【ヒューマンエラー】 : 下記は典型的事例です。自己の知識や技量について十二分な自己検証をせず、過信・思い込み・独善的行為による結果ともいえます。ひとつの見方として。

大野病院事件判決要旨 福島地裁

 福島県立大野病院事件で、産婦人科医加藤克彦被告を無罪とした20日の福島地裁判決の要旨は次の通り。

 【出血部位】

 胎盤はく離開始後の出血の大部分は、子宮内壁の胎盤はく離部分からの出血と認められる。

 はく離中に出血量が増加したと認められる。具体的な出血量は、麻酔記録などから胎盤べん出時の総出血量は2555ミリリットルを超えていないことが、カルテの記載及び助産師の証言などから遅くとも午後3時までに出血量が5000ミリリットルに達したことが認められる。

 【因果関係】

 鑑定は、死因ははく離時から子宮摘出手術中まで継続した大量出血によりショック状態に陥ったためとしており、死因は出血性ショックによる失血死と認められる。

 総出血量の大半が胎盤はく離面からの出血であることからすれば、被告の胎盤はく離行為と死亡には因果関係がある。

 【胎盤の癒着】

 胎盤は、子宮に胎盤が残存している個所を含む子宮後壁を中心に内子宮口を覆い、子宮前壁に達していた。子宮後壁は相当程度の広さで癒着胎盤があり、少なくとも検察側鑑定で後壁の癒着胎盤と判断した部分から、弁護側鑑定が疑問を呈した部分を除いた部分は癒着していた。

 【予見可能性】

 手術に至るまでの事実経過に照らすと、被告は手術直前には癒着の可能性は低く、5%に近い数値であるとの認識を持っていたと認められる。

 被告は用手はく離中に胎盤と子宮の間に指が入らず、用手はく離が困難な状態に直面した時点で、確定的とまではいえないものの、患者の胎盤が子宮に癒着しているとの認識を持ったと認められる。

 癒着胎盤を無理にはがすことが大量出血、ショックを引き起こし、母体死亡の原因となり得ることは被告が所持していたものを含めた医学書に記載されている。従って癒着胎盤と認識した時点においてはく離を継続すれば、現実化する可能性の大小は別としても、はく離面から大量出血し、ひいては患者の生命に危機が及ぶ恐れがあったことを予見する可能性はあったと解するのが相当である

 【被告の義務】

 被告が胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点では、ただちに胎盤はく離を中止し子宮摘出手術などに移行することは可能だった。移行した場合の出血量は相当に少ないであろうということは可能であるから、結果回避可能性があったと解するのが相当である

 検察官は、ただちに胎盤はく離を中止し子宮摘出手術などに移行することが本件当時の医学的準則で、被告は胎盤はく離を中止する義務があったと主張し、根拠として検察側証人の医師の鑑定を引用する。

 弁護人は、用手はく離を開始した後は出血していても胎盤はく離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合に子宮摘出をするのが臨床医学の医療水準だと反論する。

 本件では、胎盤はく離を開始後にはく離を中止し、子宮摘出手術などに移行した具体的な臨床症例は検察側からも被告側からも示されていない。検察側証人の医師のみが検察官と同じ見解を述べるが、同医師は腫瘍が専門で癒着胎盤の治療経験に乏しく、主として文献に依拠している。

 他方、弁護側証人の医師は臨床経験の豊富さ、専門知識の確かさがくみ取れ、臨床での癒着胎盤に関する標準的な医療措置に関する証言は医療現場の実際を表現していると認められる。

 そうすると、弁護側証人の医師の鑑定や証言から、用手はく離を開始した後は、出血をしていても胎盤はく離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血の場合には子宮を摘出することが、臨床上の標準的な医療措置と解するのが相当である。

 医師に義務を負わせ、刑罰を科す基準になる医学的準則は、臨床に携わる医師のほとんどがその基準に従っているといえる程度の一般性がなければならない。現場で行われている措置と、一部医学書の内容に食い違いがある場合、容易かつ迅速な治療法の選択ができなくなり、医療現場に混乱をもたらし、刑罰が科せられる基準が不明確になるからだ。

 検察官は、一部の医学書と検察側証人の鑑定による立証のみで、それを根拠付ける症例を何ら提示していない。

 検察官が主張するような、癒着胎盤と認識した以上ただちに胎盤はく離を中止し子宮摘出手術に移行することが当時の医学的準則だったと認めることはできない。被告が胎盤はく離を中止する義務があったと認めることもできず、注意義務違反にはならない。起訴事実は、その証明がない。

 【医師法違反】

 医師法21条にいう異状とは、法医学的に見て普通と異なる状態で死亡していると認められる状態にあることで、治療中の疾病で死亡した場合は異状の要件を欠く。本件は癒着胎盤という疾病を原因とする、過失なき診療行為によっても避けられなかった結果であり、異状がある場合に該当するとは言えない。起訴事実は証明がない


帝王切開死亡、医師に無罪 福島地裁判決、現場裁量認める

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)=休職中=に、福島地裁(鈴木信行裁判長)は20日「標準的な医療措置で過失はなかった」として無罪判決(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。

 故意や明白なミスでなく通常の医療行為で医師が逮捕、起訴された事件は医療界の猛反発を招き、全国的な産科医不足に拍車を掛けたとされる。現場の実態や医師の裁量を重視した判決は、医療過誤をめぐる刑事責任追及の在り方や医療界にも影響を与えそうだ。

 公判では、子宮に胎盤が癒着した極めて珍しい症例に対し、胎盤をはがす「はく離」を被告が続けた判断の是非が最大の争点となった。

 検察側は医学書の記述を根拠に「直ちに子宮摘出に移行すべきだった」と主張したが、鈴木裁判長は「医療現場でほとんどの医師が従う程度の一般性がなければ刑罰を科す基準とはならない」と判断。「現場と食い違う医学書の基準を適用すれば医師が治療法を選べなくなる」と指摘した。

 さらに「手術中に癒着胎盤を認識した時点で、大量出血の恐れを予見できた」と予見可能性は認めた上で「はく離すれば血管の収縮で止血が期待できる」と妥当性を認めた。

 癒着の程度や位置関係をめぐる検察側の鑑定結果について判決は「疑問がある」と信用性を否定。「医学書や鑑定内容を根拠づける症例をなんら立証しなかった」と検察側を批判した。

 加藤被告は「異状死」なのに24時間以内に警察に届けなかったとして医師法違反罪にも問われたが、判決は「死亡は避けられない結果で報告義務はない」とした。

 判決によると、加藤被告は04年12月17日、女性の帝王切開手術を執刀。クーパー(手術用はさみ)で癒着した胎盤をはがし、女性は大量出血によるショックで失血死した。


 医師法違反での立件では妥当な判例。

 医師法自体、抜け穴法・欠陥法 といわれている。(医師会・医者出身の政治家の反対・圧力による抜け穴・欠陥法作成ともいわれている)

 【参考 : 業務上過失致死http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%AD%E5%8B%99%E4%B8%8A%E9%81%8E%E5%A4%B1%E8%87%B4%E6%AD%BB%E5%82%B7%E7%BD%AA

 ヒューマン・エラー による過失 用件が抜けていること。

 なぜ抜けているか?

 想像するに、日本の医者には 医者自身による技術や知識に関する自信が乏しいからといえるのでは?

 自分の知識や技術に自信がある人間は、ヒューマンエラー の用件を加えても意に介さないのでは?