かつて密着取材されたときだ。
TV制作会社のディレクターが、空転を続ける私の孤軍奮闘ぶりを
「旦那さんを見ていると涙が出ちゃうな」
と憐れんだ。
そんな私だがこの夏は午前中の仕事を終わらせると
自宅でサーフパンツに履き替えてYouTubeで適当な番組を観ながら
ランニングマシーンで走る。
したたる汗のままライフジャケットを装着しシュノーケリングマスク片手に自転車で数分の海岸に向かう。
海に着くとマスクを付けて海面を十分ほど漂いクールダウンする。
他人からは歯がゆい人生を歩んでいると思われているだろう私だが
ランニングマシーンとシュノーケリングで小さな充実感を味わっている。
仕事以外で汗をかいているせいか増加傾向にあった体重も落ち始めた。
タニタの体組成計で私の体内年齢は十五歳若い数字を保っている。
だからこそ。
信じていた。
ワクチン接種による副反応を。
昨日ファイザー一回目の接種を終えた。
家族以外に会話する機会のほとんどない私なのに。
都会では働き盛りの層がまだ接種できていないというのに申し訳なさを覚える。
体内年齢が若いと副反応が顕著にでるという話を、よく聞いていたから接種当翌日のスケジュールは余裕を持たせた。
朝の九時に接種を終えて半日経過を見る。
接種した腕は痛いといえば痛いが、数日前に子供に前転の見本を見せた時に痛めた首と背中の痛みの方が深刻だ。
あまりに体調はなんともないので海に行きシュノーケリングマスクで漂った。
夕方、子供をピアノ教室に連れていく。
ピアノ教室の先生は五月に接種済みだ。
四十代の息子さんがいるからそれなりの年齢だ。
私は先生に第一回目のワクチンを接種したことを報告した。
先生は私に副反応を尋ねた。
私は何もない、と答えると先生は驚愕する。
「あんたみたいな若い人は絶対、熱出るはずよ。身体だるくない?」
今度は逆に私が先生に副反応について尋ねる。すると
「あったわよぉ! 一回目も二回目も。腕は痛いし倦怠感が凄くてぇ」
先生は戦果を挙げた兵士が古傷をいたわるように、腕をさすりながら遠くを見やる。
ぼうっとする私の視線に気付いた先生は
「違うの、私が若いとかそんなのじゃなくて、人それぞれだから、ね」
先生は顔を引き締めた。
「二回目はくるよ! 次よ、次!」
敗退したスポーツ選手を叱咤する口調で私に檄を飛ばす。
二日目の今日も何もない。
愛媛では過去最高に近いコロナ感染者数を記録しているし
今治市でも連日数人の感染者が報告されている。
東京では一日一万人に届こうか、という勢いで感染者が増えている。
だが東京の知り合いも含めて、周囲で感染者の情報は入ってこない。
知り合いの知り合いという距離感だった。
だが、先日ニュースでお会いしたことのある方のコロナ感染が報じられた。
野々村真さんだ。
だいぶ前だがテレビ番組の取材でお店に来て頂いた。
カメラが回っていないときも気さくな方で板東英二さんのエピソードなどで
笑わせ頂いた。
一日も早いご回復をお祈り申し上げます。