【ネタバレ注意】葡萄酒いろのミストラル | zaka1973の観劇ブログ

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趣味⇒鉄道、路線バス、プラネタリウム、廃墟、観劇(とくにミュージカル レ・ミゼラブルが好き)、さだまさし(最近は、団地、鉄塔、ダム、画廊巡り が追加) 
そのなかで、こちらは観劇の感想を中心としたブログとしています。

この舞台をまだ見ていない方は、ムービーステージ(有料) 
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=66087&


を見てから進むことをおすすめします。
(2022年6月30日まで配信チケット発売)
シアターキューブリック 20周年記念公演「葡萄酒いろのミストラル」










さて、突然だが、私は、演劇の場面転換などの意味がよくわからないダンスが入るのは、苦手だ。なぜかというと、そのダンスの意味を考えてしまい、前後のつながりを忘れそうになってしまうからだ。たとえそれが一気に場面が飛ぶものだとしても、そのダンスが邪魔になってしまうからだ。

 さて、この舞台は、岡村孝子さんの「ミストラル」のインストから始まり、風の音で役者が動き出す、そして、再び岡村孝子さんの「ミストラル」が流れると、役者さんたちは踊り出す。その姿はまるで美しい。
 おまえ、直前に場面転換の意味の無いダンスは苦手と言ったばかりじゃ無いかと言われそうだが、あくまでも「意味の無い」であって、ちゃんとそのダンスや踊りが、物語に繋がって居たら、当然話は別だ。むしろ、このときは、始まるときである。当然意味がある踊りになっているわけだ。


 話を少し戻そう、風の音が鳴り終わると、メインで出る、「かりん」が動き出し、岡村孝子さんの「ミストラル」が流れて、一気に華やかな踊りに変る。そして、台詞で「東北から東京へと」地名が並び、その踊りが、風であり、また、風に吹かれている何かであるものと見た瞬間にわかる。これはすごく心地良い。 そして、「走れ、ひとりで走れ・どこまでも走れ」という台詞、ここは何かがわからなかったが、いずれわかることになる。 とにかくこの台詞とこの踊りで、何が起こるんのだろうと言うわくわく感がたまらない。

そして、舞台は東京へと移り変わる。そこには、「かりん」という犬とユウキと言う男の子からの話から始まっていく。ユウキが、浜町公園に行こうと言うところから、話は「かりん」の冒険へと発展していく。 
 浜町公園で出会うのは、「しずく」 と言う、タンポポの綿毛。風に身を任せながら、自分の目的地を目指していくタンポポの綿毛。そこで初めて「かりん」と「しずく」がであい、さらに、荷物を運ぶ馬、帝都運送、 悪魔ことバルコック、 贅沢猫や、その飼い主、そして、犬の事務所の所長(犬)、オリオン、文明犬、犬の博士などと出会って、話が進んでいく、その中でも、「しずく」が、東京の風に乗りながら、東京の地名が並ぶところが印象にのこる。それは、なじみがある地名で、景色が浮かぶからかもしれない。


前半は、笑いが多く含まれていると言う感じで進んでいくが、中盤、犬の博士の言う台詞「人間が何かを思い残して死ぬと、その人は、つぎの生を犬として生まれ変わって、その思いを果たそうとする」、そこから、話の雰囲気が変ってくる。


 一人で犬の博士のところから家に帰えることになった「かりん」は途中で迷子になり、バルコックにあったとき、「しずく」にたすけられ「しずく」と空を飛んだ後、オリオンとであい、星を見る、そして、星を見ている。そのとき、「かりん」がトシの生まれ変わりだとわかる。そして、生まれ変わる前のエナさん(岩手の方言で長男を呼ぶときの言葉)との会話で、言っていた「花がきれいな農学校」を探し始めるが探しても探しても、見つからない、その風景を「しずく」が説明してくれる。その「しずく」と再びあったときに、「かりん」は、エナさんは、故郷、花巻に居ると感じとる。この間のシーンで、「えな」さんも登場し、そして、「かりん」は、時々自分が、トシとして、そしてまた別の目線として、説明してくる感覚が不思議でなんともいえない感じだったのを覚えて居ます。

話は進み、よく朝、上野駅から花巻方面への列車に乗り込もうとする。その直前ユウキとの別れ。ユウキは強がりながら「かりん」に「おまえ、なんだか人間みたいだなぁ、うちに居たのは、「かりん」という犬、もうおまえは帰ってくるな」的な言い方をして別れる。だが、別れた後、「かりん」が叫ぶ、

「私は「かりん」、私は犬、ユウキの臭いも、お母さんの臭いもちゃんと知って居る、ユウキの枕も、庭の臭いも、東京の空の臭いも、ちゃんと知って居る。」

 この台詞で、私は一気に涙があふれる。
 だが、そんな余韻に浸る時間は無い、盛岡に向かう汽車が出る時間。色々ドタバタ劇のあとに、「しずく」と「かりん」は列車に乗るが、車掌に見つかり、黒磯付近で飛び降りてしまう。
だが、「かりん」はもう、怖い物は無かった。ひたすら花巻に向かって走って行く。だが、福島から板谷峠という峠を通り、進路は花巻とは違った方向を目指すことになる。そのとき「しずく」が、「かりん」に聴く「あなたのお兄さんの名前、わかるの、」「かりん」は「賢治、宮沢賢治」。その瞬間、「しずく」の顔が強ばる。そして「とてもいえない、宮沢賢治がこの世界に居ないと言うことを。」


板谷峠付近からは、雪景色へと変わって行く。「かりん」は、雪を不思議と思いながら、進んでいく。だが、元気だった「しずく」の体に雪がつき始める。そう、「しずく」はタンポポの綿毛。だんだんと声が弱々しくなっていく。それは、「かりん」の希望に満ちた目と正反対。まるで、いま、自分たちは、間違えた方向に進んでいることを、案じているかのように。その演技はこの舞台で一番美しいと、僕は感じていた。

「かりん」が大きな川と言うと、「しずく」が、おめでとう、北上川よ。と応える。そして、「しずく」は力尽きるが、「かりん」は、それおも気が付かずに進んでいく。

辺り一面が真っ白な雪景色の時、山形の尾花沢で、自分は違った方向に進んでいたことにきつき、「かりん」は一気に倒れ込むが、ここで場面転換というか、一気に話が飛んでいく。「かりん」は銀河鉄道に乗り、そして、宮沢賢治の話の世界を駆け巡る。そして、「飛べるときが来るのを待つんじゃなくて、自分で飛ばなきゃいけない」その台詞から再び場面が変り、えなさん(宮沢賢治)の心と対面する。そして、周りに居る風がささやく「僕はここに居る」「走れどこまでも一人で」と。

再び風が吹いた後、「しずく」と「かりん」は、花巻に居た。二人ともどうやって来たかわからないが、「かりん」が言う「きっと銀河鉄道に乗ってきたんだよと」
故郷に戻った「かりん」はまた東京に戻ろうとする「もう、ここは故郷じゃないから」そして、だんだんと朝になって行き、風が吹き始め、岡村孝子さんの「ミストラル」が流れると、再び風たちが話し始める  宮沢賢治と花巻の風景を。 そして、話はここで終わる。それはまるで、最初の風と踊りにつながっていくかのように・・・・・・・・・・

あらすじでの感想は、こうだが、全体的な感想としては、この不思議な空間はなんだと思った。話が飛ぶところもあるし、とにかく動きが激しのに、それぞれが美しい。
たぶんそれは、所々で出てくる、宮沢賢治本人がそれを和らげているのだろうと思った。
なんだろう、シアターキューブリックの舞台劇は、僕の心をわしづかみにさせる作品多い。
全員が幸せになっているわけでは無い、でも、その不幸さを感じさせないのが不思議な空間である。


 これは僕が感じたことだから、妄想の域だが、もしかしたら、この作品は、岡村孝子さんの「ミストラル」の終わりが先に出来て、そこに向かって物語が作られた気がした。だから、スタート時のミストラルの曲の踊りで、自然とこれが風とわかり、そして、考え方によっては、エンドレスで物語が進んでいくようにも思えてきた。

私がこの劇を見たのは5月28日の昼と夜の2本続けてと、またどうしても見たくなって、6月1日の千穐楽の3本。途中で涙を流すことも多く、これだけ見ても、まだ、探しきれてていない部分は多いと思う。その後配信も見たが、そこで新たな発見もある。
で、恥ずかしながら、千穐楽をみたあとまで、あることがもやっと残った「葡萄酒いろのミストラル」ミストラルは偏西風 つまり、あの物語を駆け抜けた風。では葡萄酒は? それが、なぜかわからなかった。でも、数日経って、ふと自分の頭の中にその答えが舞い込んできた。 何度か迎えた、朝と夕方。 黒い空から、だんだんと赤色に染まり、その赤が薄まると、白色の朝を迎える、そして、風が吹いて、背中を押していく。そして、だんだんと赤色に染まり、再び夜になる。その空の移り変わりは、 赤からだんだんロゼにかわり、白になる。 そして、白からロゼになり、そして、赤になって、夜になる。再び赤からロゼに変り、白になり、風が後ろから押していく。 

そうか、日常なにげに僕たちは冒険をしている、その日常こそが、葡萄酒いろのミストラル だと言うことを。


【俳優別感想】

●かりん役/高橋茉琴

 元気な犬の姿がぴったり合う。それでいて、ユウキと別れるシーンなどに象徴されるように、叫ぶシーン、泣くシーン、などの感情がしっかりしていて、感情が伝わってくる。見事に「かりん」の役を演じきっている感じがしました。


●しずく役/星宏美

 この劇の主役は?と聴かれると、普通は「かりん」と答えるだろうが、私は「しずく」であった。ハキハキと地名や解説をする風景、小悪魔名部分、そして、山形に着いて、雪がまとわりついて、弱っていくシーン、全てが美しく見える。そして、かりんを常に支えながら、ときには、宮沢トシになり、ときには風になり、ときには燕になる。全部がマッチして美しく、流れていく姿にそう感じました。

●ユウキ役/太田朱香

見事に男の子の役を演じきっている。
最初見た時、一瞬子役?と思ってしまったほどだ、声といい、動きといい、男の子であった


●オリオン役/鈴木研

前回、鈴木さんの劇を見たのは、幸せな孤独な薔薇 でした、そのときは孫の役、今回は、そのイメージとは逆にちょっとワルな感じの役。
ちょっとした不良っぽいんだが、実はみんなを思いながら過ごしているオリオン、みんなに好かれた感じがよかったです。


●所長役/井俣太良
あの渋い声、見事に犬の事務所の所長と尾花沢の老木のやくにぴったりな声で素敵だった。

●文明犬役/榎本悟
機械的であって、どこか生臭い、そのバランスがすごくよく出ていたと思います。


●帝都運送役/千田剛士

千田さんの演技って、見れば見るほど味が出てくる、今回も、馬の役でありながら、その働いて疲れている様子などがすごく伝わってくる。
そして、なぜか、前回の幸せで孤独な薔薇の時は、気がついたら千田さん扱で予約していたし、今回は、千田さんの同じ写真を買ってしまったりと。おれ、千田さんのファンなのかなぁ。


●贅沢猫役/品川ともみ

ともみさんの演技は、十二階のカムパネルラ 以来2回目。
今回もちょっと悪役なんだが、実は、寂しがり屋でいい人と言うのが、今回もうまく出ている感じでした。あと、あの飼い主の行動で嫌がる部分も、すごく良い感じでした。


●犬博士役/奥山静香
なんだろう、奥山さんの性格にぴったりというか、全く違和感が無いというか。
ただ、動きがはげしい分、ちょっと心配になってしまったが、はまり役だと思いました。


●水沢役/七味まゆ味

贅沢猫の飼い主だが、アドリブが多い感じもあるが、そのアドリブがとにかくうまい。
土曜日の夜の回に、○越デパートで特注で作ったと言う、猫の翻訳機が、本番中に壊れるというところがあったんだが、次に出るシーンで「さすが○越、もうなおったわ」と言うアドリブ、会場もなごみ、さすがと感じました。


●ミツエ役/冨田恭子
ユウキのお母さん。
昭和初期の母親像が見事に現れている樋感じでした。


●バルコック/片山耀将
 悪役なんだが、なんだろう、あの声質というか、それが、怖さを完全に残しているはずなのに、舞台空間では、そこまで怖いと言う印象にならないなんとも不思議な感覚の声が片山さんの素敵なところだと今回感じました。
片山さんの動きはとにかく細かく、片山さんが演じる駅員さんの上を列車が通ると言うシーンがあるんだが、その表現がとにかくうまいのである。


●賢治/野原のぼ
所々で出てくる宮沢賢治。
その動きは、他の空間とは別で、ゆっくりでまさに賢治という感じであった。
気取りすぎず、でも、賢治らしいあの立ち振る舞いは最高です。


●作・演出 緑川憲仁
緑川さんの舞台劇を最初に見たのは十二階のカムパネルラ。そのときは、こんなに泣けていい劇を作るなんて、素敵で、天使みたいに感じたが、だんだんと作品を見るにつれ、私の心をわしづかみにして、泣かせて、そして、幸せな部分に変えていく、その感情を作品にして居る緑川さんって、もしかして、俺にとっては天使を超えて悪魔(褒め言葉)とも思えてしまう。
それだけ、緑川さんの演出は、素敵で、不思議な空間を作ってくれる。

今回の葡萄酒色のミストラルは、かなり前の作品。十二階のカムパネルラよりもっと前の作品。だけれどそこには、同じような空気が流れていた。


●メインテーマ/岡村孝子「ミストラル」
この劇は、たぶん、この曲が無いと成立しないと思えるほど。
1曲まるまる使う部分は無い、だが、最初と最後に流れるこの曲がないと、全てのバランスが崩れてしまうと思うほど、この曲は重大だとおもう。



【余談】
じつは、この劇は、数年前に一回だけ映像で見居ていたが、生で見るのは初めてだった。で、映像で見て居たとは、それなりのストーリーは覚えて居たが、細かい部分は覚えて居ない。
この公演を見る日。直前に私は神田明神に行き、そして、御茶ノ水駅に向かうため、聖橋を渡って、そこからの風景を数分眺めた。
葡萄酒いろのミストラルでは、聖橋が出てくが、そのときは、聖橋が出てくることは忘れていた。だが、ちゃんと聖橋の欄干から、風景を見ている。これは偶然だったのかなぁ。