あなたは何を信じていますか?

労働の積み重ねこそ信じるに値する真摯なものだと日々感謝しているでしょう。

絆?数年に一度しか連絡を取り合わなくても相手を感じる。それが絆です。

金?トムクルーズが主演した映画カクテルの原作本にはこんな記述がありました。

「金じゃない、と言えるのは金持ちだけだ」

そう言って憤るのです。

さて。愛ですね。

 

昨年の夏。

全国的な猛暑でしたが大三島も例外ではありません。

午前中の早い時間に作業を終わらせた私は

スクーターにまたがり二つ隣の島に買い出しに出かけました。  

目的地は因島という島です。

作家の「湊かなえ」さんや「ポルノグラフィティ」の出身地として

有名な島です。

この島は愛媛県では無く広島県ですが、さすが広島だけあり、大きなホームセンターやドラッグストア、深夜まで営業しているスーパー-や携帯ショップもあり

我が家は気晴らしと「都会の風」に触れるために、たまに因島に足を伸ばしますが日中とあり私は一人で出かけました。

その日も三十五度を記録し暑い日でした。

ホームセンターで猫餌を買いだめして

スクーターに詰め込み、隣接するスーパーに今度は人間用の食材を求め入店しました。

 汗で重くなったTシャツがスーパーの冷えすぎる冷気を吸い込むと

「ギュルル!」

私は猛烈な便意に襲われました。

買い物途中でしたが私は迷う事無くトイレに駆け込みました。

それだけ非常事態だったのです。

トイレ入り口には清掃員のおばちゃんがいましたが

私はそのおばちゃんをインコーナーから追い抜き

何も考えず個室トイレの左側に入りました。

ズボンを降ろし「いざ」の瞬間です。

「うおお~!なんじゃこりゃあ!」

隣室より清掃員のおばちゃんらしき声がとどろいたのです。

続いて

「ったく!どこにケツの穴つけとるんない!おお!」

隣室トイレがあまりに汚れていたのでしょう。

仁義なき戦いのリアル広島弁が板一枚越しに私の耳をつんざきました。

その後も、おばちゃんはドスの効いた広島弁で呪詛の言葉を並べていきます。

毒気を抜かれた私は呆然として、便意がすっかり霧散したことに気付きます。

「今日は俺の日じゃない」 負けた格闘家のようなコメントを胸中で呟き

立ち上がり便器をかえりみた時に私は愕然としました。

便器には前任者の「思い出」がべったりと附着しているではありませんか!

どうする俺?

育ちが良いわけではないが座った便座から離れるときには水を流さないと気が済まない。

が、水を流してしまえばこの「思い出」は私のものとして

おばちゃんから判断されるだろう。

もちろん流して消えるやわな「思い出」の形相ではない。

どうする俺?

トイレットペーパーを巻いてべったり附着する「思い出」を拭き取ることも考えたが

ミャンマーラゥエイ(素手に布を巻いて行うムエタイ)の戦士ばりのアドレナリンが必要だ。絶対無理。

どうする俺?

私は水を流さずに出ることに決めた。

スマホを片手にして私は個室のドアを開けながら言う。

普段よりも二オクターブ高い声で。

「あ~いつもお世話になります!今ですか。はいはい、大丈夫ですよ!」

用を足そうと個室に入ったが取引先から電話が入り、急遽、個室を出て行く男。

便意より仕事を優先させる「俺」を演じて見せた。ラフなTシャツ姿がリアリティを損なうがしょうが無い。

隣室で清掃するおばちゃんと一瞬、目が合い私はスマートフォン片手にアイコンタクトしてトイレから出て行く。

だがおばちゃんは突き放すような目で私をみやる。

「男が便所の個室に入って用たさんかったなんて言い訳が通用するとおもっとるんか!」

私の逃げ道を塞ぐようなおばちゃんの強い目線が今も焼き付いている。

おそらく世間一般の見識だと思う。

おばちゃんは私の入っていた個室を見るなり

「ペーパーも使わず、水も流さず、しっかりウンスジだけは便器になびりよってからに!」

より激高しただろうか。

「こんな技もあったか」と

感心、賞賛はしてくれないだろう。

だからね。

信じてほしい。

福原愛を。

一つ屋根、部屋で男女が泊まっても何もないことだってある。

本人がそう言ってるんだもの。信じてあげて。

トイレの個室に入って用を足さなかった私が断言する。

福原愛にとって心強い援護射撃になれればこれに勝る幸いはありません。

こんな私のちっぽけな体験談が

福原愛の耳の届き元気づけられれば良いのだが。