2ポイント用の旧魂セミトラをお使いのW1SAオーナー様で、片側が故障したためメーカーに申告し修理してもらったものの、故障原因については教えてくれなかったため不安が残るとのことで、先日おはゆに61製セミトラ(通称マツトラ)をご用命いただきました。そして、この度その方の旧魂セミトラをお預かりし、調査させていただくことになりました。取り付け後、500kmほど走行した時に故障したとのことです。その修理品を写真のように当方のベンチ試験器で検査しました。

その結果、火花は青白くバチバチと出ていることは確認できましたが・・・

 

オシロスコープでコイル一次電圧波形を観測すると、なんかヘン・・・

何故こんなに波打っているのか? もうすこし拡大すると・・・

 

えーーーっ、これは何だろう???

確かにこのセミトラ、ヤフオクの商品説明欄で耐圧600VのMOSFETを使っているとの記載がある通り、一次電圧そのものは高く出ている。しかし、このような乱れた波形というのは驚きだ。なぜこんな波形になるのだろうか?

 

ちなみに、当方のセミトラは左側です。右側はマキトラですね、某セミトラと書いてますけども。

 

いろんなセミトラのコイル一次電圧波形を観測してきたが、旧魂セミトラのようなものは見たことがありません。

 

そこでいよいよ内部回路がどうなっているかに迫っていきます。

ケースはビス4つで固定されているのでそれを取り外すと、簡単に内部基板が現れた。さすがに公開するのも気が引けるので、モザイクをかけています。

 

基板の裏側も。

 

MOSFETは小っちゃめのものを使っています。これでも耐圧600Vあります。

でも、このMOSFETのドレイン・ソース間抵抗は当方のより約4倍大きいですね。ベンチ試験時に本体が少し温かいなと感じましたが、そのせいです。おはゆにセミトラはほぼ温まりませんので。抵抗が小さい方が損失が小さいので良いのです。

 

それと、全体的に保護素子が少ないと感じます。

MOSFETのゲート保護、サージに対する保護です。

まあ、保護素子が少ないからと言って故障が多いというものでもありません。何かあったときのための備えみたいな素子ですので。

 

もう一つこのセミトラの特徴は、ポイント電流を大きくするための回路が設けられていることです。ポイント点火の場合、ポイントに流れる電流は2A程度ありますが、セミトラ点火では0.02A程度です。ものにもよりますが。それと比べてこの製品は、0.1A以上流すように設計されています。これもおそらくネット上のとあるサイトネタを借用しているものと思われます。ポイント電流を小さくしすぎると、ポイント接点の汚れによる導通不良が起きやすくなるため、そこそこ流してみよう、という試みのようなものです。ただ0.1Aなら効果的なのかどうか、についてはどこにも情報がありません。0.02Aであっても0.1Aであっても、それくらいならポイント接点にアークは発生しないと思いますので、あまり効果はないのではないかと個人的には思いますが・・・。0.1A流そうとすると、内部回路の抵抗にはW数の大きなものを使う必要があります。ということはそこに発熱が生じるわけで、損失が増えます。そういう意味でも、私は不要派です。

 

それと、プリント基板の配線が独特です。ふつうは90度に折れ曲がる配線はつくらないんですが、この製品ではあちこちに90度折れ曲がりパターンが組まれています。人が走るときに90度カーブは曲がりにくいのと同じで、好ましくないと思います。

 

とまあ、いろいろ書きましたが、ご提供いただいた方の故障修理のために直したところは、基板をみただけは分かりませんでした。すいません。

2ポイント用ですが、観察したところどちらの回路も同じ素子で構成されているため、片側故障の対策として何か素子を変更したようでもありません。故障した素子をそのまま新品にしたということかと思います。ですので、また同じ現象が起きる可能性は残ったままです。

 

故障原因として気になるのは、コイルの波形です。

これまでおはゆに61セミトラでも耐圧600V素子が故障したことがあります。その原因を探るために故障した車両のイグニッションコイルを調査したところ、一次波形が相当うねうねと波打っていました。他のコイルには見られない波形でした。おそらくコイルの不良や劣化によって起きたものかと思われます。開磁式の古いコイルにはたまにそういうやつがあります。その場合はMOSFETのみが故障しますので、今回もそうではないかと思いますが、断定できません。

 

当方の経験としては、その様なトラブルの車両でもコイルを新品にしたら、何事もなかったかのようにセミトラが動作したということもありましたし、MOSFETの耐圧を下げるということも効果的でした。600Vまで耐圧を上げなくても、セミトラの効果は十分に得られますので。

 

セミトラのMOSFETの天敵はコイルですね。何か魔物が住んでいるようです。とにかく大きなノイズ放出源ですから。

 

一連の調査を終えましたので、このセミトラはオーナー様に近日返却いたします。

このままお使いになると、また同じような故障が起きる可能性があるため、スペアとして所蔵しておく、ということをお勧めしたいと思います。