といっても反社会勢力の組織の話ではない。

 

ごくごく狭い地域の町内会のような集いの話。

昨年一年の組長の仕事は地域の集金やら通帳記帳やら

今治市とJAの広報誌の配布、と大した仕事ではなかった。

 

だが、歩くと二十分かかる十一件の点在する家を回り月二回、広報誌を各家庭ポストに投函するのは

難儀な一面もあった。

スクーターで回ることも多かったが、数千円の手当が支給されたので高騰するガソリン代の足しにはなっただろう。

 

ペーパーレスの時代に逆行するような慣習だが、これも田舎暮らしというものか。

自治会の会長に会った時に、私は来期も組長の継続を直訴した。

スクーターを使えば、さしたる労苦でもないし地域では高齢者も多い現状を鑑みたのだ。

会長は首を振り

「山崎君には、来期会長になるHさんのサポートで副会長をお願いしたい」

とすがるように私を見つめた。

「特にやることはないから」

渋る私に魔法の言葉をかけ、2022年私の副会長就任は決まった。

 

ところが、である。

 

八区に別れる地域の組長さん達役員が集まった時。

会長が私の今期副会長を報告したところ

「密室会議だ!」

と糾弾の声がそこかしこで、上がった。

なんでも副会長になった者は翌年、会長職に着くのが慣わしなのだと。

 

そんな慣わしを知らない私は驚き、辞退を申し出た。

「地域伝統にも暗く、様々な名称や人や場所にも精通していない自分は適任ではない」

それが理由だ。勿論、副会長→会長へのスライド人事を知らされていないことも理由だ。

 

ところが、である。

 

「密室会議」の声を挙げた方も

「いやいや、そういう意味ではなくて」

となぜか腰を引きだした。

面倒くさい会長職だが、要は会議もせずに決まったのが癪に障ったらしい。

 

年金生活者なら時間のゆとりもあるだろうが、現役世代の私には

時間を捻出できる自信がないことを告げると

私の次期会長に難色を示していた方達も

「いや、私達だって仕事やりながらやったんだから、大丈夫」

「仕事優先で構わない」

「分からない事があったら協力するから」

様々な角度で包囲する。

酒造りや畑やら店やら会社やらの煩雑さを説明するのも諦めた。

「もう。どっちやねん!」

手の甲で隣人の肩を叩き

「もう、やってられんわ」

と退席するのも一案だったが、誰かがやらないと

始まらないので、いずれ会長へと続く副会長を引き受けることにした。

 

さっそく、地域の集まりがあった。

大きな議題は地域の防犯街灯の数百万の電気代である。

市から九割の補助があるが、それでも財政難に陥っている。

市道や県道とは別の生活道に設置される街灯である。

役場職員は地区負担額の増額を強く訴え

「すでに五年以上前から言っているがずっと棚上げにされている」

と危機感と不満を各地区代表につのらせる。

 

結局、どうなったか。

来期の負担増を各地域住民にこの一年をかけて、浸透させ納得してもらい

来期より負担増に踏みきることになった。

世帯数は減る一方で防犯灯は必要な箇所が増えていく

出口のないスパイラル。

 

「数百ある防犯灯を一箇所ずつ精査して、五分の一の防犯灯を不要と判断すれば

 浮いた電気代で地域負担増はしなくとも済むのではないか? センサーライトの

補助金も同時に実施するとか」

 と撤去案を口にしたら、場が静まり返った。

 そりゃ夜に災害があった時などは、街灯は必要だけど防犯を街灯に頼るのもどうなのか。

 負担増の前にまずコストカットは当たり前の発想に過ぎなかった。

 そもそも、五年以上棚上げって危機意識が希薄ではなかったのか? 

 街灯不要は現実的ではないと自認もしていたが、街灯に変わる道路工事用チューブライトの設置など

 意見が活性化することを期待していたが、七十代を中心に構成された組織ではやはり新しい動きは難しいの

 かもしれない。

 

会議の数日後。

私という人物像を

「ロシアの指導者みたいな奴やな」

と吐き捨てた方が居たことをここに付け加えておこう。