第7話『許さん、ゴルゴム!』


杉本「ゴルゴムは悪魔の集団だ!」

光太郎「その悪魔に、貴方は俺達を売ったんだ!」

ゴルゴム....

それは、有史以前から驕り高ぶる人類の発展した文明や文化を完全破壊と淘汰し、優れた人間だけを怪人にして、死の恐怖がない5万年以上の生命を持つ改造怪人だけの世界を創ろうと暗躍を続けていた、創世王が統治する暗黒結社である。

太古の昔より存在する秘密組織で、人類が生まれる前から地球を支配しており、5万年前に一度人類文明を破壊した事もある。

ゴルゴムには怪人達だけではなく、ゴルゴムメンバーと呼ばれる人間達もいる。
ゴルゴムメンバーは大物政治家、タカ派の弁護士、優秀な科学者、はたまた芸能界やスポーツ業界の実力者と錚々たる顔ぶれが参加し、世界を裏から操っていた。

例えば自由民主党国会議員の麻生茂副総理、読売ジャイアンツ監督の原辰徳もゴルゴムメンバーなのである。

ゴルゴムでは5万年に一度、キングストーンを持つ2人の世紀王を闘わせ、勝った方を次期創世王にするのだが、その世紀王に選ばれたのが南光太郎、そして秋月信彦だったのだ。


光太郎「父さん達は殺されたんだ!ゴルゴムに!」

光太郎の両親は光太郎が3歳の時、飛行機事故で亡くなった。
搭乗していなかった光太郎だけが難を逃れ、光太郎は孤児院に預けられる事となった。

光太郎の亡き父親は考古学者であり、ゴルゴムより資金援助を条件にゴルゴムメンバーになる事を求められた。
しかし彼はそれをキッパリと断った。
その為にゴルゴムの仕組んだ飛行機事故によって命を落としてしまったのだ。

信彦の父親もそうだった。

信彦の亡き父親は画家であり、同様にゴルゴムからの誘いを断った為、夫人共々 信彦が3歳の時に、ゴルゴムが仕組んだ交通事故によって亡くなっていたのだ。
光太郎と時を同じくして信彦も孤児院育ちとなった。

一方、杉本哲太は....


光太郎の亡き父の高校の後輩でもある杉本はプロボクシングの道へと進み、WBAミドル級世界スーパー王者に輝いた。

その後 現役を引退し、指導者の道を決めて自身のジムを立ち上げた。

しかしその経営は思うように上手くは行かなかった。
資金難となり、杉本はジムを閉鎖する事も考えたが、そんな時にゴルゴムから資金援助の申し出があったのだ。
それは、光太郎の両親と信彦の両親がゴルゴムによって殺された直後の事だった。

光太郎の父親と信彦の父親がゴルゴムの誘いを断ったのに対し、杉本はゴルゴムの誘いに乗ってしまった。
そしてそれは、ゴルゴムのメンバーになる事も意味していた。

光太郎「何故です!何でゴルゴムなんかに!」

杉本「ゴルゴムからは逃れられん!一度目を付けられたらもう....。だから私は、奴らに従うしかなかったんだ....」

南 光太郎(左)、杉本 哲太(右)

杉本は、ゴルゴムを悪魔の集団と嫌悪しており、従いたくてゴルゴムに従ったのではなかった。
杉本が言った通り、一度ゴルゴムに目を付けられた者は逃れる事は出来なかったのだ。

杉本は己自身や親族達の身を守る為に、やむなくゴルゴムのメンバーとなりその命にも従っていたのだ。

杉本が光太郎、そして信彦がいた孤児院をも度々訪れ多額の寄付を行っていたのもゴルゴムの指示だった。
その真の目的は次期創世王候補である光太郎と信彦の監視だったのだ。

活発で子供の頃から喧嘩が強かった光太郎のみならず、元々大人しく当初はボクシングには乗り気でなかった信彦まで、やや強引な形で自身のボクシングジムに招き入れたのもその為だっだ。

光太郎「先生、貴方は最初から、俺と信彦が改造される事も了承していたのですか!」

杉本「ああ、その通りだ。だが人間としての記憶は消さない、それが約束だった」

しかしゴルゴムは最初から、そんな約束など守るつもりはなかった。
杉本はゴルゴムに騙されていたのだ。

そんな杉本に、その事を吹き込んだ者がいた....


速水「アポイントも取らずに突然失礼致します。杉本コーチはお出ででしょうか?」

剛田「おりますがご入会の方でしょうか?」

光太郎と信彦が19歳の誕生日を迎える少し前、杉本ボクシングジムに速水京介という男性が訪ねて来た。

最初に応対したのは練習生筆頭の剛田徹だったが、速水はスーツをスマートに着こなす礼儀正しい青年だった。

速水「いえ、そうではございません。少しお話したい事がございまして....」

剛田「申し訳ございませんが、今は立て込んでおりまして....」

速水「そうですか、では待たせて頂いてもよろしいでしょうか?」

剛田「いえ、それでは申し訳が立ちません。呼んで参ります」

剛田はすぐさま杉本を呼びに行こうとしたが、速水はそれを断り業務が終わるまで待つと言った。

速水「いや、私の事はお気になさらずに。アポも取らずにこちらが勝手に来ただけですから、お気遣いは無用です」

剛田「はあ....。では暫くお待ちください....」

応対した剛田は少し呆れていたが、速水はその場に留まりずっと待っていた。


杉本「大変お待たせを致して、申し訳ございません!」

速水「いえいえ。こちらの方こそお仕事の邪魔を致しまして、本当に申し訳ございません」

杉本は一度熱が入ると中々それが止まらないのだ。
相手を待たしていると分かっていながらそれが止められないというのが、少々 杉本の悪い癖だった。

しかし速水は気分を害した様子もなく、ようやく応対に来た杉本に深々とお辞儀をした。
そんな速水の印象は杉本から見て、本当に非の打ち所のない好青年だった。

杉本「ところでご用件というのは?」

速水「実は少し、杉本コーチのお耳に入れておきたい事がございまして....」

杉本「はて、それは一体?」

最初の印象は悪くはなかったが、次の瞬間には杉本はこの速水に何か妙な物を感じた。

速水「ここでは何です。少し場所を変えて話しませんか?」

速水は場所を変え、杉本とふたりだけで話をしたいと提案して来た....


杉本「こんな所にまで連れ出して、一体何の用なのですか?」

速水は杉本を、少し離れた公園まで連れ出した。
ふたり以外に人は誰も居なかった。

速水「私がこれから言う事、誰かに聞かれては貴方も困るでしょう」

杉本「どういう意味ですかそれ?」

速水「杉本さん、貴方は騙されていますよ、あの御方達に....」

杉本「えっ!」

突然に何を言い出すのか!
杉本は速水の言ったその意味が分からなかったが、速水は構わずに続けた。

速水「お互いに隠すのはやめましょう。杉本さん、貴方もゴルゴムのメンバーでしょ」

杉本「何故それを!君は一体何者だ!」

杉本は身構えた。
その事を知っているのは限られた者達だけだった。
場合によってはこの速水をこのまま帰すわけには行かない!と、杉本は思った。

そんな殺気立った様子の杉本だったが、速水は平然と落ち着いて続けた。

速水「そんな物騒な考えは止しましょう。ご安心ください、私もそのゴルゴムのメンバーですから。まあ新参の若輩者ですから、貴方がご存知なかったのも無理はない....」

速水も杉本と同様、自分もゴルゴムのメンバーだと言った。

速水 京介

速水「貴方の教え子、いや、保身の為に利用している次期創世王候補の南光太郎と秋月信彦、近く19歳の誕生日に改造される事は貴方も承知されていますよね」

杉本「そうだ....。こんな私の事を、悪魔の手先だとでも罵りにでも来たのか....」

杉本は光太郎と信彦が世紀王として改造される事を黙認していた。
だが、ふたりに対して愛情を抱いてた事も紛れもなく事実だった。

杉本は光太郎と信彦を、本当に自分の息子達のように思い、その成長を見守って来た。
出来る事ならそんな事などしたくはなかった。
普通の人間としてそれぞれ夢を叶え、愛する者とも結ばれて、穏やかに幸せな人生を送らせてやりたかった。

しかしゴルゴムには逆らえなかった。
せめて人間としての記憶だけは消さないで欲しい!
それがダロム、バラオム、ビシュムの3人の大神官に対して杉本が、やっとの事で漕ぎ着けた条件だった。

速水「人間としての記憶は消さない....。甘いですね杉本さん。大神官様がそんな約束守るとでも本気でお思いなのですか?」

杉本「何だと!では、まさか!」

速水の言う通りだった。
大神官達は口約束だけで、光太郎と信彦の記憶まで消そうとしていたのだ。

杉本「何という事だ!」

杉本は愕然とした。
最早 後の祭りだった。

こうなれば脳改造手術をされる前にそれを阻止するしかない!

杉本はそう決意し、そしてあの改造手術の夜、あの研究所に乱入したのであった....


杉本「光太郎、私の事、さぞかし許せないであろうな....」

光太郎「当たり前ですよ!貴方は保身の為に俺達をゴルゴムに売った!でも俺はそれでも、貴方が嫌いになれない!貴方の事が大好きなんだ!」

光太郎は、杉本を憎む事がどうしても出来なかった。
今まで父親代わりのように育ててくれた事の恩、そしてそうしなければ生き延びられなかった杉本の苦しみもよく分かったからだ。

杉本「ありがとう、光太郎....」

光太郎の想いに、杉本は深くうなだれた。

光太郎「先生、ゴルゴムは選ばれた人間達だけを怪人に変え、怪人だけの世界を作ろうとしている。では選ばれなかったその他の人達はどうなるんですか!」

杉本「お前の思っている通りだよ、光太郎...」

怪人にならなかった人間達は、ゴルゴムによって皆殺しにされるのである....

光太郎「そんな事が許されるものか!人を怪人に変え、そして罪無き人達を苦しめ命を奪うなんて!」

杉本「私はそれを知りながら奴らに加担していた....。最低だ!」

光太郎「先生、償いたいと思うなら闘うべきです!今からでも遅くはない、俺と一緒に闘いましょうゴルゴムと!」

バッタ怪人(南 光太郎)

改造人間という呪われた身体となってしまった光太郎....

しかし、それを嘆いている暇など無かった。
ゴルゴムの恐ろしき野望を知った光太郎は、ゴルゴムと闘う事を決意していた。

ゴルゴムから人々を守る為、そしてゴルゴムに囚えられたままの友 信彦を救い出す為に!

杉本「やはり南光太郎だな、そう言うと思ったよ。師として、いや父として、私はお前の事を心から誇りに思う。出来る事なら私も、お前と共に闘いたかった。だがもう私には、残された時間は無いようだ....」

光太郎「先生....」

杉本「うぐっ!ぐふうっ!!」

光太郎「せっ、先生!!」

次の瞬間、杉本は大きく血反吐を吐いて仰け反った。

光太郎を逃した杉本をゴルゴムが許す筈など無かった。
あの後 杉本は、ゴルゴムが開発した新薬を投与されていた。
それを投与された者はやがて死に至るのだ....


杉本「あの後 私はすぐさま処刑されてもおかしくはなかった....。だが大神官達はこれまでの功績を讃えると称して暫しの猶予をくれたのだ....。そしてお前もメッセージに気づいてくれた....。だからお陰で最後に真実を伝える事が出来た....」

光太郎「先生、喋っちゃダメだ!すぐに救急車を呼ぶから!だから頑張って!」

無理だと分かっていてもそう言わずにはいられなかった。
そんな光太郎に杉本は優しく微笑んだ。

杉本「光太郎、どうやらお別れの時だ....。だが間に合って良かった....」

光太郎「嫌だ!先生、いや父さん、死なないで!」

光太郎は泣きじゃくりながら、もう虫の息の杉本を強く抱き締めた。

杉本「頼んだぞ光太郎....。信彦を....。それから麻衣ちゃん事、しっかり守るのだぞ....。光太郎、本当にすまなかった....。それから、今まで本当にありがとう....」

光太郎は杉本のその言葉に頷き、更に強く杉本を抱き締めた。

光太郎「父さーん!うっ、うううう....」

杉本の身体は冷たくなって行き、そして光太郎の腕の中で息絶えた....


ジーザス「愚かだな。寛大なる大神官様より与えられた猶予の時間をこのような事に使うとは....」

光太郎「お前は!」

父とも敬愛していた杉本を喪い哀しみに打ちひしがれていた時、背後から聞き覚えのある声が聞こえ光太郎は振り向いた。
そこにはあの暴走族集団J・HARD総長、ジーザスが立っていた。

ジーザス「改造されたお気分はいかがですかな、世紀王ブラックサン様....」

光太郎「ブラックサンだと!」

ジーザスは光太郎の事をブラックサンと呼んだ。

ジーザス「ブラックサン様、ゴルゴムへお戻り下さい。貴方は選ばれしゴルゴムの王者、次期創世王候補なのですから」

光太郎「ふざけるな!」

ジーザス「ブラックサン様、どうあってもお聞き届け頂けませぬか....」

光太郎「当たり前だ!」

ジーザスは光太郎をゴルゴムに連れ戻しに来たようだったが、当然そうはいかない!

ジーザス

ジーザス「やれやれ、やはり無理か....。大神官様のご命令だったから一応は従ったが、そう言うと思っていたよ、南光太郎....」

光太郎「お前、人間じゃなかったんだな....」

ジーザス「フッ、お察しの通りだよ」

ジーザスは不敵に笑った。

光太郎「ジーザス、大神官達は先生にすぐには止めを刺さず暫しの猶予を与えた、そうだったな」

ジーザス「ああ、それが何か。まあ杉本も、それまでの功績があったからな。大神官様達のせめてものお情けだ」

光太郎は、ふてぶてしく笑うジーザスに鋭く言い放った。

光太郎「愚かなのはお前達の方だ!どうやら分かっていないようだな、それがお前達ゴルゴムにとって命取りだったという事を!」

ジーザス「何だと....」

杉本にすぐに止めを刺さずに延命した事。
確かにそれは、ゴルゴムにとって大きな誤算を意味していた....


光太郎「ジーザス、いやゴルゴム!ここで決着をつけてやる!」

目の間にいるのは人間ではない!
悪魔に魂を売り渡したこの男も最早 悪魔なのだ!
ここで奴を仕留めなければと光太郎は思った。

ジーザス「俺とまた勝負するか....。望むところだと言いたいところだが、今日は闘う為に来たのではない」

光太郎「怖気づいたのか!」

あの時は信彦とふたりがかりであったにも関わらず、常人を遥かに凌ぐジーザスを前に敗北を喫していた。
しかし今の光太郎は明らかにその時とは違っていた。

だがジーザスは、それに臆したのではない。
寧ろ、愉しんでいるのだ。

ジーザス「そう熱り立つな、我々ゴルゴムは逃げも隠れもしない。貴様はゴルゴムが討つべき敵となった。これよりゴルゴムの軍団が一斉に貴様を襲う事となる。その宣戦布告に来たのだ」

光太郎「だから、まずは最初にお前から血祭りに上げてやると言ってるんだ!」

ジーザス「フフ、また会おう....」

光太郎「おい!待て!」

光太郎は追いかけようとしたが、ジーザスは素早くそのまま去って行ってしまった。

光太郎「許さん、ゴルゴム!」

光太郎は血が滲み出る程に強く拳を握り締め、革のバイクグローブがギシギシと鳴った....

剣聖ビルゲニア(左)、国枝 一輝(右)

国枝「手筈通り、事が運びましたな、剣聖ビルゲニア様....」

光太郎は気づいてはいなかったが、この様子を隠れて見ていた者達がいた。

元少年ゲリラの殺し屋 国枝一輝と、そしてゴルゴムの勇者 剣聖ビルゲニアだった。

ビルゲニア「次期創世王となるのはブラックサンでもシャドームーンでもない!この剣聖ビルゲニアだ!」

杉本哲太をけしかけた速水京介という青年は、ビルゲニアが人間に化けた姿だった。
次期創世王の座を狙うビルゲニアにとって、当然ながら光太郎と信彦は邪魔な存在だった。

ブラックサンとシャドームーンをゴルゴムから追い出し始末する....
それがビルゲニアの狙いだったのだ。

その目論見通り光太郎ことブラックサンはゴルゴムから離散し、怪人達に狙われる身となった。
しかしこのビルゲニアにも、ふたつの誤算があった。

ひとつは、重症を負った為に信彦ことシャドームーンがゴルゴムに取り残されてしまった事、そしてもうひとつは、大神官達が杉本をすぐには処刑せず、その為 ゴルゴムの野望を光太郎が知ってしまった事である。

国枝「ブラックサンがどう足掻こうが、奴の命運は尽きたも同然。してビルゲニア様、シャドームーンの事はいかがなされます?」

ビルゲニア「恐れるに足りぬ。恐らく奴はすぐには目覚めぬ。いや、もしかしたらもう目覚めぬやもしれぬな。だがもし目覚めたとしても造作もない。私自らこの手で討ち取り、シャドームーンの首を刎ねる!」

ブラックサン、シャドームーン、そして剣聖ビルゲニアか....

次期創世王となれるはただひとりのみである....

(続く)