釈迦のトークにみる「凄み」
釈迦のところに、ジャイナ教の信者ウパーリが宗教議論をしかけに
やってきた。
しかし話しをするうちに頭のいいウパーリは、合理的で論理的な釈
迦の考えにすっかり納得し、仏教信者に加えてもらいたいと願い出た。
このウパーリさん、ジャイナ教徒の中では、それなりの位置付けの人
らしい。
そのウパーリが自分の弟子になると言ったら喜んで、これ幸い、町中
に触れ回りたくなるところです。
まあ私で言えば、大前研一さんが私の勉強にやってきたといった感じ
でしょうか? そりゃ、つい自慢したくなります(笑)。
しかしここで、釈迦は、こういいます。
「あなたはこれまでジャイナ教の信者であったのが、急に仏教に転向
したいと言っている。よ~く考えてください。
熟慮することが、あなたのように知名な人には相応しいことですよ」
と。
これに対しウパーリは、ますます感激して信者に加えて欲しいとさらに
熱心に願い出ます。
・・・まあこの辺りは、その気になっている者を敢えてじらす、
”釈迦の営業トークの旨さ”、という穿った見かたも出来なくもありません。
(私は仏教徒ではありませんから、私なりのクリティカルな視点ですが^^)
でもここからがすごいんです。さらに釈迦は、こう言うんです。
「ウパーリさん、あなたは今まで長い間ジャイナ教にとっては大きな供養
の源泉となっていたのであるから、今後もジャイナ教徒が托鉢にやって
きても、今まで通り布施供養を続けるべきである」
つまり、仏教徒になったとしても、従来どおりジャイナ教徒のために尽く
しなさいと。
そしてウパーリはその通りにして従来通りに布施供養を続けたそうです。
・・・これは原始経典の『ウパーリ経』に書かれていることです。
私たちは、『自社が一番です』と言いたい。
出来れば他者を排斥したい。
あからさまには言わないけれど、他社との違いを訴え、いかに自社が優
れているかを訴えたい。
そして、勝ち負けという構造で、競争を繰り返している。
では、そうではない、自社成長のモデルがあるのか?
釈迦は、
1.強く、自分の考えをはっきりと述べている。
2.しかし、他者とは戦っていない。
3.徹底した他者への寛容。
1.と2.3.がごっちゃになっていません。
私は、ここにこの物語のすごさ、いや釈迦の凄みがあると感じます。
宗教間の対立は、企業間競争の比ではないのですから。
この物語が示唆していることは、とても意味深いと思います。
ちなみに、釈迦は、
「世間は我と争うけれども我は決して世間と争うことをしない。
法を語る者は世間のいかなる人とも争うことが無い」
(『南伝大蔵経』14.216頁)
とも言っています。
参考文献: 『仏教の基礎知識』 著/水野弘元 1971版 春秋社