今どきのオフィスはとても静かだ。

   雑談をする人はいない。

   メールが発達して電話も鳴らない。

   雑談をしていると「何をサボっているんだ」と非難される雰囲気さえある。

   テレワークの推進に伴い、雑談をしなくなる傾向はますます強まるだろう。

   しかし、この一見無駄にみえる雑談には、職場とそこで働く人を良くする大きな力がある。

〜〜〜〜〜〜〜

   単に「昔は良かったと」言う気はない。

   良くなかった面も沢山あるからだ。

   例えば、働き方改革とは無縁の残業。 
   効率性など全く考えていなかった。自分の仕事が終わっても、上司・先輩が帰るまでは帰り辛い雰囲気だった。

  例えば、パワハラ、セクハラの類。
  人格否定など当たり前。それでもしメンタルに不調を来たせば「アイツは打たれ弱い」などと理不尽な評価を受けたりもした。

  今の職場には、そんな不合理なことはなくなっている。

  万事が効率化されており、全体として見れば、勤務環境は良くなっている。

   しかし、その効率化・合理化と並行して、雑談も無くなっていった。

〜〜〜〜〜〜〜

   だから、僕は時折やることがある。

   個室の席を離れて、大部屋にふらりと出て行って、部下のデスクに行く。

   大体1日に1回はしているか。

   誰かに「何してんの?」と声をかけて、その部下が現在抱えてる案件について、ちょっと話をする。

   あえて他の人にも聞こえるように話をすることもある。話に入れるように。(もちろん、機微なことは話さないが。)

   ざっくばらんな雰囲気で、言いたいことが言えるように。

   また、仕事の話だけではなく、部下のデスクに飾ってある家族やペットの写真を見つけて、ちょっとその話をしたりする。

  報告だけでは知ることのできない業務、その苦労や進捗、問題点を知り、また、部下のことを知るために必要なことだと思いやっている。

   嫌がられない程度に。(本当は嫌がられているかも(笑))

  さらに言えば、単に話好きで、一人で部屋にいるのが寂しいのもある(笑)。

   でも、上司がそうやれば、部屋の雰囲気が明るくなる。

   部下・同僚同士でも話を始める。

   相談しやすい雰囲気、自由な発言・議論が生まれ、結果的に仕事が上手く回ると考えている。

〜〜〜〜〜〜〜

   また、昔は、少し時間が空くと、用もなく別の部屋に行って雑談をする「おじさん」がいたものだ。

   ふらりと別の部署にやってきて、空いている席に腰を下ろして「よう、元気か?」と後輩社員に声をかける。

   後輩社員も、そのざっくばらんな雰囲気に、直接の上司には言えないようなことも、「まあ、こんなことがありまして...」と雑談に応じる。

  その雑談するおじさんは、別に的確なアドバイスをくれる訳ではない。

「おう、そうか。」「お前も大変だな、まあ、頑張れや」くらいの返事しかしない。

   でも、それで良いのだ。

   下手に専門外の人からアドバイスをもらうよりも、話を聞いてもらうだけで良いのだ。

   それだけで、なんとなく心が晴れることもある。

〜〜〜〜〜〜〜

   そして、その雑談おじさんは、何かのときに、その若手の部署の上司に「そういえば、○○君っているよな、あいつだいぶ悩んでるみたいだな」、「ちょっと気にしてやってくれよ」と言ってくれたりする。

    釣りバカ日誌の浜ちゃんみたいな人をイメージしてくれたら良いかもしれない。

   一見、役に立っていない社員が、他の社員(特に若手)のメンタルをケアし、また、会社の潤滑油になっていたと思う。

〜〜〜〜〜〜〜

   今は、自分の部署以外の部屋に行くのさえ、違和感を感じる。

   別の部屋に入ると「この人、何をしに来たの?」という視線を感じる。

(ただし、まさに今現在は、接触を極力控えるために仕方ない面があるが。)

  自分が若い頃はそうではなかった。

   数年上に採用された上司のところに、その同期がふらりとやってきて、雑談をする。

   そこで、僕に対し「おっ、君は誰だ?」と声をかけてくれる。話に入れてもらう。

   そして、自分とは違う部署の仕事のことや、その先輩の経験を聞いたりする。

   夕方、就業時間外であれば、そこに缶ビールが出される。ツマミは乾き物。

   それは若手が用意をせねばならず、忙しいときは「早く仕事がしたいのに」と思うこともあったが(笑)

   でも、有能な人が、酒の力で、普段言わないようなことを言ってくれる。

   今思えば、そんなときに聞いた話が、ふと仕事に役立たりする。

   違う部署の先輩の顔と名前、その人柄を知ることができる。

   若手でも、自分の思いを喋ることもできた。酒が入ればますます。

   その後、突発的な外での宴会になだれ込むこともよくあった。

   いつも行く場末のスナック。そこに、また別の上司や先輩が合流することもよくあった。

 〜〜〜〜〜〜〜

   今、その雑談の機能を唯一残しているのは、喫煙所かもしれない。
   
   そこでは「タバコを吸う」という、今やマイノリティになった人達の仲間意識もあり、上司・部下、先輩・後輩問わず話が弾むことがある。

   タバコを吸う自分の自己正当化かもしれないが。

〜〜〜〜〜〜〜

   雑談の機能・効用については、組織的に認めている企業もあるようだ。

   例えば、GoogleなどのIT企業。飲食無料のカフェテリアを用意している。

   その目的は、リラックスの他に、社員同士のコミニケーション、雑談を目的にしている面もあるのではないだろうか。

   また、今テレワークを推進している企業の中には「いかに雑談をするか」を考えて、わざわざ雑談のためのシステムを用意する企業もあるようだ。

   自分の職場も、雑談の有用性を今一度見つめ直してほしいと思っている。

   でも、まずは自分から始めてみよう。
   
   もう少ししたら、社内をウロウロする浜ちゃんみたいなおじさんになろう。

   「こいつ誰だ?」も最初だけだ。すぐに「また来たな」になるはず(笑)