メッセージのサトシの声は、いつもより少し早口で緊張感があった。
「えー、ユウスケ。昼の約束なんだけど、行けなくなってしまった。すまない。実は今、警察に追われてる。今朝、話した情報漏洩の件を告発しようとして、陥れられた。捕まるのも時間の問題だろう。でも信じて欲しい。告発する為に、このパソコンを銀行から持ち出したが、内部取引には一切関わっていない。絶対にやってない。巻き込んでしまって申し訳ないが、なんとか助け出して欲しい。頼れるのはお前だけなんだ。大阪のテレビ局に知り合いがいる、近畿テレビのホソイって記者がいる。その人に何とかしてもらうように頼んである。連絡をして欲しい。あと、残念だがタカシマは絶対に信用するな。ひょっとしたら、連絡があるかもしれないが、気を付けてくれ。じゃあよろしく頼む。」
サトシのメッセージを聞いて、自分自身の不甲斐なさを再認識させられた。
ショウタが何とか早く届けたサトシからのメッセージを、私が聞きそびれたのだ。
私はサトシからのメッセージを探そうと、ケータイの電源を入れた。その時、ケータイに無理矢理こじ開けたような跡がある事に気が付いた。その影響なのか、アンテナのマークが全く表示されない、圏外のままだ。
夕方に、タカシマの発着信を確認した時には気付かなかったが、あんな事があってメールも着信も無かったのは確かにおかしい。

サトシが、追跡されないでメッセージを届ける為に、何かの細工をしたに違いない。

ケータイを調べると直ぐ、データの中にかなり大きな容量の音声ファイルがある事がわかった。

私は直ぐにソレを再生した。
書斎に入ると、ショウタと二人で、慎重に預かったパソコンを、紙袋から引っ張り出した。

そして、自分のパソコンモニターに繋いだ。

電源を入れると、ICカードの読み込みと、パスワードの入力画面で止まった。そうなるのは当然だろうが、良い案は特になかった。

「何か聞いてないか。」私はショウタに聞いた。
「いや、何も」期待はしていないが、ショウタの答えには、いつもガッカリする。

サトシが、パソコン本体に何か手掛かりを残していないか調べたが、JFG銀行と石丸聡の文字が印字されたシールが貼られているだけだった。サトシが銀行で使っていたパソコンなのだろう。だとしたら、結構なセキュリティがかかっていて当然だ。

「アドミ権限でログイン出来ないかなぁ。」ショウタがボソリと呟いた。
何の事だかよく分からないが、解決策の案だと言うことは、なんとなく分かった。
「やってみてくれ。」私はパソコン前の席を立ち、ショウタにやってみるように促した。
「あぁ、わかった。」
ショウタがパソコンを操作している間に、私はサトシのケータイを紙袋から取り出していた。
手掛かりの代わりに、電波で場所が探知されてしまうかもしれないし、危険だと思ったが、何かに動かされるように、電源を入れてしまった。
冷静に考えれば、軽はずみにするべき行動ではなかったが、その時は自分は大丈夫だろうという根拠のない自信があった。