「今朝、サトシから連絡があった、銀行破綻に関する不正な情報流出のデータがあって、その信憑性を確かめてほしいってお願いされた。サトシから聞いた内容では、各省庁のお偉方と政治家達が、銀行破綻前に一斉に大口を解約しているって話だった。その名簿に、うちのトップのタケウチ次官の名前もあった。正直、その時は考えられない話だった。タケウチ次官とは何度も話したことはあるし、国益を第一に考える優秀な人だった。だから、サトシを信じられず、直接タケウチ次官にそれとなく聞いた。」タカシマは裏切られた気持ちなのだろう、悔しそうな表情だった。


「おまえなぁ。そんな事したら彼らだって揉み消そうと動き出すに決まってるだろぅ。」そんな状況で直接聞くタカシマの無神経さに、さらに怒りが込み上げた。

新聞やテレビ報道の影響で、私のイメージする官僚は、国益よりもOBと退職後のポストを優先する最悪なものだ。だから、私なら官僚よりもサトシのデータを信用するが、実際会ったことのあるタカシマの印象は違うのだろう。官僚っていったって、きっと普通の人間なのだ、税金や組織に関する感覚は別にして、温かい家庭を持っているであろう、普通の人間だ。そんな人間の中に、日本を蝕む悪しき組織が潜んでいたら、私達の正義はそれでも貫く事が出来るだろうか。


「違うんだ。その時、既にサトシは追われてたんだ。何んにも話す前に、タケウチ次官からサトシとデータについて追うように指示された。」サトシは既に追われていて、告発しようと動き出すと、何処かで潰されていたのだろう。どちらにせよ捕まっていたという事か。
「それで言われるままに、サトシを突き出したのか。」そうじゃないだろう事は分かっていた。ただ、サトシを陥れた奴への怒りが治まらなくて、タカシマにあたっているだけなのだろう。タカシマを追い詰めても、状況は何も変わらないのに。

「こんなはずじゃなかった。サトシを助ける為だったんだ。サトシに暫く捕まってて貰って、その間にデータを奪って、サトシは出てくる筈だった。俺の責任だ、すまん。」
「俺に謝られても仕方ない。」タカシマが素直に謝るのを見て、自分が情けなくなった。何もしていないのは、私の方だ。

お前が悪い、誰が悪いと言っている場合じゃない。サトシの正義感を無駄にしない為に、どうすべきなのか考えて実行しなきゃいけない。

それは今だ。

「サトシが拘置所で自殺したって、今ニュースで。」ショウタは友達を失った悲しみで泣いていた。
「わかった。ちょっと待っててくれ、もう少ししたら戻るから。」私が想像していたよりも、事態は深刻だ。何か大きな影が、私達を飲み込もうとしている様だ。サトシが自ら命を断つはずがない。

私は怒りで気がどうかしそうだった。
「サトシが拘置所で自殺した。今ニュースで流れてるらしい。タカシマ、サトシは助かるって言ったよな。どうなってるんだよ。」私の怒りの矛先はタカシマに向いていた。

「そんなはずはない。」それを聞いたタカシマは、驚いていた。自分した事の重大に気が付いたのだろうか。
「それは本当なのか。少し調べさせてくれ。」タカシマはそう言うと、ケータイで誰かに電話をかけた。口元に手を持っていき、小声で話していたので内容は聞き取れなかったが、タカシマの顔色は、みるみる青ざめていった。


「サトシと何があった。どういう事だ。」私は再び強く問うた。
「こんな事になるとは思わなかった。サトシを捕まえて、その間に盗まれたデータを回収して、処分保留で釈放するって話だった。」タカシマは、心が折れたように、話し始めた。
「今朝、お前はサトシとは連絡を取っていないと言った。でも、サトシのケータイには、お前の名前があった。サトシと何を話していた。何故アイツは捕まった。」タカシマの冷めた返答にイライラした私は、少し感情的にもう一度聞いた。
「だから話せない。サトシも直ぐに助かる。それまで大人しくしててくれ。」タカシマも声をあらげた。私としては到底納得できる話ではない。だが、タカシマが何かを知っている事は分かった。
「俺はお前を疑ってる。サトシを貶めたのはお前じゃないかと思っている。サトシがインサイダーなんか…」私が感情に任せて話した言葉を遮り、タカシマは怒鳴った。「俺だって、こんな事したくなかったんだよ。立場上仕方なかったんだって。」

腐っている。そんな事をして何を守ろうとしているんだ。何を犠牲にしてもイイのか。タカシマに失望した。

その時、ケータイが鳴った。ショウタからだ。状況は理解しているだろうから、緊急なのだろう。私はタカシマに構わず電話に出た。

「もしもし、ユウスケか。サトシが自殺した。」ショウタは涙声だった。