~※前書き~

 

魚釣りが好きな人なら当然海や魚や自然が好きな人だって多いはず。

そんな釣り人ならば海で釣った魚を水槽で飼ってみたいな~。

なんて思ったこと、

一度や二度はあるのではないだろうか。

 

左衛門佐も小さな頃から魚釣りが大好きで、

自分で釣った様々な種類の魚を飼育してきた。

中でも海水魚、特にヒラメとマゴチが好きで、

小学生の頃、初めてヒラメとマゴチを釣った日の感動は

今でもハッキリと覚えている。

何故幼少の頃からこんな平ぺったいグロテスクな魚が好きだったのかはわからない。

 

左衛門佐の庭であるここ浜名湖の畔に居を構えてからは

浜名湖まで歩いて30秒というその地の利を活かし、

浜名湖で採集できる多くの海水魚を飼育してきた。

当時の左衛門佐の趣味が主にヒラメ、マゴチ狙いの流し釣りだったこともあり、

特に研究目的でのヒラメの飼育頭数は多く、

仔魚~稚魚サイズの飼育頭数も合わせるとおそらく今までに

推定400~500匹程度のヒラメを飼育してきたと思われる。

多分養殖などを行っている専門業者ではない、

ごく普通の一般家庭の素人が飼育したヒラメの頭数としては

おそらく日本一ではないかと思う。

果たしてこの平ぺったい、ちょっとグロテスクなこの魚を

水槽で飼育してみたいと思う変人…、

いや、変わった人がどれぐらいいるか知らないが

そんな物好きな人の為に左衛門佐なりの飼育方法を解説したいと思う。

なお、ヒラメと飼育方法がほぼ一緒の同類魚、

マゴチとホウボウについてもヒラメと混泳可能にして

なかなか面白い魚だと思うので一緒に合わせて解説したい。

 

~※①ヒラメの生態~

 

ヒラメは本州全域と北海道に生息する大型の魚で、

分類としてはカレイ目ヒラメ科に属する海水魚である。

最大で体長1m、重量10kgに達することがある。

 

ヒラメの幼魚。遠州浜名湖産。

 

水深200mほどまでの比較的浅い砂質の海底を好み、

海域によってもかなり異なるが晩冬~初夏に産卵する。

ここ浜名湖では3月ぐらいから仔魚が確認できるが

2月に確認できた年もあったので産卵期は年によって

ずれることも多いようである。

卵は浮遊性で、仔魚はしばらく海中を漂った後、

比較的穏やかな砂泥質の海底に定着する。

 

浜名湖で採集したヒラメの仔魚。体はまだ透明で頭に突起状の長いヒレがある。

 

稚魚~幼魚期は甲殻類なども捕食するが大きくなるにつれて

魚食性が強くなる。

長年に渡る調査・研究の結果、

ここ浜名湖でのヒラメの稚魚・幼魚のメインベイトはヒメハゼのようである。

 

海底に着底したばかりのヒラメの稚魚。このサイズだとまだケンミジンコやプランクトンが主食。

 

4月の浜名湖で採集したヒラメの稚魚。まだ全長20mmほど。

 

全長20mmほどのヒラメの稚魚。ほとんどが食われて命を落とす浮遊生活を無事終えて着底し、海底での生活を始めて2週間といったところ。

 

ここ浜名湖で最も多くのヒラメの幼魚が確認できるのは5~6月である。

浜名湖では有志たちの手により毎年養殖個体のヒラメの幼魚が放流されているが

天然個体の幼魚の出現時期のピークはそれよりも一か月ほど早い。

 

左衛門佐が大型イケスで大量飼育して育てた個体群。だいぶヒラメらしくなった稚魚。このサイズになると小さな魚や甲殻類も食べるようになる。

 

5月の終わりに浜名湖の渚で採集したヒラメの稚魚。

 

4月の終わりに浜名湖の渚で採集したヒラメの幼魚。全長30mm。

 

上の個体の2週間後。全長40mm。このサイズのヒラメの成長はとんでもなく早い。

 

全長10cmほどに成長したヒラメ。稚魚から育てて3か月ほどでこのサイズになる。

 

こちらは浜名湖の渚で採集した天然個体。この子も全長10cmほど。

 

精悍な顔つきをした上の2尾とは別の個体。ヒラメも個体によって体形や顔つきが違う。

 

これは浜名湖産ホシガレイの幼魚。カレイだが魚食性が強く、ヒラメと同じような育て方が出来る。

 

ヒラメの成長はとても早く、1年でだいたい30cmぐらいになるが

海域や環境によっては1年で40cm近くにまで達する個体もいる。

 

浜名湖の渚で採集したヒラメの幼魚たち。もうすっかりヒラメらしくなった。

 

天然魚であることを証明する真っ白で美しい無眼側。養殖魚だとなかなかこうはならない。

 

ここ浜名湖では20cmを超えるようになると

水深のあるミオ筋に移動し、流し釣りで釣れるようになる。

泳いで積極的に餌を追い回し、グングン成長する。

 

セイゴ狙いの軽量ジグヘッド+エコギアグラスミノーSSに釣れてきた、手のひらサイズのヒラメ。

 

20cmクラスにまで成長したヒラメの若魚。水槽で飼うにはちょっと大きいのでこのサイズは釣れても全てリリースしましょう!!

 

捕食行動についてはヒラメは餌を積極的に追う高活性時は砂には潜らず、

砂の上を滑るように移動しながらベイトの群れについて

捕食のタイミングを図りながらチャンスがあれば

電光石火の早業で餌に襲い掛かる。

この場合、イワシやアジなど自分の上を泳ぐ餌を意識していることが多い。

こうした高活性時のヒラメの射程距離は長く、

時には水面近くまで浮上することがある。

逆に潮が動いていないときなど低活性時のヒラメは砂に潜り、

目だけを出してキスやハゼなど目の前を通った同じ目線の餌だけを捕食する。

こうした低活性時のヒラメの射程距離はとても短い。

 

砂に潜っているヒラメ。自然下においてこの状態のときはほぼ低活性時である。

 

下の動画は水槽で撮影したヒラメの捕食行動だが、

全長5cmほどの小さなヒラメの幼魚が自分の上を泳ぐ小魚の群れを狙っている。

この時、注意すべき点はヒラメの目線である。

この小さなヒラメの目線が次から次へと

標的を切り替えているのがわかるだろうか。

この小さなヒラメの射程距離はまだ短いので

自分にも届きそうな位置の餌を一生懸命選んでいるのがよくわかる。

 

 

ヒラメは丈夫な魚なので水温管理だけクリアできれば

飼育自体はとても容易である。(高水温だけはNG)

飼育する際、最もネックとなるのは餌だが

人馴れすれば例えば刺身のような魚の切り身でも

箸で目の前をヒラヒラさせてやれば食べるようになる。

小さなうちは人工餌でもよいがある程度大きくなると

どうしても生エサが必要になるので

それぐらいのサイズになったら海に返し、

また小さな個体を採集して飼う方が良いと思う。

どんな魚でもそうだが、

1匹の魚を長期飼育するのではなく、

ある程度の期間飼育して大きくなったら海に返し、

また小さな個体を採集して飼育するといった

魚を入れ替えながら飼育する方が飼育する方も楽だし、

その方が魚にとっても有益である。

 

水槽の中で狩りをするヒラメの稚魚。

 

砂化けするヒラメの幼魚。

 

左衛門佐の場合、大体これぐらいの大きさまで育てるとリリースして別の小さな個体と入れ替える。

 

左衛門佐がこの魚を長年浜名湖で観察・調査・研究してきたのは

単純にこの魚が好きだったことが第一の要因だが、

ヒラメ釣りという面からもより深くこの魚の習性を知り、

より多くこの魚を釣りたいという欲求も理由の一つだった。

もちろん今でも趣味で海水魚の飼育を楽しんでいるが

ヒラメハンターを引退した今はヒラメやマゴチを飼育する機会はめっきり減り、

一番好きな”クエ”というハタの仲間を毎年必ず1~3個体ほど飼育している。

クエの飼育に興味のある人は以前左衛門佐が書いた、

クエの飼育についての記事があるのでそちらを参照して頂きたい。

 

浜名湖で3時間ほど竿を出した釣果。ヒラメの習性をより深く知ることで釣果も格段にUPする。

 

左衛門佐が飼育していたクエの幼魚。2022年秋に浜名湖で採集した個体。

 

クエとマハタの幼魚。こうしたハタの仲間の飼育もとても楽しいのでオススメだ。

 

~※②ついでにマゴチとホウボウの生態~

 

さて、ついでといっては何だがマゴチとホウボウのことにも少し触れておきたい。

ヒラメのような底層の魚はクロダイとかマダイのような

中層~上層を泳ぐ魚との混泳はあまり向かない。

底層の魚は底層の魚だけで飼育した方が良い。

ヒラメとの混泳にもっとも最適な魚はマゴチである。

マゴチはヒラメと並び、日本が誇る二大フラットフィッシュの一角を担う魚で

サーフからのルアーフィッシングのターゲットとして人気の魚でもある。

 

マゴチの幼魚。遠州浜名湖産。

 

マゴチはカサゴ目コチ科に属する海水魚で、

主に東北以南の本州沿岸の浅い海域に生息する。

最大で80cm近くにもなる大型のコチである。

ヒラメと違い捕食行動は待ち伏せ型で、

多くの場合砂に潜り、

目の前を通った自分と同じ目線の餌を捕食することが多い。

もちろん高活性時には砂から出て積極的に餌を追い回すこともある。

しかしこの場合でも主に捕食するのは大方、自分と同じ目線にいる餌である。

 

ここ浜名湖では4~6月頃、浅瀬で多くの幼魚が見られる。

 

8月に採集した、まだ指先ほどの小さなマゴチの幼魚。おそらく6月に産卵された個体と思われる。

 

 

マゴチの産卵状況の調査の為、浜名湖で採集したマゴチの幼魚。

マゴチはあまり小さいと与える餌に苦労するのでこれぐらい(全長10~15cmほど)の個体から飼育するのがよいと思う。

 

これはイネゴチの幼魚。飼育方法はマゴチと全く同じ。

 

ワニゴチの幼魚。こちらも飼育方法はマゴチと変わらない。

 

ヒラメとマゴチは好む場所も好む餌も似ているが、

捕食行動に関しては大きな違いがある。

しかしその理由は、ただ単純に身体の構造の違いでしかない。

ヒラメが同じ目線の餌よりも上層を泳ぐ餌に強く反応するのは

ヒラメの身体が上下によく曲がり、口が左右に開くからである。

例えばヒラメが自分と同じ目線のハゼを捕食しようとした場合、

ヒラメがハゼに上手く噛みつくには前方または後方から近づくしかない。

真横から接近しても左右にしか開かないヒラメの口では

上手く餌を咥えることが出来ないからである。

しかしヒラメの身体は上下にはよく曲がるので

自分の真上、すなわち直上を泳ぐ餌に対しても

電光石火の一撃を加えることが出来る。

またこの場合の方がヒラメは餌を咥えやすい角度に

身体を回転させることが出来るため、餌を捕らえやすい。

ヒラメがイワシやアジなど上を泳ぐ魚を狙う理由はこの為である。

 

それに対し、マゴチの身体は左右にしか曲がらないので

直上の餌に対して攻撃を加えることはほぼ不可能である。

しかしマゴチの口はヒラメと違い上下に開くので

同じ目線の餌に対し、360°どの角度から攻撃しても

上手く餌を捕らえることが出来る。

真横から接近しての横咥えも可能だ。

マゴチが自分と同じレンジにいる餌に強く反応するのはこの為である。

 

日本が誇る二大フラットフィッシュ、ヒラメとマゴチ。

 

浜名湖で3時間ほどマゴチを狙った釣果。ヒラメとマゴチは同時に狙うことも出来るが

ヒラメにはヒラメの、マゴチにはマゴチの釣り方がある。

 

基本的にヒラメとマゴチの飼育方法は全く同じなので

ヒラメを飼うついでにマゴチを飼えばよい。

注意点は欲張って魚を入れ過ぎないこと。

何cm水槽だろうがヒラメとマゴチ1匹ずつでいい。

両者の似ているようで違う習性が観察できてきっと楽しいだろう。

ただ、飼育という点からすると

マゴチはヒラメよりも弱い魚だということを知っておいた方がいい。

ヒラメには耐えられる環境でも

マゴチは耐えられずに死んでしまうケースがあることを覚えておこう。

 

さて、お次はホウボウ。

ホウボウは日本近海に生息するスズキ目ホウボウ科に属する海水魚で、

最大で50cmほどになる肉食魚である。

これも左衛門佐がよくヒラメと混泳させていた魚なのだが

ヒラメやマゴチと比べるとちょっと神経質なところがあるので

慣れてない人は出来れば単独か同種で飼育した方が良いかもしれない。

胸鰭がとても美しい魚なのでこの魚だけで飼育しても

十分に観察し甲斐がある。

 

 

胸鰭のコバルトブルーの斑点が美しいホウボウの幼魚。遠州浜名湖産。

 

ホウボウの美しい胸鰭の模様は個体ごとに1匹1匹、全て違う。

 

珍妙な姿形をした魚なのでちょっと変わった魚が飼育したい変人に向いている。

胸鰭の一部が変化した3対の脚のようなものがあり、

これで海底をトコトコ歩くように移動する変な魚である。

しかし大きく、特徴的なその胸鰭はあまりに美しく、

特に幼魚期はコバルトブルーの斑点が光っているように見えるほどである。

餌はヒラメやマゴチと同じように魚類や甲殻類などを捕食する。

特に活き餌を好むので人工餌への餌付けが困難と感じるレベルの初心者では飼育は難しい。

 

浜名湖の浅瀬を歩く、ホウボウの幼魚。美しい胸鰭が目立つので遠目からでもすぐにわかる。

 

水槽で飼育する場合、底砂の色を変えることで

体色をある程度コントロール出来る。

幼魚のサイズや個体によっても体色は異なり、

また照明によっても体色は変化するが   

底砂を黒くすると体色も黒っぽくなり、

胸鰭のベースカラーがブラック又はダークグリーン、

斑点がコバルトブルーになる。

底砂を白など明るい色にすると体色は赤っぽくなり、

胸鰭のベースカラーがグリーン又はライトグリーン、

斑点がスカイブルーになる。

 

胸鰭のベースがライトグリーン、斑点がスカイブルーバージョンの個体。

 

ここ浜名湖での仔魚、稚魚、幼魚の出現時期はヒラメとほぼ同時期である。

早ければ2月に仔魚・稚魚の姿が確認できることもある。

なので以前、ヒラメの調査・研究をしていた頃は毎日当たり前のように

顔を合わせる馴染みの存在だった。

歳をとり、ヒラメハンターを引退した今は体力的にきつくなり、

ヒラメやマゴチの産卵状況の調査もやめてしまった為、

この魚に出会う機会もめっきり減ってしまった。

それでも初夏になると、

そろそろホウボウの幼魚たちが

渚に綺麗な青い花を咲かせている頃かな~

なんて想いを馳せることがある。

 

 

浜名湖で採集した、着底したばかりのホウボウの稚魚。

 

発砲スチロールのような白い容器で稚魚を育てるとこのような白いホウボウになる。

 

初夏になると、浜名湖の渚ではこのサイズ(5~6cm)の幼魚が多く出現する。

 

ちなみにホウボウの美しい胸鰭の模様はじつは裏側で、

(正確には胸鰭のどっちが表で裏かは知らないが)

胸鰭の反対、すなわち表側はと~っても地味な配色である。

ホウボウの綺麗な胸鰭は興奮したり、

または警戒したりといった状況のときにひっくり返すものなのだ。

なので、通常時のホウボウは↓こんな感じの地味~な魚でしかない。

 

通常時のホウボウの体色はまるで木に止まったアブラゼミのようだ。

 

さて、めちゃめちゃ話が長くなってしまったが次回の~飼育編~では飼育について書きたいと思う。

ヒラメを飼育するための設備、飼育するうえでの注意点、

餌の与え方についてなどを解説したい。