「都会のデパートに大三島リモンチェッロを並べることがステイタスとは考えていません。

それよりも、島外の方がわざわざ大三島に足を運び、小さなお店を探してくれる。

その事実の方が尊いし自分達の支えになっています」

「広く浅くよりも、狭く深いアプローチを心がけています。

インディーズ志向? 確かにそうかもしれませんね(笑)」

 

かつていくつか受けた雑誌のインタビューよりの主人語録です。

 

ある日。

使っていた掃除機の調子が悪いことを主人に伝えたときです。

「嘘だろ!」

声を張り上げた主人は続けて言います。

「だってダイソンだぜ」

棚から保証書を探し出して

「五万以上したんだぜ。四年で壊れる筈がないだろう!」

ブツブツ言いながらタブレット片手に試行錯誤しています。

どうやら充電器を交換しなければならないようですが、機器に疎い私たちは買い替えの

方向で検討します。

その会話の最中にも

「四年で五万円なら毎年一万円の新品の掃除機を買い替えた方が得だった」

と訳の分からない減価償却を私に訴え同意を求めます。

主人は恨みがましく掃除機を見つめていつまでも

「ダイソンなのに……」

と呟いています。

翌日、主人は

「掃除機、これにしよう!」

目を輝かせて「ジャパネットたかた」のチラシを私に見せます。

「テレビCMでもやってたんだ。あとは色は君が決めてくれ!」

 とほぼ既定路線のようです。

「狭く深いアプローチ」どころか、広く浅いコマーシャルのど真ん中にどっぷり漬かっている

自覚はないようです。

 

ある日、主人が

「ついに買ったよ……」

思い詰めた表情で私に見せたのは「T-fal」のフライパンでした。

フライパン自体を消耗品と捉え、今まで我が家ではあまり高価なフライパンは

購入したことがありませんでした。

以来、主人は出てきた料理にいちいち

「これT-falで作った?」

と聞いてきます。

面倒くさいので毎回、適当に返事をしています。

その日も台所に立つ私の隣からフライパンに箸を伸ばし

つまみ食いをします。

「うん。やっぱりT-falで炒めると違うね」

私は取っ手をそっと主人の視界に入るように手を放します。

主人は取っ手にある

「IKEA」

のロゴに気が付かないのか

「熱伝導がどうたら」

熱弁を続けます。

 

就農当初、師匠である農家さんから蘊蓄を並べて

消費者に「美味い!」と思わせ「脳で食べさせる」のも

これからの農家にとって必要なスキルだと御教授いただきました。

主人は農の技術は未だに半人前ですが

「脳で食べる」

を体得し実践しているのは間違いないようです。

 

ある夏の日。私がお店が忙しく昼食を食べるタイミングを逃したことを言うと主人が

「俺だって昼飯、家で座って食ってないんだ!」

まるで忙しいのはお前一人じゃない! とばかりに目を剥かれました。

 

そんなある日、昼時に自宅に戻ってきた私は主人の昼食光景を目にしました。

「裏原宿のワンプレート」を自称する前日の残り物を一皿にまとめただけの

ぱっと見て残飯。目を凝らしても残飯のワンプレートを片手に主人は立って半ズボンでスプーンで

確かに立ったまま食べていました。

それも歩きながら。

主人の足元には数匹の猫が雄叫びをあげながら

まとわりついています。

ハメルーンの笛吹きに付いていく猫そのもです。

猫が食べれるオカズにも関わらず猫は

主人が一人で食事をするのを猫達は許していないようです。

きっと猫たちは下位に座する主人が食事する事を許せないのでしょう。

猫たちはシュプレヒコールを唱えながら、意を決したように

飛びかかります。主人は足を交互にスイッチし猫たちの攻撃を器用に

躱しますが長くは続きません。

「ぎゃぁぁ」

ついに主人の足に猫が飛びつきますがワンプレートの中身は

もうありません。

勝ち誇る主人ですが太股にはブルーインパレスが大空に

描くスモークのような猫の爪痕がくっきりと残っています。

私は今年のオリンピックを思い出すと同時に合点がいきます。

「そりゃぁ、座って昼飯食えんわな」