皆さんは信仰するものはありますか?

 

 2017年から18年にかけての寒波。

 2018年、夏の集中豪雨による土砂災害と酷暑。

 2019年の今、レモンの収穫量は三割減った。

 

 リキュールを始めとする各商品も減産となった。

 レモンの耕作放棄園地をあたるよりも現在の園地に植えてある苗木の育成と

成木の樹勢回復に努めることにした。

 ある有機農家の先輩はあせる私をこう諭す。

 「じっくり育てた方が樹は丈夫に育つよ」

 こちとら、そんな悠長に構えてるわけにゃいかない。

 命短しは乙女だけじゃない。

 おっさんの肩にも時間は容赦なく、手をかけようとしている。

 

 夏場にはかん水するときに液肥を混ぜていたが

今年は冬から春にかけて液肥散布をすることにした。

 

 有機JASで使用できる液肥の販売元より資材証明書を送ってもらい

認定機関に提出する。

 認定機関から承認がおりたら購入し使用にいたる。

 

 16ℓの背負い式の噴霧器も購入し定期的に園地にて液肥を散布した。

 

 果たして液肥効果なのか、四月の半ばよりレモンに花芽が大量につきだした。

 重い噴霧器を担いで腰を痛めた甲斐もあった。

 この時季、畑で蕾を見つけると安堵で心が満たされる。

 

 週一で水分を与えていれば果樹の樹勢は回復するだろう。

 それが果樹の特性と分かっている。

 加えて2019年はボーナスステージと浮かれたいほど暖冬だった。

 それでも液肥の、いや液肥様のおかげだと心の中で手を合わす。

 

 農業、とくに有機農業は不安が尽きない。

 だから「師匠」にすがりたい。

 「流派」に属して安寧を手にしたい。

 師匠も流派も身につかない自分は経験でしか

 成長を実感できない。

 大樹の陰は底冷えするし

 長いモノに巻かれるには身の丈がいびつすぎる。

 徒労や散財の果てに見つけたものしか信じない。

 回り道こそ自分の信仰なのだろう。

 

 ちなみに妻の信仰は二つあります。

 「冷蔵庫様」と「冷凍庫」様。

 

 冷蔵庫に入っていれば賞味期限は関係ない。冷凍していればなお安心。

 かつて妻が冷蔵庫の中にしまっていた

 「オリーブのオイル漬け」の容器の蓋を開けると

 一面、緑色のカビに覆われたプチ盆栽の世界が広がっていた。

 惨状を知ってもらうためにそのままにしていると

 「気づいた人が処分するのが常識でしょうが!」

 信仰心を汚された妻は私にキレた。

 

 しかし上手もいた。

 

 妻の母が住む近所の家に行くと要冷蔵のピザが山積み、置いてあった。常温で。

 「安かったから、まとめ買いして横浜の孫たちに送るの」

 二日前、嬉しそうに義母が私に言った同じ状態でピザはテーブルに安置されていた。

 私がピザの袋に要冷蔵と書いてあることを告げると、義母は顔色一つ変えずに言い放った。

「あ、そ。大丈夫。二月だから」

 たしかに暖冬とはいえ冬だしね。孫もヤングだから胃袋も丈夫だろうね。

 やはり母娘だね。

 

 希望の春を迎え後は豪雨と酷暑を乗り切れば、

 豊作と言うご褒美を皆さんと分けあえるかもしれない。

 

 

追記 今年は雨が少なく着果した果実の生理落下も激しい。

    毛虫も多く花芽や蕾の食害がかなりあった。

    結局、前年度より微増に落ち着きそう。

    うまくはいかないものだな。

    雨が少ないために蜂の活動も活発で

    蜜柑を摘果していたら樹に巣をつくっていたのに

    気づかずスタッフのY君と一緒に刺された。

    無農薬栽培の大変さを伝えるために写真に収めるよう

    妻からミッションが下り、蜂の活動が鈍る夜間、枝ごと切除。