第13話『因果応報』
内村「だからあ!亡くなった被害者は故人なんだから人権なんてもう無いの!でも犯罪者は生きてるからこそ人権があるんですよ!貴方、何度言えばそれ分かるの!」
この横柄な態度で電話相手と話してるのは弁護士の内村晃義。
内村は死刑反対派の弁護士で、電話の相手は強盗に入られて殺害された被害者の遺族だった。
内村はこの強盗殺人犯の弁護を引き受け、その男を微罪に導いていたのだ。
お陰で内村は弁護士としての名は高まったが、被害者側として到底、許せる筈などなかった!
強盗殺人犯は上田竜也という、当時17歳の少年だった。
上田竜也は自分の遊ぶ金欲しさという身勝手な理由で強盗に入り、そこで鉢合わせた被害者を躊躇なく殺害したのだ。
身内を殺害した被告の上田竜也には極刑は勿論、本来なら極刑に処するべき上田竜也を微罪にした内村に対しても、到底怒りは収まらなかった!
内村「しつこいですよ!それに今 何時だと思ってるんですか!いいですかあ、よーく聞きなさい!これ以上つべこべ言うなら私にも考えがあります!いいですね!」
ガチャ!
そう怒鳴るように言うと、内村は強引に電話を切った....
内村「あー、もしもし 内村だけど。松坂君、十河の奴、帰って来たかい?」
松坂「内村先生、それが相変わらずで....」
内村「まだ帰って来てないのかい。全くどうなってるんだ....」
松坂「申し訳ございません。あれから何度もずっとかけてるんですが、十河先生、一向に出られないんですよお....」
被害者遺族の電話を切った後内村は、十河氏真弁護士事務所に電話をかけた。
十河氏真弁護士事務所代表弁護士の十河氏真は、内村晃義とは大学の同期である。
十河氏真がそうだったように内村晃義もそれと同じで、犯罪者など二度と更生など出来ぬ絶対的悪だと知りながら、己の私欲だけの為に死刑反対を唱える悪徳弁護士だった!
電話の応対に出たのは松坂桃李という若い見習い弁護士で、松坂は十河の行方が分からずオロオロしていた。
松坂 桃李
松坂「まあ、君のせいでもないからな....」
松坂「すみません....」
当の十河氏真はゴルゴムメンバーのひとりであり、既に剣聖ビルゲニアによって粛清された後だったが、そんな事は内村も松坂も知る由もなかった。
内村「分かった。もし十河から連絡があったらすぐに知らせてくれ」
松坂「分かりました!」
内村は電話を切った。
内村「それにしても十河の奴はどうしたんだ?でも まあ、出て来ないならそれはそれでいい。目障りなライバルなんぞ、ひとりとていない方がいいからなあ」
大学の同期であるが内村と十河は、決して仲良しこよしではなかった。
互いにライバル視し、隙あらば出し抜いてやろうと互いに思っていたのだ。
何処に姿をくらましたのかは分からぬが、このまま十河が出て来なければ寧ろ好都合だと内村は思った。
内村 晃義
内村「さて、うるさい被害者遺族の相手で疲れたよ....。ワインでも飲んで、もう寝るとするか....」
内村のような男には全く似合わないが、内村は高級ワインを飲みながら眠りに就こうとした。
その時....
内村「何だ!今 何か音がしたぞ!何の音だ!」
何か怪しげな物音がした。
内村「おい!誰かいるのか!」
まさか泥棒か!
内村「ふざけた真似を!とっ捕まえてやる!」
その物音がする方向へ、内村はソロリソロリと向かった。
内村「きっ、君は!」
上田「ちっ!見つかっちまったか!見られちまったからには仕方ねえ....」
そこに居たのは上田竜也という、内村もよく見覚えのある青年だった。
そう、先程電話で話していた相手の身内を強盗で殺害した被告で、内村が弁護を引き受けて微罪にしてしまったその上田竜也である。
内村も知っていた通りやはり上田は更生出来ず、再犯を犯そうとしていたのだ。
しかも今度はあろう事か、自分を弁護し助けてくれた恩人である筈の内村の宅に強盗に入ったのだ。
内村「何だそれ!やめろ!やめなさい!私が君の為にどれだけの事をしてあげたのか分かっててやっているのかね!」
上田の手にはキラリとナイフが光っていた。
恩を仇で返すとはこの事か、上田はそれで内村を刺そうとしていた。
上田 竜也
上田「アンタ、相当貯め込んでると思ってよ。それでコッソリ入ったんだが、間抜けなアンタがノコノコと出て来たもんだからよ....」
内村「ひいい!やっ、やめろ!やめてくれええ!助けてくれええ!」
上田「悪いな内村先生。アンタには世話になったが、生憎俺はそんな恩など感じるようなタマじゃねえんだ。だって俺、根っから腐った悪の犯罪者だからよ!(笑笑)」
内村「ひっ、ひいいい!」
ぎやあああああああああ!
上田竜也は内村晃義を刺し殺してしまった。
上田「ケッ!頭の悪い先生だ!こうなる事くらい、少し頭捻れば分かった筈だろうに....。それに俺、アンタのその上から目線なトコ、ずっと大嫌いだったんだ!」
上田「やっぱ弁護士、金持ってるよなあ」
一度悪に染まった犯罪者というものは更生など出来ないのだ。
読者の皆さんも現にニュースを見ていて、逮捕された犯人が舌を出しながらニヤニヤとしているのを見られた事はないでしょうか。
明らかに反省などしている態度ではなく、こういう連中は夜に放てばまた同じ事を繰り返す!
だから絶対に出してはならないのだ!
畜生なので恩義を感じるような事もないだろう。
だからこのように、かつて自分を救ってくれた恩人にさえ、自分の勝手で平気で襲いかかって来る事にもなってしまうのだ!
死刑反対派の弁護士の皆さん!
それでも貴方達は、凶悪な犯罪者達の弁護なんて引き受けますか?
裁判官の皆さん!
それでも貴方達は、凶悪な犯罪者など世に放つというのですか!
上田「だっ、誰だ!くそう、ふざけやがって!💢」
上田は黒のビッグスクーター型のバイクを所持していた。
内村の自宅から少し離れた公園に停めていて、内村を殺った後それでズラかろうと戻ってみたら、バイクのタイヤが凹んでいた。
見れば何か刃物で刺されたような跡があり、明らかに誰かの仕業だった。
上田「ざけやがって!💢💢」
怒りに狂う上田....
その時闇の中で、クスクスと誰かが笑う声が聞こえた。
上田「おい!誰かいるのか!おい!何がおかしい!💢」
クスクスクス....
上田「てんめえ!舐めんじゃねえぞ!💢💢」
本郷 奏多
本郷「こんばんは、野蛮で下品なお猿さん。(クスクス)」
上田「テメエか!さっきから笑ってやがったのは!💢」
そこに現れたのは、本郷奏多という青年だった。
本郷奏多は見た所 上田竜也と同じ年頃で大学生っぽかった。
本郷「頭の悪い猿って嫌いなんだよね。ホント、反吐が出る....」
上田「この野郎!猿だと!ん?まっ、まさか!」
もしかしてコイツが!
上田は、自分のバイクのタイヤをパンクさせたのは、もしかしたらこの本郷ではなかろうかと思った。
いや、間違いない!と思った。
本郷「あの、どうかしました?もしかして、僕が猿って言った事にムカついたんですか?(笑)いやでも猿に猿って言って、一体何がいけないのでしょうかね?(笑笑)」
上田は嘲笑を続ける本郷の胸ぐらを乱暴に掴んだ。
上田「調子に乗ってんじゃねえぞ。お前だろ、俺のバイクのタイヤを凹ましたのは....」
そう上田は凄んで見せた。
しかし本郷は臆する様子を見せず、平然としながら言った。
本郷「ズバリ御名答!その通り、僕がやったんですよ。いやあ、頭の悪いお猿さんにしては上出来だ!」
バキッ!
当然、こういう流れとなる。
上田は本郷を思いきり殴りつけた。
本郷は、鼻からタラーリと鼻血を流していたが、それでも食ったかのように嘲笑の笑みを浮かべていた。
上田「お前!」
本郷「ぜーんぜん!痛くないですよお!ウフッ、もっとやってえ。(笑)」
上田「クソがあ!」
ドガッ!
今度は腹部に蹴りを入れた。
本郷「ウフッ!(笑笑)」
本郷は決して屈強そうではなく、見た目ひ弱。
しかし何度殴られ何度蹴られても、鼻血を垂らしながらただ笑ってるだけ。
上田「この野郎!」
上田は渾身の力を込めて遂に本郷を吹っ飛ばし、本郷は仰向けになって地面にぶっ倒れた....
上田「気味が悪い野郎だ....」
上田は暴行の手を止め、本郷の胸ぐらを掴んで引き起こした。
上田「とにかく、これ以上痛い目に遭いたくなかったら金出せ!帰りのタクシー代(まあ、踏み倒してやるけど....)と、このバイクの修理費だ!」
本郷「................」
上田「おい!聞いてるのか!」
本郷は何も答えなかった。
流石に頭の悪い猿の上田でも、これには何か得体の知れない不気味なものを感じていた。
だが上田には、舐められてたまるか!という意地があった。
上田「コイツ、まだ足りねえようだな....」
更にもう一発、上田は拳を振り上げた。
その時、その腕を本郷がパッと掴んだ。
上田「!!!!!」
それは、貧相で身体の細い本郷からは想像も出来ないような強い力で、上田の腕に痺れが走った。
本郷「その程度ですか?では今度は僕の番だね....」
上田「ひいい!」
本郷はニヤリと、まるで妖魔のような笑みを浮かべた....
上田「たっ、頼むう....。助けてくれ.....。(泣泣)」
それまでの勢いは何処へ行ったのか、今度は逆に上田の方が本郷に一方的に痛めつけられていた。
バキッ!ドカッ!グシャ!
本郷「うふふ、どうしたの?この程度でもう終わりかい?(笑笑)」
上田「かっ、勘弁してくれえ....。おっ、俺が悪かった....。(泣泣)」
本郷の拳は上田の血で真っ赤に染まり、上田の顔は原型を留めない程に醜く腫れ上がっていた。
本郷「コレ、今までにアンタがやって来た事だよ。こうやって嫌がる相手を無理矢理に痛めつけて....。やられた方の苦しみ痛み、少しは分かった?」
上田「だからあ!俺が悪かったって言ってるじゃないかあ!」
上田は必死で許しを請うたが本郷には通じなかった。
本郷「ねえ、僕の顔見て何にも思い出さないの?やった方は忘れてても、やられた方はずっと忘れられないんだよ。この意味分かる?」
本郷は上田にその顔を近づけた。
そしてその顔を見た上田は....
上田「おっ!お前!まさか!」
本郷「そう。やっと思い出したんだね」
どうして今まで気づかなかったんだろう。
本郷奏多、それは上田竜也の高校時代の同級生だった。
当時 上田は本郷に対し凄惨なイジメをし、それが原因で本郷は首吊り自殺を図ったのだ。
幸い本郷は一命を取り止めたがその後不登校となり、以来 上田は本郷を見る事はなかった。
そして上田が強盗殺人を犯して捕まったのは、それから間もなくしてからの事だった。
上田「ひいい!」
本郷「ずっと待ってたんだよ....。この日が来るのを....」
ジーザス
ジーザス「どうだ、気が済んだか?」
本郷「ハイエナ怪人様....」
とうとう本郷は上田をリンチしてなぶり殺しにしてしまった。
上田は忘れていたが本郷の上田に対する恨みはずっと消えず、遂にその復讐を果たしたのだ。
上田が事切れるのを待って、そこへハイエナ怪人ことジーザスが姿を現した。
ジーザス「こんなくだらぬ事の為にお前は、ゴルゴムの仲間入りをしたのか、オニザル怪人....」
何と本郷奏多の正体は、ゴルゴムのオニザル怪人だったのだ!
本郷「憎かったんですよ、ずっとコイツが!あの日々の悪夢、忘れたくても忘れられなかった!だから僕は!」
本郷は忘れようとしていたのだ。
それから必死で猛勉強をして大検に合格し、有名大学にも進学出来た。
しかしかつて受けた屈辱は、どうしても忘れる事が出来なかった。
本郷「僕は強くなりたかった!だから、だから僕は!」
ジーザス「分かった、もういい。とにかくこれでもう雪辱は果たしただろう。これからは心置きなく、ゴルゴムの為に働いてもらうぞ、いいな....」
本郷「はい....」
フジオカ「因果応報だよ....」
松坂「因果応報ですか....」
十河氏真は依然として行方知れず、更に内村晃義と上田竜也が死を遂げた後、松坂桃李はデイーン・フジオカ弁護士事務所を訪ねていた。
ここの代表弁護士であるデイーン・フジオカは十河と内村の大学の後輩に当たるが、十河と内村とか全く真逆で死刑制度そのものには賛成派だった。
フジオカは十河と内村のやり方には当然否定的で、「このままではろくな死に方はしませんよ!」と、常々苦言を呈していた。
しかし十河と内村は全く聞く耳なしで、そんな矢先にこのような事が起きたのだ。
フジオカ「まあ、亡くなった方の悪口を言うのは良くないんだけど、先輩達は確かに弁護士としての手腕は私なんかよりも一流だった。しかし私欲に走り被害者の無念にも、ご遺族の苦しみや悲しみにも向き合おうとはしなかった。きっとその天罰が降ったんだよ」
ディーン・フジオカ
フジオカは、十河と内村に起きたそれを、自業自得とまでバッサリ言い捨てた。
松坂「フジオカ先生、私はこの先一体どうすれば....」
フジオカ「松坂君、君はまだまだこれからだ。今からでも充分遅くはない。どうだい?君さえ良ければ、私の元で出直さないかね?」
松坂「えっ!」
フジオカのその言葉に、正直 松坂は、光が見えたと思った。
実は松坂も、十河の主義にはずっと疑問を感じていたのだ
松坂はずっと悩んでいたのだ。
私利私欲を求めて弁護士になったのではなく、もっと、虐げられた人達に寄り添える弁護士に松坂はなりたかったのだ。
フジオカ「どうやら答えは決まりのようだね。ではよろしく頼むよ、松坂先生」
松坂「はい!よろしくお願いします!」
フジオカ「それからだ。もうひとつ、これも凄く大事な事だ」
更にフジオカはもうひとつ、非常に大事な事を付け加えた。
フジオカ「確かに私は更生の余地なき悪質な犯罪者達は絶対に許せない!しかしそればかりでなく、世には冤罪に苦しむ罪なき人達も沢山いる事も事実だ!本来、冤罪なんて絶対にあってはならない事だが、そういう冤罪に苦しむ人達を救う事も我々弁護士の成すべき仕事だという事も、くれぐれも忘れぬようにな」
松坂「はい!」
松坂はフジオカと固い握手を交わし、以後、弁護士として本来あるべき正しき道へと歩み始めた....
(続く)