産経新聞 2008年1月30日

              中国軍事専門家・平松茂雄 

 ■台湾海峡の緊張が選挙後に加速

 ≪28時間に及ぶ米空母追尾≫

 先日の台湾の立法院(国会)選挙で、対中関係改善を主張する国民党が3分の2以上の議席を獲得して圧勝し、台湾独立を志向する民進党が大敗した。仮に3月の総統選挙で民進党の謝長廷氏が総統に選出されても、難しいかじ取りが予想される。

 その立法院選挙に続いて、台湾海峡で、昨年11月に香港寄港を拒否されて横須賀に帰る途中の米空母を中国の潜水艦が28時間も追尾し、空母艦載機が緊急発進する出来事が起きたとのニュースが報じられた。

 これからの台湾をめぐる東アジア情勢を予見する重要な出来事だ。

 中国は改革・開放以来「一国二制度」による「平和統一」「政治解決」を「台湾統一」の基本方針としている。中国という国の中に、長期にわたり社会主義(大陸)と資本主義(台湾)が併存する方針が採られた背景には、中国に台湾を軍事力で統一できない現実がある。

 中国は「一国二制度」の枠組みの中で、台湾が中国から離れていくのを阻止しつつ、他方で台湾を中国との経済関係に組み入れ、中国が経済的軍事的に成長して、台湾を政治交渉のテーブルに座らせ、「平和統一」の条件を作ることを意図している。今回の立法院選挙は、中国の意図した方向に台湾が向かう舞台を用意することになった。

 中国が台湾を軍事統一できない最大の原因は、米国の軍事介入にある。建国以来の五十有余年、中国の最大の政治目標は米国の介入阻止にあったといっても過言ではない。

 ≪米国を核攻撃する能力も≫

 その大前提は、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルスなどの主要都市を核攻撃すると威嚇して、米国の軍事介入を思いとどまらせることである。今世紀に入って実施された有人宇宙船の打ち上げは、中国が米国を核攻撃できる能力を保有していることを明確にした。

 米国はそれに対抗して、ミサイル防衛計画(MD)を展開しているが、中国は去年1月そのシステムを運用している偵察衛星を破壊する実験に成功した。その精度が高まれば、MDは無力化される。

 米国の軍事介入は実際には、1996年3月の「台湾海峡ミサイル危機」のように、横須賀と中東の空母を台湾近海に展開して渡海作戦を封じることにある。それに対して中国は南シナ海、東シナ海、西太平洋に潜水艦を展開し、機雷を敷設することを意図している。

 実態は明らかではないが、これまでに報道されただけでも、2003年11月わが国の大隅海峡を旧式とはいえ「明」級が浮上して通過した。04年11月には、わが国の先島諸島の領海を「漢」級原子力潜水艦が侵犯する出来事があり、06年10月には、太平洋で軍事演習中の米空母に中国の潜水艦が魚雷射程内の距離に接近する事態が起きている。そして今年になって、冒頭に触れた事態が起きたことが報じられた。

 中国の潜水艦は想像以上に台湾周辺、日本近海で活動しているとみられる。

 ≪日本の生命線をどう守るか≫

 こうした事態を予想して、ブッシュ大統領は就任早々の2001年4月、台湾に在来型潜水艦8隻とP3C対潜哨戒機12機を売却すると発表した。空母が安全に航行できるように、周辺海域をしっかり守るようにとの要請である。原子力潜水艦しか建造していない米国はドイツやオランダが売却することを期待したが、中国に気兼ねして売却しなかった。他方台湾では、野党の国民党の反対で、議会で予算が承認されないままになっていた。

 今回の立法院選挙で国民党が支配政党となるから、台湾の新たな潜水艦保有は絶望的となった。

 台湾周辺海域はだれが守るのだろうか。

 台湾は日本のシーレーンの重要な位置にある。台湾が中国に統一されると、南シナ海は「中国の海」となり、中東に至るシーレーンと東南アジア諸国は、中国の強い影響下に入る。わが国の南西諸島と東シナ海に対する中国の影響力は一段と強まる。東シナ海が中国の影響下に入ると、黄海は出入り口を失って「中国の内海」となり、朝鮮半島は中国の支配下に入ってしまうだろう。

 さらに中国は台湾を足掛かりとして、太平洋に進出してくるだろう。中国は経済発展とともに、米国やオーストラリアに通じる太平洋のシーレーンにも強い関心を持ち始めている。

 「台湾は日本の生命線」だ。日本は米空母に協力して台湾周辺海域を守る必要がある。これは非現実的な、過激な見方であろうか。(ひらまつ しげお)









『台湾の声』  http://www.emaga.com/info/3407.html