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 ・・・中国は友達


中国の民衆殺戮 義和団事変から天安門事件までのジェノサイドと大量殺戮 (mag2libro)/R.J.ラムル
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紹介 

                 河辺志文 『中国の民衆殺戮』翻訳者 


 本書は1900年の義和団事変以後1989年天安門事件までに中国で発生したラムル教授のいわゆる「デモサイド」、すなわち民衆に対する政治的殺人を網羅的に記述し、さらにその犠牲者数を推計した他に類を見ない著作です。その中には先月以来再び問題になっているチベット人への弾圧や中国国民党による台湾人弾圧も含ま れており、この問題が中国共産党による社会改造の構想のために推進されてきた諸運動の一つであり、根の深い問題であることが本書を通じて理解できます。

 本書の最大の特徴は、往々にして別々に語られることの多い、中国人に対する多種多様な大量殺戮の犠牲者数を同一著者が同じアプローチで推計した点です。ラムル教授は中国で起きた政治暴力に関する多様な資料に示された民衆殺戮犠牲者推計を収集、評価して、20世紀の各時期の政治勢力毎に犠牲者数を一定の範囲を持 たせつつ推計しました。その結果として、本書から以下の通りに要約できる興味深い知見を引き出すことができます。

(1)本書の推計ではいわゆる「南京大虐殺」を事実として認め、その犠牲者数が20万人として日本軍による民衆殺戮は394万9,000人と推計される。昨今疑われることの多い日本軍の虐殺や戦争犯罪に関する主張をかなりの部分信用したとしても、その規模は次に述べる中国共産党や中国国民党の民衆殺戮に及ばない可能性が 高い。

(2)本書の推計では国民党による民衆殺戮は1,021万4,000人。日本軍や中国共産党に注意をひきつける歴史的言説の陰に埋もれてしまっているが、強制的徴兵の犠牲者数百万人と意図的な洪水決壊による死者数十万人などを含め、中国国民党による中国民衆に対する殺戮の規模の方が日本軍が行ったとされる中国人虐殺より もおそらく大きい。

(3)中国共産党による民衆殺戮は日中戦争と国共内戦を含む戦時よりも、1949年以後の中華人民共和国建国以後の平時の方が遥かに大きく、その規模は日本軍も中国国民党も大きく引き離している。本書の推計では共産党による民衆殺戮は1949年までで346万6,000人、1949年から1987年までで3,523万6,000人、総計3,870万2 ,000人であり、これは中国共産党が6,191万人を虐殺したソ連に次いで20世紀世界第2位の民衆殺戮者であることを意味する。

(4)最後に、ラムル氏が日本語版への序で述べているように大躍進運動の時期に発生した1959年から1963年までの中国史上、また世界史上においても最悪の大飢饉に関して毛沢東指導下の中国共産党に責任があるとするなら、中国共産党共産党による民衆殺戮はソ連の6,191万人を超えて20世紀史上最大の民衆殺戮となる。< /div>

 以上を踏まえて現代史を振り返ると、三つの問題が明らかになると思われます。まず、共産党支配下の中国は第二次世界大戦後も決して平和ではなかったが、それは昨今の中国の経済成長により中国でも日本でも忘れ去られようとしていること。第二にしかし、戦後日本と世界の世論は日本の過去の戦争犯罪を糾弾する「反 日」言説ばかりに耳を傾け、戦後中国の民衆殺戮の問題に十分な注意を払わず、あまつさえ大量殺戮を継続してきた中国共産党体制に援助さえしてきたこと、そして第三に、21世紀の現在に至って、問題は改善するどころか、逆にチベット人や法輪功など中国国内での政治暴力に留まらず、毒ギョウザ、環境汚染、資源問題、独裁国 家の支援、国境紛争、軍拡など世界規模での深刻な問題をもたらすまでに中国共産党体制は強大化し、世界最大規模の民衆殺戮を生み出した中国共産党体制に対する認識の誤りが、それをさらに助長しかねないこと。

 これら今日の問題に対処するためには、以下の課題を早急に達成しなければなりません。

(1)中国の民衆殺戮の現状を、本書が明らかにしている歴史的背景も踏まえて広く周知すること。

(2)過去の日本及び現在までの中国での民衆殺戮の歴史の双方を捉えられる広い視野を持って歴史を理解し、未だ続いている中国の民衆殺戮の問題に十分な注意を喚起し、それを抑制する方向に世界の世論を導くこと。

(3)中国共産党体制と中国民衆に対して過去及び現在の自国の問題に正しく向き合い、現状の問題の解決に向けて努力するよう働きかけること。

 上記3点の課題は、最初の中国の民衆殺戮の実態の周知から達成されることになるでしょう。課題(2)と(3)の前提として、過去の日本の行為と現代の中国の行為を同一の地平において比較した上で中国共産党体制の問題が看過できないものである、という共通の認識に日本と世界の世論が到達していなければなりませ ん。しかし、それは未だ実現されていません。

 21世紀初頭の現在中国が日本との間に引き起こしている数多くの問題は日本の侵略の犠牲者として美化された中国の虚像を確実に崩壊させつつあり、中国批判の本は珍しくありません。しかし日中戦争などの歴史問題が今もなお中国の問題を直視することを日本及び世界の世論に躊躇させる原因になっています。なぜなら、 今中国がやっていることは過去の日本のアジアに対する行為に比べれば大した事はない、あるいは、中国の過剰な愛国心、防衛意識、社会問題、人権問題も日本の過去の侵略や破壊が究極の原因だとさえ考える傾向が未だ残存するからです。

 ここに本書日本語版の使命があります。本書は義和団事変以降天安門事件まで中国で発生した民衆殺戮を網羅することによって日本軍による民衆殺戮と共産党、国民党、軍閥など中国の政治勢力による民衆殺戮を同時に視野に収めており、日本の過去の民衆殺戮に関する言説を認めたとしてもなお、現在まで続く中国共産党 体制の問題を直視し批判しないことは著しくバランスを欠いた行為であることを明らかにしています。本書が広く読まれることによって、日本の過去を取り上げて中国の問題から目を背けさせるような内外の論調への知的な抗体を日本社会に育て、中国に対して中台関係を含む諸問題解決への要求を強めることが出来ると思われます 。

 本書はまた中国の民衆殺戮に関するアカデミックな研究書であるのみならず、デモクラティック・ピース論の視点から中国の民衆殺戮を終わらせるための処方箋をも示唆している点でも貴重な著作です。本書は20世紀の国家による民衆殺戮を研究した一連の著作の一つであり、一貫したメッセージがあります。それは「権力 が殺戮する、絶対権力は大量殺戮する」というメッセージです。著者ラムル教授によると、民衆殺戮の動機や背景は多様であるが、共通して言える事として、政治権力が少数者に集中して、民主的な監視を受けていない時に民衆殺戮が起こっています。そのことが示唆するのは、民衆殺戮を抑制するためには政治権力の民主的統制が 必要であるということであり、それは現代の中国共産党体制にそのまま当てはまります。中国の民主化は人権の尊重にもつながり、企業の製造物責任、環境保護、独裁国家の支援停止、紛争の平和的解決など中国が抱える問題解決を促進することにもつながると思われます。

 本書はまた、過去の戦争犯罪や民衆殺戮の犠牲者数推計を証拠に基づいて積み上げて推計することがいかに困難であるかを明らかにしており、犠牲者数を政治的に安易に悪用される危険のある歴史論争の解毒剤にもなっています。

 このように重要な今日的意義がある本書の内容の周知に貴誌が書評等を通じて一助を賜れば、日本の読書人の好奇心を満たすに留まらず、中国民衆やチベット人など民族少数派を含む世界人類の福祉への貢献にもなると思われます。何卒本書をご高覧あってご検討くださいますよう切にお願い申し上げます。










『台湾の声』  http://www.emaga.com/info/3407.html