gの意見


 ・・・中国は友達



【連載】

日本よ、こんな中国とつきあえるか?/林 建良
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(8)
    台湾人医師の直言

(転送転載自由)

出版 並木書房(2006年7月)
著者 林 建良

7、中国人民解放軍は「核兵器を持つ暴力団」だ

●朱将軍の対米核攻撃発言は個人の見解ではない

 二〇〇五(平成一七)年七月一四日、北京の国防大学で、中国中央軍事委員会に所属する中国人民解放軍の国防大学防務学院院長で少将の朱成虎が、香港駐在のフィナンシャル・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルなど四人の英米大手メディア記者団に「アメリカが台湾海峡における武力紛争に介入した場合、中国は核兵器を使用することも辞さない」と語った。

 彼はまた「従来型の戦争なら、われわれはアメリカに勝てない。アメリカが台湾海峡での武力紛争に介入した場合、われわれは西安より東の都市が壊滅されても惜しまない。その代わり、アメリカも数百の都市が壊滅することを覚悟しなくてはならない」と語った。

 つまり、アメリカが台湾海峡での武力紛争に介入するなら、中国は核戦争をする心積りがあるとアメリカを脅してみせたのである。

 この朱成虎発言は国際社会に大きな波紋を投げかけたが、実は中国軍人による核使用発言は朱成虎が初めてのことではない。中国が台湾海峡でミサイルを用いた軍事演習をおこなった一九九五(平成七)年、人民解放軍副総参謀長の熊光楷も対米核攻撃について公の場で言及したことがあった。熊副総参謀長は「もしアメリカが台湾のことに介入したら、中国は核ミサイルを使ってロサンゼルスをめちゃくちゃにしてやる。アメリカは台北よりロサンゼルスを心配したほうがよい」と、アメリカを脅迫した。

 この熊副参謀長は人民解放軍のなかで日本や米国との軍事交流の窓口となってきた人物で、次期国防相と目されていたものの二〇〇五年一二月末に退役した軍人であるが、このときの中国語の表現は非常に汚いもので、聞くに堪えないものだった。

 このほかにも、対米核攻撃について発言している中国の軍関係者は少なくない。
 先の朱成虎発言に関して、中国外交部は「中国政府の立場を表わすものではない」とのコメントを出し、個人的な発言と否定した。しかし、これは明らかに中国の軍としての考えであり、しかもこの発言は人民解放軍の性格を表わしてもいる。

 実際、朱成虎は発言から五カ月も経ってから「行政記過」(過失を記録に残す)という処分を受けたというが、この「行政記過」とは一年間昇進することができないという程度のもので、五段階処分のなかの二番目に軽い処分であるという。予想以上の反発の大きさに、このような処分で糊塗せざるをえなかったというのが真相であろう。これが中国のいつもの遣り口でもある。

●中国人民解放軍は共産党の軍隊である

 この朱成虎発言や熊光楷発言を理解するためには、人民解放軍の性格を理解する必要がある。

 周知のように、戦前の日本では軍隊は「皇軍」と呼ばれていた。皇軍、すなわち天皇陛下の軍隊ということで、天皇は日本の象徴であり、その軍隊もまた日本という国を護るための軍隊という位置付けになっていた。現在の自衛隊になっても、その本質はいささかも変わっていない。

 その任務は、自衛隊法にも明記されているように「国の平和と独立を守る」ことにある。また、イギリスの軍隊は「ロイヤル・アーミー」と称されていることからもわかるように、女王陛下の軍隊である。これもまた、イギリス全体の軍隊という位置付けになっている。

 通常、軍隊というのは国家の軍であり、個人のものではない。ところが、中国人民解放軍というのは中国共産党という蕫党の軍隊﨟であって、中華人民共和国の軍隊ではない。これは人(党)を中心とした軍隊で、「党軍体制」と呼ばれる中国独特の体制にほかならない。先進国の軍隊と違い、国全体を対象とした軍隊でないことをまず理解する必要がある。

 戦後の台湾も、B介石が国府軍とともにやってきたが、この国府軍はB介石率いる国民党の軍隊であって、台湾住民を含む台湾を護るための軍隊ではなかった。「二・二八事件」で台湾住民を虐殺したのは、まさにこの国府軍だった。それゆえ、台湾人は中国の軍隊の性質がよくわかっている。B経国のあとを継いで総統となった李登輝氏が国民党軍から「台湾軍」へ脱皮させるためにどれほどの力を注いだか、これもまた台湾人にはよく知られた事実なのである。

 そもそも人民解放軍の建軍の歴史をたどってみれば、なぜそうなったかを理解できる。人民解放軍の前身は一九二七(昭和二)年に設立された「中国労農紅軍」である。その建軍は、中国国民党による北伐に参加していた労働者や農民が反旗を翻して、江西省南昌において武装蜂起したことを発端としている。そのとき初めて中国共産党は自分の軍隊を持った。人民解放軍の建軍記念日は八月一日であるが、それはもちろん一九二七年八月一日の南昌武装蜂起にちなんでいる。

 ちなみに、建軍時の共産軍の中心人物は朱徳で、対米核攻撃発言をした朱成虎の祖父である。 今の人民解放軍のエリートのほとんどが中国労農紅軍の関係者であり、朱徳は軍の代表であり、毛沢東は党の代表である。

 もともと農民と労働者で組織した軍隊ゆえに、「兵農合一」、すなわち兵隊と農民は五分五分という思想を持ち、軍隊でもあり生産部隊でもあると考えられていて、当時の共産軍は「朱毛軍」とも称されていた。われわれ台湾人は戦後、B介石の教育を受けてきて、一九七〇年代までの学校の校門には大きく「打倒朱毛」、つまり朱徳と毛沢東を打倒せよ、というスローガンが張られていたことを思い出す。

 中国共産党は一九四七年にこの中国労農紅軍を中国人民解放軍と改称して現在に至っているが、一九五五年には徴兵制が導入され、現在、三〇〇万人ほどの軍隊になっている。兵隊の数としては世界最大の軍隊ある。

●密輸まで手がける人民解放軍経営の会社

 では、なぜ中国人民解放軍を「核兵器を持つ暴力団」と呼ぶか?
 暴力団がなぜ暴力をふるうかというと、暴力を振るうことによって利益を得るのであり、それを組織的におこなっている団体のことを指している。暴力による利益は合法的な場合と非合法の場合があり、いずれも組織の資金源となる。たとえば、日本の暴力団は会社形態をとっているところもあり、売春、密輸、麻薬、拳銃などの非合法行為に手を染める組織もある。

 しかし、暴力団はいつも暴力をふるって人を脅したり物を奪ったりしているのではなく、暴力という影響力で利益を得る存在なので暴力団と称されるのである。

 人民解放軍とは先にも述べたように、自ら生産性を持つ利益団体であり、ミサイルや核兵器まで持っている、社員三〇〇万人を擁する一大企業といってよい。人民解放軍は民兵組織まで入れると、一〇〇〇万人を超える巨大組織である。軍が直接経営する企業は二万社にも及び、ほぼすべての分野のビジネスに進出している。

 アメリカにも人民解放軍の経営する会社がある。もっとも有名なのが「中国北方工業公司」で、米国内に一〇の子会社を持っている。この中国北方工業公司はなにをやっている会社かというと、武器を供給する軍需会社だ。子会社は貨物の運送業や卸売り業、輸出輸入業などの物流関係で、取り扱っている品目は冷凍の魚からエンジンや兵器に至るまで多岐にわたっている。

 人民解放軍の会社は合法的なビジネスばかりをやっているわけではない。実は、一九九六(平成八)年にFBI連邦調査局がロサンゼルスで密輸入された二〇〇〇丁のAK47小銃を摘発したことがあったが、この密輸入には二社が関与していて、一社が中国北方工業公司で、もう一社は人民解放軍の参謀本部が直接経営する「保利集団公司」だった。

 この二つの会社は人民解放軍が直接間接に経営するもっとも有名な会社で、役員には中国共産党の高級幹部の子供や親族が占め、このような会社がアメリカでAK47小銃を密輸入していたのである。

 一方、台湾で密輸入されている拳銃や麻薬などはすべて中国製と言って過言ではない。実際、台湾のヤクザが使っている「黒星」「紅星」「トカレフ」などの拳銃はどれも中国製である。日本の暴力団が使っている拳銃もまた圧倒的に中国製が多い。
 では、中国ではどこが拳銃を製造しているのかといえば、人民解放軍が関与している工場以外にはあり得ない。また、日本や台湾で拳銃の輸入はできないから、非合法の密輸入となる。そこへの関与は軍関係者以外にはできない。つまり、人民解放軍は暴力団となんら変わりないということなのである。

●軍事演習でガッポリかせぐ人民解放軍の幹部たち

 中国の軍需産業というのはあらゆる分野に参入している。そのなかには運送会社もあれば、農業、工業、サービス業に関する分野はもちろん、果ては病院まで経営している。あまり評判がよくなかったので閉鎖されたが、日本人が観光でよく行っていたのは北京の近くにある軍直営の射撃場だった。

 また、マカオが中国に返還されたあとでカジノができたが、このカジノを経営しているのも人民解放軍である。ここはギャンブルだけではなく、人間の欲望のほとんどを満たしてくれるところだ。もちろん売春もある。一六歳から二六歳くらいまでの売春婦は、中国の内地から人民解放軍が連れてくるシステムになっているという。

 中国では軍事演習が頻繁におこなわれている。実はこの軍事演習というのも曲者で、演習という名目で、実際は民間の荷物を搬送して稼いでいるのが実態なのである。人民解放軍の幹部にとってこの演習はビジネス・チャンスだ。実際、大金が動く。

 これはどういうことかというと、中国では車が省から省へ移動する際には通行税を支払わなければならない。しかし、人民解放軍の車は例外だ。払う必要はない。そこで、軍事演習のトラックの大半が民間の車や貨物を積んで省から省へ移動するのである。もちろん、搬送手数料が幹部の懐にガッポリ入る仕組みだ。

●人民解放軍は国を守らない利益集団だ

 冒頭で述べたように、人民解放軍の兵隊の数は世界一の三〇〇万人を擁している。一九七五(昭和五〇)年に周恩来が提唱し、B小平が推進してきた政策に「四つの現代化」がある。

 周知のように「四つの現代化」とは、農業の現代化、工業の現代化、国防の現代化、科学技術の現代化のことであるが、軍の現代化により確かに兵器は高性能となった。

 実際、中国は一九九九年一一月に宇宙船「神舟1」の無人打ち上げに成功して以来、二〇〇三年一〇月の「神舟5」で初めて有人打ち上げに成功し、二年後の二〇〇五年一〇月の「神舟6」でも成功させているのである。

 宇宙船とはロケット開発そのものであり、これは中国がアメリカに届く大陸間弾道弾ミサイルを発射するロケットの完成を意味している。それゆえ、中国の兵器能力は決して軽視すべきではない。

 しかし、軍隊というのは兵器能力だけがすべてではない。その質が重要だ。そこで、人民解放軍の性質を理解するために、中越戦争と日清戦争について振り返ってみたい。

 最近の中国の対外戦争で最大規模だった一九七九年二月の中越戦争では、B小平は五〇万人を動員してベトナムに攻め込んだ。だが、戦死者が二万六〇〇〇人、負傷者も約三万人という惨憺たる結果に終わった。ベトナムの国力は中国の国力と比較にならないほど小さい。しかし、ベトナムの死傷者は中国の一〇分の一ほどでしかなかった。中国軍は装備にも問題はあったが、主力として投入した民兵や省兵の練度、すなわち訓練の度合いがあまりにも低かったことが最大の原因だったと言われている。

 軍隊は武器の性能や数だけでは、その強さは量れない。軍隊は士気、すなわち戦う意志によって強弱が左右されると言っても過言ではない。士気の高さは練度の高さと表裏一体をなす。金銭的利益の追求からは決して高い士気は生まれない。

 たとえば日清戦争(一八九三年)のとき、当時の清国の北洋艦隊は世界最新鋭の装備を備えた七三〇〇トンを誇る「定遠」と「鎮遠」という巨艦をそろえ、その海軍力は日本をはるかに上回るといわれていた。しかし、決戦となった九月一七日の黄海海戦において、たった五時間で日本海軍に屈してしまったのである。清国艦隊は一二隻のうち四隻が沈没し一隻が座礁して五隻を失い、一方の日本海軍は一隻も沈められることはなかった。戦力では劣る日本だったが、戦術や技量においては清をはるかにしのいでいたのである。

 中国人民解放軍というのは国を護るための軍隊ではなく、利益を生み出す軍隊である。この軍隊は、金銭的利益のためだったら躊躇することなくなんでもやる。それゆえ、人民解放軍の利益活動を妨害する相手はアメリカであろうと日本であろうと、核戦争も辞さないという朱成虎や熊光楷などの発言となって現れてくるのである。まさに「核兵器を持つ暴力団」を背景としなければできない発言といってよい。
 
しかし、中越戦争や日清戦争に現れたように、戦闘が有利なうちはまだしも、劣勢に追い込まれると士気が落ちるのが早く、たちまちにして敗走する性質を有している。国家の命より個人の利益を優先する。これが中国人民解放軍の本質である。


『台湾の声』  http://www.emaga.com/info/3407.html