いまだ本命現れず 社長人事で迷走する富士通
「しかるべきタイミングで次期社長を決定したい」と語るのは、富士通会長兼社長の間塚道義氏である。
二〇〇九年九月に前任の野副州旦社長が電撃退任してから三カ月、富士通の次期社長人事の行方がいまだに見えない。冒頭の言葉は野副氏の退任に伴う、間塚会長の社長就任会見での一コマである。富士通は野副氏と野副氏の前任社長をつとめた黒川博昭氏がともに相談役に退いたものの、三代前の社長をつとめた秋草直之氏が取締役相談役に留まっており、「経営体制の歪み」(業界筋)も指摘されている。
〇八年六月に社長に就任した野副氏が、「病気療養のため」退任したのは、〇九年九月の連休(シルバーウィーク)直後だった。
東芝へのハードディスク駆動装置(HDD)事業の売却や独シーメンスとの欧州でのサーバー製造子会社を完全子会社化するなど、社長在任期間の一年三カ月、野副氏は事業の「選択と集中」を矢継ぎ早に打ち出してきた。間塚氏も「あれだけアグレッシブに事業改革を進めてきた人はいなかった」と話す。
しかし、「経営にまず求められるのはスピード」が持論だった野副氏に対しては、「事業改革のスピードが速すぎて反発を持つ人もいた」(グループ会社幹部)という声もある。一部報道では、子会社ニフティで〇九年六月、前社長の和田一也氏と取締役の村島俊宏氏が退任しているが、この人事を巡ってグループ内で反発があった、とも。
いずれにせよ、前期に1123億円の最終赤字に転落した富士通。七月には野副氏のもと、一一年度までの中期三カ年計画を発表した直後だっただけに、司令塔がそれから二カ月後に退任したのは「社内の動揺も大きかった」(中堅社員)という。
間塚氏はかねてから「今期は厳しいという前提で頑張るしかない」と話している。いま富士通が取り組むべきことは、不振の続く半導体事業の立て直しや海外事業の強化といった、「中期計画に沿った経営プランを確実に進めること」(アナリスト)だ。
就任会見で自らを「時間をかけてお客様との信頼関係を築き上げてきた、積み上げ型」と評した間塚氏だが、「社員の士気を高めるには、早期に結果を出すスピード感が必要」(アナリスト)という声もあり、いまは間塚氏のリーダーシップが問われている。