「そうだよな、
俺が女性に鞍替えしたら
ライバルが増えるもんな。」
冗談めかす俺に
雅紀は首をふる。
「大野さんってさ、
綺麗な人だったけど、
俺、あの人を一度も
見かけたことがないんだよ。
いったい、
どこの課のひとなんだろう?
あれだけ美人なら、
俺絶対に見逃さないと思うんだよ。
それに・・」
「それに?」
珍しく言いよどむ雅紀を
俺は急かした。
もう1階分昇れば、
雅紀の広報課についてしまう。
「だから、なんだよ雅紀。
はっきり言えよ。」
再度促すと、
雅紀はいいにくそうに声を潜めた。
「じつはさ、
翔ちゃんが大野さんと出て行ったあと、
相手方の幹事の木村さんがさ、
横の鈴木さんと話すのが
聞こえちゃってさ・・・」
「何を言ってたんだ、二人は。
名前も聞いてないくせに
選ぶのかとか?」
「ううん、
いい気味とか、
思い知れとか・・」
「何?」
それは、
あまり合コンでは
聞かないセリフだぜ。
「俺はさ、
あいつらとは
初対面なんだぜ。
いったいどういうことなんだか
意味が解らないぜ・・
だから女は
嫌いなんだよ・・」
風向きが悪くなったのを
敏感に察知した雅紀は
いきなり、
2段越えで階段を上がると、
「じゃあ翔ちゃん、また。」
とっとと、
ドアの向こうに消えた。
俺は、階段を昇るスピードを緩めた。
あの店に来ていた
四つ葉化粧品の女性社員たち、
だれとも俺は面識がない。
そもそも、
女とはこちらから
積極的に知り合いになることもない。
仕事以外では・・
彼女らの中では
大野さんが一番綺麗だった。
だから、嫉妬したのかもしれないな。
俺に声をかけられなかったから・・
俺は傲慢な理由をつけて満足し、
自分の席へ向かった。
「いらっしゃいませ」
「久しぶりだな、変わりないか?」
重厚な木製のドアを開けると
見慣れた店内が懐かしい。
いつも座っているカウンター席に
腰を掛けた俺に、潤がにこやかに笑う。
「お待ちしておりました。
いつものでよろしいでしょうか?」
「うん。」
早く潤の店に行きたかったが、
昇任したばかりの俺には、
やることが多くて
毎日残業は避けられなかった。
ようやく、店に行くことができたのは、
例の合コンから
2週間後の金曜日だった。
すでに時間は10時半を過ぎ、
テーブル席は2つ埋まっているだけ。
俺の座ったカウンター席にも一人。
その男性は、
自分の横に立つ男性と
話をしている。
どうやら、
立っている男性が
積極的に誘っているようだ。
「来るのが、
遅かったかな。」
潤に話しかける。
「そうですね、
さっきまでは賑わっていましたが・・
でも、ちょうどよかったです。
ご紹介したい方が
さっきいらしたばかりですので。」
紹介?あっ、3年前に言ってた件か・・
「3年前の約束か・・
そんなに長い間フリーなやつは、
ごめんだな。」
俺が渋い顔をしたのに、
潤はかまわず続ける。
「お会いになってから
返事は決めてください。」
「たいした自信だな」
俺が皮肉るのを無視して
潤がカウンターの端に向かうと、
しつこく誘われていた男性に
耳打ちをする。
男性が、俺の方を向いた。