八月二日。仔猫を保護した。

 

国道を走っていると仔猫がカラスと格闘していた。

 

仔猫は果敢にも前脚を広げカラスと対峙している。

 

車で近づくと仔猫は私の車の下に逃げ込みカラスは飛んでいった。

 

妻に連絡するが、こんな時に限って電話にでない。

 

猫を連れて島の動物病院に行く。

 

病院に着くと外部にいた若い男性が話しかけてきた。

「テレビ東京の動物ピース」という番組の取材で

大三島の動物病院の女医さんに密着取材をしているという。

 

今日保護したと仔猫を見せるとカメラを廻しても良いかと聞かれ了承する。

五百グラムの仔猫にノミ、マダニなどの駆除薬のシリンジを背中に滴下する。

 

若いスタッフはフランクな口調で

「この辺で美味い店ってありますかね」

名前を挙げると密着取材だけあって島の西側にある店はほとんど、食べに行ったようだ。

 

私は島の反対側にある鮮魚のお店を紹介すると彼は一人、盛り上がった。

コロナ対策に敏感なお店で店内に

「黙食」の注意書きが貼られているお店だけど

口数の多そうな彼は大丈夫だろうか? 少しだけ心配になった。

 

仔猫は妻とすったもんだのあげく、我が家で引き取ることになった。

後日、様々な取材ネタから私の仔猫保護が取り上げられることになった。詳細はLINEします、と電話が切れた。

彼から送られてきたLINEには

『こちらが先日、保護した仔猫です。名前は○○です。『大三島のここ動物病院』の先生に処方してもらった薬で

カラスにやられた目もすっかり回復しました』みたいな感じで動画よろしくお願いします!」

と書かれてあった。

 

子供は「なんで家に取材こないの?」

と口を尖らせるが「今、コロナだしね」と曖昧に答え私は撮影に取りかかる。

 

難しい。

喋りながら動画を撮影するのがこんなに大変だとは……。

キューブリック監督ばりのテイクを重ねてやっと自身で納得できる映像が撮れた。

 

再生してみると子供も妻も吹き出した。

 

妻いわく

「これって放送事故にならない?」

私の喋りはどもりながらの、たどたどしい説明を間投詞と繋げるという非常に聞き取りづらいものだった。

 

やり直す気力はない。

私は動画を送信した。

 

「お、お腹が減ったら、優しい人から、お、おにぎりを貰えば良いんだな。これが」

色々と誇張はあったドラマだったようだが、子供の時に見て印象に残っている。

私の人生も放浪のまだ道半ばだ。

 

寝顔が死んだ猫に見えてしまう。