「エリザ!」
羊飼の少年は、かう叫びました。
娘はふり返りました。多分、返事の代りに笑つてみせたのでせう。
その後姿は、もう広場を横切つて、一軒の、とある見すぼらしい家の踏段を上つてゐました。
「なにを愚図々々してた。」
奥から父親の、我武者羅な声が迎へました。
「だつて。……」
と、娘が何か云ひ返さうとするのを遮ぎつて、
「さあ、早く支度をしろ。ブレンネル・ホテルから迎ひが来てゐる。」
「ブレンネル・ホテル……あら、今時分……?」
「えらいお客様だ。国境画定委員とかいふ、あれさ、同勢二十人からの団体らしい。一と月ぐらゐゐるつて話だ。手伝つて来な。」
「外国人ばつかりでせう。」
