私なら一千万の上限(実費で一千五百万)を出して

各酒造業から出た残渣を堆肥化し柑橘を栽培する。

同時に島で廃業した貝の養殖場を復活させて、その柑橘からの残渣を粉末加工した

餌を与えて養殖する。島にはかつて漁業に携わっていた方がいるのでその方らを相談役に据える。

酒造における副産物から海産物の新たな特産品を作り、雇用算出(これ重要)を図りたい。

養殖までは無理でも堆肥化までならどうにかなりそうだけど。

妻には「ピンとこない」と首を振られ私も今さらそんなエネルギーはないから、あくまでも机上の話だ。

 

まぁ私だって聖人君子ではない。

事業復活支援金。

今年の二月は昨年の二月に比べて売上が数十%落ちたので

申請した。

昨年の二月がたまたま売上が良かったという

事情があるのだが、要件は満たしているので申請した。

せっかく復活金で支給されても夏には予定納税で

その大半は消えていく。

濡れ手で粟とは無縁の人生だがそんなものだろう。