比べても、どうにもならないものを、よく妻から比較され叱責される。

 

「なぜ、子供と一緒の目線になって遊んであげることができないのか」と。

 ザリガニ釣りやカブトムシの幼虫を育てたり、時には宿題をともにやったり。

 よその旦那様衆は、そりゃあもう、童心に返り子供と楽しく遊んでいるそうだ。

 私は野外の遊びの時には安全面を考えてつい、ブレーキをかけてしまう。

 それでも、今年の夏、海で溺れかけた。

 

 またゴンズイという魚が毒魚と知らずに子供と素手で触って遊んだ。

 ゴンズイに刺されて病院に搬送されるニュースをラジオで聞いて初めて知ったが

無知は恐ろしい。

 事故は無知と驕りが起因となる。

五十を過ぎて四つん這いになり恐竜ごっこで腰を痛めるだけでは妻には認めてもらえない。

 

 昔、ある知人女性から散財で別れた旦那の話を聞いたときだ。

「給料のほどんどを自分の趣味につぎ込む、無計画を絵に描いた人だった」

遠くを見つめて良い思い出を振り返るように、ため息をつくと彼女はこう締めた。

「天真爛漫で好きなことしかやらない、少年がそのまま大人になったような男性だった」

私は言いたいことはあったが

「若かったんですね」

と相鎚をうちやり過ごした。

自分勝手な男でも、当時の彼女にとって輝いていた存在が彼だったのだ。

でも少年の心ってなんだよ。

 

一年ほど前にテレビを買い換えた。

テレビでYouTubeも見れちゃうのだ。

妻がママ友との夕食会に子供連れて参加した夜。

一人、缶チューハイを開けながら五十インチのテレビの前で決意する。

かつての自分を探しに行く旅をしよう、と。

 

私が中学生の頃、「ベストヒットUSA]という番組が土曜の夜にあった。

検索したのは、その番組で知った

「Jガイルズ・バンド」の「墜ちた天使」のMTV

たしか

「ハイスクールで人気者だったあの娘が、なんと雑誌の見開きページでヌードになったまった!こいつは驚きだぜ。俺はどうする? 今から本を買いにいこう!」

とかいう歌詞だった気がする。

キャッチーなメロディは私の心を。ランジェリー姿で教室を闊歩するセクシーな女性陣のMTVは私の股間を鷲つかみにした。

あの衝撃の再現を期待して再生する。

胸高鳴らせ一聴する。

なるほどね。

もう一回観る。

なぜだろう。

私の心は瀬戸内海のように静かだ。波一つ立たない。

いったい、どのシーンで中学生の私はテンションを上げたのだろうか。

 

結局、最後まで私は私を見つけることはできなかった。

そればかりか、ボーカルのピーターウルフのB級感が目につき

ミックジャガーはやはり偉大なのだなぁと認識する。

でもピーターウルフは好き。

脳内講釈をたれる私は佐野元春が歌った「くだらない大人」そのものだった。

自分探しの旅は頓挫した。

昭和から平成、令和と生きてきたのだ。

あらゆる事象に耐性を獲得してきたのだろう。

退化なのか。

鈍磨かもしれない。

進化ではないことは確かだ。

すべてを受け入れる歳になったのだろう。

でも今の自分は往生際悪く

「なすがまま」よりも、いまだに胸躍る出来事を探している。

 

聖人と泣いて暮らすより、罪人と笑って過ごしたい。

そんな歌があった。

私はまわりの小悪党のおかげで刺激的な毎日を送れている。

政府が罪人とは言わないが、世間を賑わしたコロナ被害による農家の救済政策

「高収益なんちゃら」の補助金も早々に辞退した。

私の場合、栽培面積から試算して「七十五万」が支給される算段だったが

最初から半信半疑だったのでハシゴを外された、と憤慨も落胆もない。

 

テレビで指針の定まらない政府の不誠実を訴える農家さんの目は鈍い光を放っている。

 

欲に憑かれた大人の目にも、政策を盲信した哀れな少年の目にも見えたが

私の洞察力ではそれ以上は読み取れなかった。