「もういい・・
謝るな、雅紀。
俺も大人げなかった。
来週からは、
いつもの電車に乗るから。」
「ぐす・・ひっ・・く・・
わかった・・。」
「早くトイレで顔洗えよ。
それじゃ、
人に見せられない。」
俺は、
雅紀の背を押した。
「うん・・
ありがと、翔ちゃん。」
バタバタと
雅紀がかけて行った。
俺はその後ろ姿を
追いかけながら、
改めて、
今日は金曜日だと
ため息をついた。
ラインは送ってある
だが、彼から返信はない。
既読なのに・・・・
今夜は
会えないのだろうか?
いやいや先週会ったばかりだ。
彼だって、
そうそう暇ではないだろう・・
だが、
それでも返信くらい欲しい・・
会いたい・・
あの顔を見たい・・・
あの体に触れたい・・・
あの声を聞きたい・・・
抱きたい・・・
はあ・・
俺は大きくため息をついて
階段室を出た。
「お先に失礼します」
「お疲れさまです」
「じゃ、来週!」
終業時間になり、
同じ課の社員が
次々と帰っていく。
残っているのは、
俺と例の彼女だけ・・
俺は
スマートホンを机の上に置いて、
パソコンを打つ振りしながら
ラインが鳴るのを待っていた。
これからだから・・
そう、
夜は長いんだ・・
連絡が来たら
すぐに向かえばいい・・・
「係長・・」
「・・・」
「櫻井係長」
何度か呼ばれて
俺は気がついた。
「何?悪いな、
考え事していた。」
俺は横にたつ彼女に
視線を向けた。
「私、
今朝みてしまいました。」
「えっ・・」
「櫻井係長が
相葉主任を
怒鳴っているところを。」
「怒鳴る?
何かの間違いだろう?
話をしていたのは認めるが、
怒鳴ってはいない。」
「じゃあ、なんで
相葉主任が泣いていたんですか?
係長は、
私が自分のミスを処理しないで、
帰ったこと、
相葉主任が庇ってくれたことを
恨んでいるのですか?
あの日、
帰っていいといいながら、
今更怒るなんて、
卑怯です。
怒るなら
私を怒鳴ってください。
相葉主任には、
なんの非もないじゃないですか。
たしかに櫻井係長は
仕事もできるし、
イケメンかもしれません。
でも、人間として
どうなんでしょうか?
やはり、
聞いた通り最低だわ・・」
いきなり
俺に対する非難を始める彼女・・
俺は、あっけに取られて
口を挟む間もなかった。
やっぱり自己中な女だったか・・・
雅紀の前では
猫被っているんだ。
だが、最後の言葉が
引っ掛かった。
小声でひとりごとのように
もごもごとして、
小さな声だったが、
俺は聞き逃さなかった。
聞いた通り?
何をだよ、
最低って・・・
「相葉主任は
本日早退されました。
櫻井係長のせいです。
謝ってください。」
言いたいことだけ言い放つと、
彼女は、
乱暴にドアを開けて出て行った。
なんだ?
あの女?
いや、デジャブを感じる・・
同じようなことを言われたような・・・
う~ん、額に手を当てて考えこむ俺は、
ラインが届いていることに
まったく気が付かなかった。